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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第一章
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第五話 事件の黒幕

 二人が悪霊を倒した翌日の教室。

 透人は紅輝の隣に立ち、周りのクラスメイトに聞こえないような声で話しかけた。


 笑亜がいない事に気づいた後、透人は辺りを探したのだが見つけられなかった。

 そこで、この事も含めて笑亜を置いていった理由を二人に聞こうと思っていたのだが、その答えを聞いて透人は言葉を失い固まった。


「あぁ? 神無月さん? そういや、確かに似てたような気もするな。でも別人だったろ」


 透人は昨日の紅輝の言葉を思いだしてみたが確かに知り合いに対するものではなかったように思える。自分の方が間違っていたかと不安になった時、さらに驚く事を聞かされた。


「それに、誰だったにせよ御上の奴が仲間呼んで連れてっただろ」

「……ん、……うん、そうだったね」


 透人はそこで話を終え自分の席に戻った。


「ねえ、何の話してたの? また危ない事でもやったの?」

「あぁ? 澄には関係ないだろ。余計な事聞くな」

「はぁ!? 何よその態度!」


 前の方が何だか騒がしかったが透人は気にせず考えに集中していた。


 まさか清慈郎に記憶が書き換えられたのか。

 だがその場合何故自分は無事なのか。

 そもそもその行為に何の意味があるのか。

 やっぱり清慈郎にしか答えは解らないか。


 そこで清慈郎の席、教室の廊下側を見るとちょうど笑亜が教室に入ってくるところだった。

 その様子は普段と変わらないもので昨日何か特別な事があったと感じさせなかった。

 透人は先にこちらに話を聞こうと隣に座った笑亜に話しかけた。


「神無月さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


 だが、その後の出来事は透人の予想を遥かに越えたものだった。


 笑亜は透人の方を向き微笑みを浮かべただけで口を開いてはいなかった。なのに、



『昨日の事件の真相を知りたいのなら放課後、理事長室にいらっしゃい』



 その言葉が透人の頭に直接響いたのだ。




 その日の放課後、透人は言葉の通りに理事長室に向かっていた。明らかに怪しかったが、一切迷う事無く従う事を選んだのだ。

 その道すがら透人はこの学校の理事長について思い出す。


 入学式で見た理事長は髪も髭も白くなっていたが体格はガッシリとしていた。それに動きも年齢を感じさせず、ただ者ではないという雰囲気がしたものだ。


 理事長室の前に着いた透人はすぐには入ろうとしなかった。その理由はこの部屋に勝手に入るのは流石にマズイよな、と思っていたからだったが、


「一体何をしているの、早く入ってきなさいよ」


 という声がしたので普通に入っていった。


 理事長室の中はまず正面に執務机、右側に本棚と隣の部屋への扉があった。そして応接用のテーブルの上にはティーセットがあり、ソファには笑亜が座っていた。


「とりあえず座って。話はそれからよ」


 その言葉に従い透人は笑亜の正面に座る。


「あの呼びかけに応じたのだから知りたいことがあるんでしょう?私に答えられる事なら何でも教えてあげるわよ」


 笑亜は紅茶を飲みながらそんな事を言った。

 そこで透人は最初の質問をする。


「まあ、とりあえずこの部屋で勝手な事していいの?」

「フフフ、勿論許可は貰っているわよ。でも、そんな事よりも気になる事があるでしょう?」


 笑亜は何もかもお見通しだというように透人の目を見ながら言った。

 透人は頭の中で知りたい事、昨日の事件に関係する事を整理すると本題に入った。


「じゃあまず、何でもって言ってたけど御上君がどうやって闘ってたかも知ってるの?」


「ええ、知っているわよ。そうね、どこから説明すればいいかしら。…貴方は悪霊の姿を見ているでしょう?」 

「ん? うん見えてたけど」


 透人は笑亜の意図は分からなかったが素直に答えた。


「あの姿はね、肉体の縛りから解き放たれた事で残った記憶や未練のイメージが魂の形を変えてしまったものなのよ。それと似たようなものでね、御上君の流派は修行によって自らの意思で魂の形を変える事に成功したのよ。そうやって自らの魂を武器のようにする事で悪霊に対抗しているの。他にも霊力を込めたお札を用いれば様々な術も使えるのだけれど、中でも浄霊は重要ね。人に取り憑いた悪霊はそうしないと退治出来ないもの」


 笑亜はそこで言葉を切り紅茶を口にする。その間に紅茶を飲みながら説明を聞いていた透人は質問する。


「じゃあ、悪霊を追い出す前から攻撃してたのはどういう事なの?」

「魂が物体に干渉するのは不可能。だから武器とした魂は肉体に干渉せずに直接魂を傷つけるのよ。魂が傷つけば肉体に悪影響を与えてしまうし、限界を超えれば意識を失うわ。肉体に守られていれば魂の傷は時間とともに癒えるのだけれど、それまでは無防備。安全に術を使うための準備ね」

「成程、炎で囲んだ後のってそういう事だったのか。で、他に何があったっけ? ああそうだ、悪霊に取り憑かれても俺の意識があったのは?」

「それは、魂が持つ力や自我の強さが悪霊と拮抗していたせいね。霊能力の素質がある人にはたまにあるのよ」

「じゃあ記憶が消えなかったのは?」


 その質問を聞いた笑亜は透人を真っ直ぐ見て微笑みを浮かべる。


「それは私にも分からないわ」

「ん、そうなの?」


 透人はがっかりしたような声を出した。


「まあ、推測するとしたら、実は今まで何度も記憶を消されていてそのせいで耐性が出来た、とか。何か心当たりはある?」

「う~ん、さあ?」

 透人に心当たりは無かった。記憶が消されているのなら当然だろう。

 笑亜も期待はしていなかったらしい。


「まあいいわ。それより他にも聞きたい事があるでしょう?」


 笑亜の言葉を聞いた透人は記憶の事は諦めて次の質問を考える。


「ん~。あ、そうだ。朝のここへの呼び出しってテレパシーなの?」

「ええ、そうよ。私も超能力者なのよ」


 透人はそれを聞くと腕を組み納得したように一人で頷いた。


「うん、大体聞いたしいいかな。今までとっておいた質問というか確認なんだけど」


 そこで言葉を切るといつもより若干真剣な顔をして笑亜を見据えた。


「昨日の事件の黒幕って神無月さんなの?」




 すると笑亜は妖しげな雰囲気の笑顔で言う。


「その通りよ。私が火口君をテレパシーで呼び出した上で、悪霊をわざと自分に憑依させて彼と闘うように仕向けたの。」


 そこまで言うと笑亜はため息をついた。


「……まあ、計画としては失敗してしまったのだけど」

「ん? そうなの?」


 透人は心底意外そうに言った。全て計画通りだと思っていたのだ。


「ええ、元々計画では御上君とは接触させない筈だったのよ。頃合いを見計らって私は逃げるつもりだったし」

「ん? 逃げていいの? いや、そもそも取り憑かれてたのに逃げれたの?」

「わざと憑依させたと言ったでしょう? コントロールを取り戻す位簡単よ。それに逃げる事にも問題は無いわ。今回の目的は闘わせる事じゃなくて、超能力以外にも裏の世界があると教える事だったのだから」

「え~と、どういう事?」


 常に落ち着いていた透人も少し混乱しているようだった。


「幽霊と超能力、どちらの関係者も世間に存在を知られないようにしているのよ。事件を隠蔽したり関わった者の記憶を消したりしてね。でもだからこそ、お互いの存在も知らないのよ。それで今回、超能力者である火口君にもう一つの裏の存在を教えてあげようとしたの」

「……それは何の為に?」

「残念だけど、今は言えないわ」


 冷たい目つきをして拒絶するように笑亜は言った。

 透人はその様子を見て聞き出す事を諦め他の質問をする。


「じゃあ何で火口君と御上君といっしょじゃなくて俺だけに教えてくれてるの?」

「それはね、あの場にいた三人の中で貴方が一番面白い存在だったからよ」

「俺が? ん~。俺がした事なんてストーキングに覗き見に説得に脅迫位だけど」


 昨日の事を思い出した透人は遊び半分でわざと悪い言い方を選んで言った。透人のその冗談が気にいったのか笑亜は可笑しそうに笑う。


「フフフフフ。まあ、それも面白いけれど違うわよ。問題は貴方が御上君を連れてきた事なのよ」


 身に覚えが無い透人は不思議そうに首をかしげた。


「ん? 別にそんな覚えはないんだけど」

「貴方、御上君の様子を伺っていたでしょう? それで不審に思った御上君が貴方の事を見張っていたのよ。その貴方が悪霊に近づいたせいで御上君も悪霊に気づいたの」

「幽霊の専門家なら普通に気づいたりしないの?」

「悪霊の動きが活発になるのは夜になってからよ。だから幽霊の関係者も夜になるまでは警戒していないのよ」

「成程、それもそう……かな? ……まあいいか。でも俺が面白いっていうより偶然じゃないの?」


 当然の透人の指摘を笑亜はバッサリ切り捨てる。


「いいえ、普通は関わる筈の無かった幽霊と超能力の関係者を結びつけたのだもの。それは偶然なんかじゃない。貴方はねそういう星の元に生まれたのよ」

「……今更だけど神無月さんは何で二つ共知ってるの? 普通は関わる筈が無いんじゃないの? 第三勢力って奴?」

「フフフ。そうね、私達は第零勢力ってところかしら」

「何で零?」

「その方が格好いいじゃない」


 笑亜は冗談めかして言う。透人は何かを隠していると感じたが、また答えてくれそうにないと判断する。


「私達って事は仲間がいるんだよね」

「ええ、勿論いるわよ」

「もしかしてこの部屋を使ってるのは理事長が仲間だから?」

「理事長先生は仲間というより私達のリーダーね。それにこの部屋は元々裏の世界についての話をするためにあるようなものなのよ。一般人はここで怪しい話し合いがされているなんて気がつかないでしょうね」


 そこで透人は黒幕だと確認するまで後回しにしていた今朝の疑問を思い出した。


「そういえば火口君は昨日闘ったのが神無月さんだって気づいてなかったみたいだけど」

「それはね顔を認識しにくくする術を使っていたのよ。知らない相手の方がやりやすいと思ってね。あくまで認識しにくくするだけだから分かる人にはばれてしまうのだけど」

「ん? 術って御上君がお札を使ってやったみたいなもの?」

「…まあそんな感じね」


 笑亜はハッキリせずに曖昧に答えた。

 透人はその事に引っ掛かりを感じたものの気になる質問を優先した。


「じゃあもしかして火口君の記憶も神無月さんが?」

「ええ、火口君と御上君の記憶は私がいじらせてもらったわ」

「やっぱり御上君もか。でも何で?」

「それはね計画を変更したからよ。元々は私が裏の世界の関係者を結びつける予定だったけれど、その役割は貴方に任せる事にしたから。それで私が関わっていたという痕跡は消させてもらったの」


 笑亜は口元は笑っているが目付きは真剣なものだった。

 本気で言っているのだと判断した透人は困惑する。


「……いや、任せるって言われても……。それに火口君と御上君はもうお互いを知ってるし」

「あら、裏の世界の人間が二人だけなんて言ってないわよ。それに役割についても心配しなくていいわ。貴方は普通に生活するだけでも裏の世界に巻き込まれるもの。そこを私達が監視させてもらうだけだから」

「つまり俺の意思は関係無いと」

「まあ、そうなるわね。貴方に選択できるのは私に報告するかしないか、位かしら。ちなみに私は放課後いつもここにいるから」


 透人が答えを出すのにほとんど時間はかからなかった。


 逃げられないから諦めたというのもあるが、そもそもこの話を聞く前から裏の世界に首を突っ込んでいるのである。

 今更迷う理由は無かった。


「わかった。何かあったらここにくるよ」


 透人の答えに笑亜は満足そうに笑う。



  *



 透人が出ていった後隣の部屋に通じる扉から一人の老人が入ってきた。


「ずいぶん中途半端な説明だったな」

「あら、理事長先生。盗み聞きするくらいなら最初から混ざれば良かったのに」


 その言葉に理事長は肩をすくめる。


「いやいや、気を使ったつもりなんだがな。それより何で全部説明しなかったんだ?」

「中途半端な知識を持った状態で未知に遭遇した時の反応を見てみたいと思ったのよ。」


 そこで笑亜は期待に満ちた眼差しを窓の外に向ける。


「彼は多分私の想像を超えてくれるでしょうから」

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