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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第一章

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第四話 ヒーロー二人とエキストラ

「ああぁぁ!? もう一人増えちまったよ! いや、つか仕事とか専門家って一体何だよ!? オレはどうすればいいんだよ!?」


 紅輝は頭を抱えて混乱していた。

 その叫びは答えを求めてのものではなかったが透人は普段の会話のように答える。


「ん~と、だから、幽霊の専門家だけど」


 透人は清滋郎が来た今、彼に任せるよう説得しようと思っていた。だからストレートに真実を言ったのだが。

 紅輝には何言ってんだコイツ、というような表情をされてしまった。

 しかし、透人の言葉を聞いたのは紅輝だけではない。近くまで来た清滋郎が厳しい顔で質問する。


「おい明海、まさか昨日の事覚えているのか?」

「ん? うん。そうだけど」


 重要な話を軽く答えられた清滋郎は色々な意味で絶句した。

 しかしすぐに気を取り直して透人に告げる。


「覚えているなら話は早い。火口を連れて離れていろ」


 しかし、その言葉に反応したのは透人ではなく混乱から落ち着いてきた紅輝だった。


「おい、離れてろってどういう事だ。お前の方が今は関係ないだろ」

「いやいや、実は火口君の方が関係………ん?」


 紅輝を説得しようとした透人だったが、途中である事を思い付く。


「………いや、あるかな?」

「おい、一体何を言っている?」


 清慈郎は透人の言葉に疑問を抱くが透人は全く気にせず自分の思い付きを語る。


「昨日と同じなら悪霊を追い出すのに近づかないといけないんでしょ。だからそれまでのサポートを火口君に頼めばいいんじゃない?」


 その提案に清慈郎は眉を寄せ考える素振りを見せたが、


「必要無い。これは俺の仕事だ。一般人が関わろうとするな」


 そう冷たく言い残し走りだしてしまった。




「う~ん。御上君はああ言ってるけど火口君勝手に手助けしない?」


 清慈郎を見送りながら透人は紅輝に問いかける。しかし話についてこれなかった紅輝はそれには答えず質問で返す。


「事情を知ってんなら教えてくれよ。アイツは何なんだ? 今回と昨日の事って何か関係あんのか?」


 透人は質問に答えようと口を開きかけたが途中で思い直して黙ってしまった。

 そのまま腕を組みしばらく考えた後、紅輝に取引を持ちかけることにした。


「うん、火口君が御上君に協力してくれたら教えてあげるよ」

「あんな奴助けなくていいだろ。本人が必要無いって言ってんだから」


 紅輝は顔をしかめる。どうやら乗り気ではないようだが、透人の話はまだ終わっていなかった。


「じゃあ一人で行くから火だけちょうだい」

「あぁ!? そんな事して無事で済むと思ってんのか!?」

「まあ無事で済まないかもしれないけど。でも助けられたら問題ないよね」


 紅輝は驚きつつ透人を見据える。ただのハッタリだとも思うがそれより気になる事がある。


「どうしてそこまでして助けたいんだ?」

「ん~と、………何となく?」

「あぁ!?」

「……あぁ、うん、二人の方が安全確実だから?」


 透人は適当に答えた後、とってつけたような理由を言った。

 紅輝は透人の言葉からは真意が解らず表情から読み取ろうとした。


 透人はのんびりとした雰囲気があるようで何をしでかすか分からない危うさも感じさせる。さっきの言葉はハッタリでなく本気でやりかねないとも思えてくる。さらにずっと表情に変化がなくほぼ真顔のままで、何を考えているのか読み取る事はできなかった。


 やがて紅輝は諦めたように溜め息をついた。



  *



 イレギュラーな事態があったがいつもと同じ、ただ悪霊を滅するだけだ。


 余計な事は頭の片隅に置き集中した清慈郎は自分のすべき仕事を為すため敵に向かっていた。

 そこに自然のものでない吹雪が吹き荒れる。

 だが清慈郎は落ち着いたまま左手でポケットからお札を取りだし前に掲げる。


「防」


 その言葉とともに発生した見えない壁が吹雪を止め、消滅させる。


「人に憑依した状態でこれ程のものを具現化するか、かなり強力な悪霊だな」


 清慈郎は相手の力を量りつつ空いた右手で攻撃を仕掛けた。だがまっすぐのびるだけの"刃"はあっさりと避けられてしまう。

 まだ遠い、清慈郎はそう判断し確実に当てるためさらに距離を詰めようとする。さっきの攻撃は避けられたとはいえ相手の攻撃を中断させていた。その隙に走り出したが相手も体勢を立て直し対応する。


 右手で牽制しつつ危ない時は左手で防御する。それを続けてもう少しで相手を追い詰められるという時、清慈郎は上空からパキパキという音を聞いた。

 不審に思った清慈郎が見上げるとそこには巨大な氷の塊があった。それが真下の清慈郎へ向かって落ちてきた。


「防!」


 避けられないと判断し左手のお札を真上へ掲げる。いくら巨大でも幽霊の仕業である以上問題無い。それよりも直前まで気づかなかった事を反省する清慈郎だったが、視線を下げた時相手の方から近づいてきていた事に気づく。


「チッ!」


 そして吹雪が左手を封じられた清慈郎を襲う。

 間に合わないと思いながらも右手でお札を掴んだ時、


 清慈郎の視界は紅い炎に包まれた。



  *



「マジでアレ超能力じゃないのか?」


 巨大な氷の塊を溶かし蒸発させる程の炎を出しながら紅輝は透人に尋ねる。


「うん、御上君も言ってたし悪霊が取り憑いてるのは間違い無いみたいだね」

「そうか……マジでオレ関係無いのか……ん? 何か忘れてるような……」


 そう呟き頭を抱える紅輝に透人が呑気に指示を出す。


「じゃあ次は逃げられないように炎で囲んでみようか」

「何でお前の指図を受けないといけないんだよ! それにな、距離が離れた炎を操作するのは難しいんだよ!」


 そう言いつつも透人の指示には従ってくれるようで悪霊の攻撃を溶かしたままその場で燃え続けていた炎を動かしていく。

 まず炎の壁は笑亜の背後に回り込み逃げ道を塞いだ。だがまだ包囲は完成していない。空いている部分から逃げ出そうと動いていた。

 だがそこに自由になった清慈郎の"刃"が襲いかかり包囲の中へと後退させた。


 そうして炎の円に閉じ込める事に成功した。中では吹雪が荒れ狂い炎を消そうとしているようだが弱まる様子もなく燃え盛っていた。


「あぁ、頭痛え。力の使いすぎだな。

 で、これからどうすんだよ」

「御上君に任せるよ。それより超能力って使いすぎると頭に負担かかるの?」

「まあ、確かにそんな感」

「あ、御上君動いた」

「話聞けよ!」


 そんなやりとりをよそに清慈郎は炎の前まで進むと"刃"ののびる腕を水平に振った。そして紅輝に向かって言う。


「おい、炎を消せ」

「だからオレに指図すんなよ!」


 反抗的な言葉を言いつつも炎は消えた。清慈郎は気に食わないが透人の話を聞いて専門家に任せるしかないと判断したようだ。


 炎が消え、見えたのは地面に倒れる笑亜の姿。清次郎は先程使っていたものとは違うお札を取りだし笑亜の額に当てると悪霊を祓った。


「浄」


 バシイィッ


 すると笑亜の真上に、取り憑いていた悪霊が表れた。その姿は全体的にほっそりとしていて、髪も肌も全てが真っ白でまるで雪女のようだった。


「サ……アア……」


 悪霊は途切れ途切れにうめくだけで身動き一つしない。

 その悪霊に向かって清慈郎は"刃"を振り上げ、集中した後一気に降り下ろす。

 "刃"はあっさりと悪霊を通り抜け袈裟掛けに切り裂かれた悪霊は消滅していった。




「おい、もしかして終わったのか?」


 困惑した様子の紅輝は透人に尋ねた。


「うん、御上君が悪霊倒したみたい」

「マジで幽霊見えるのかよ」

「うん………うん? 何で見えてんだろ?」

「あぁ? おいどういう事だよ」

「今までは別に見たこと無かったんだけど、って昨日の一件が原因か」


 透人は一人で勝手に納得して頷いている。

 紅輝はそんな透人を呆れたように見ていた。


「それよりまだ全部説明されてないぞ。悪霊ってのは全部あんな事ができんのか」

「さあ? 少なくとも昨日のは能力みたいなのは使ってなかったけど。俺もよく知らない」

「おい! そんなんでよく……」


「今回は恐らく凍死した人間の魂が悪霊化したものだ」


 透人の適当な言葉への紅輝の抗議の声は仕事を終え戻ってきた清慈郎によって遮られた。


「あれ、教えてくれるの? 昨日は問答無用で記憶消そうとしたのに」


 そう言った透人を黙っていろというように睨みつけてから清慈郎は説明を続けた。


「そもそも悪霊というのは死者の魂がこの世に留まり続ける内に生前の記憶や人格を失った存在の事だ。

 それらを失うと生者になりかわろうとしたり、完全に理性を失いただ無差別に暴れたりするようになる。

 そんな中強烈な体験、特に死に際の記憶は最後まで残っている事が多い。だが特定の記憶だけが残っているとそれが霊にとっての全てとなる。やがて何度も繰り返された記憶のイメージはこの世に具現化される。

 今回は理性がほぼ無い状態だったからこの世に相当の年月留まっていたんだろう。長く存在している程魂が持つ力は強くなる。その強まった力でイメージを具現化したのが今回の吹雪や氷という訳だ」


 そこで言葉を区切ると紅輝を真正面から鋭い目で見つめて言う放つ。


「こちらの情報は教えてやった。だから答えろ。貴様は一体何者だ?」

「成程、そのために教えてくれたのか。でもまだ知りたい事は残ってるし、さっきのも分かりにくかったからもう一回」

 清慈郎はもう一度、より鋭い目で透人を睨みつけた後紅輝に向き直る。


「それでどうなんだ」


 紅輝は顔をしかめて悩んでいたが、しばらくすると清慈郎を睨み返して前に出した手のひらの上に火を灯した。


「オレは超能力者だ。それでコレはパイロキネシス、聞いた事位あるだろ」


「そうか超能力者か……」


 清慈郎は目を見開いて呟いた。

 ただしすぐに鋭い目付きに戻ってこう言った。


「今回助けられたとはいえやはり関係無い者は関わるべきじゃない。例え闘う力を持っていたとしてもな」


「こっちももうお前なんて助けるつもりはねえよ」


 二人は険悪な雰囲気で睨みあいを続けていたがやがて清慈郎が先に口を開いた。


「俺の仲間には超能力の事は隠しておく。自分の目で見ないと信じられ無いだろうからな。……それとお前ももう首を突っ込もうとするな」


 最後に透人の方を見て言うと工場の敷地から出ていった。


「カッコつけやがって。何様のつもりだ」


 清慈郎が見えなくなると紅輝は吐き捨てるように言った。


「う~ん、まだ知りたい事があったのになぁ。もう教えてくれそうにないなぁ」


 そう呑気な事を言う透人に紅輝は真剣な顔を向けた。


「オレももう帰るけどな。お前、これ以上余計な事詮索しない方が身のためだぞ。」


 警告を残し紅輝もまたこの場をあとにした。


 そして一人残された透人はというと、


「これ以上は火口君も教えてくれないかなぁ。でも直接聞く以外に方法ないよなぁ」


 まだ気になる事を諦めていないようだった。そのままどうやって調べるか考えていたがひとつ重要な存在を忘れていた事を思い出した。


「二人共神無月さん置いてったな」


 そう、清慈郎が悪霊を祓ってから笑亜については一切触れていなかったのである。


 どうすればいいだろう。目が覚めるのを待って送っていくのが常識的だろうか。


 そう考えながら笑亜が倒れていた位置に目を向けたがそこに笑亜の姿は無かった。



  *



 姿を消した笑亜は工場の近くの人気の無い路地を歩きながら電話で話をしていた。


「もしもし、理事長先生?」

『むう、その呼び方はまだ慣れんな。別に今まで通りでいいんじゃないか』

「フフフ、いいじゃない、私は気にいってるわよ。……それより今回の計画、失敗したわ」

『どういう事だ? 君なら多少のアドリブ位問題無いだろう』

「それがね、イレギュラーが乱入してきたのよ」

『……そうか、我々の同類か』

「ええ、その通り。新しいお仲間よ。おかげで計画以上に面白くなってくれたわ」

 ヒーロー達の闘いに区切りがついたので、次回は黒幕メインの説明回の予定です。

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