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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第八章

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第四十八話 それぞれの武器

 周囲に群れる幾多の獣、それから自らの身の丈を裕に超える怪物を前にして、玄堂金悟は笑っていた。


 別に恐ろしさがない訳ではない。だが、それを隠す為の虚勢では断じてない。

 笑みの理由は強敵を前にした気分の昂り。喧嘩に明け暮れていた時期から変わらないものだ。命がかかっていても、かかっているからこそ、胸に灯る炎は熱く燃え上がる。


 ただ、それ以外にも理由はある。

 自分の行動が恩人である良子の為になると思うと、自然と気分が高まるのだ。

 良子は今頃怪我人の手当てを始めている筈だ。

 その邪魔をさせる訳にはいかない。通す訳にはいかない。

 相手がどんなに強大だろうとも。


「上等ォ!!」


 気合いを入れた金悟はポケットから鍵を取り出した。細かな装飾が施された黒い鍵だ。

 そして高らかに叫ぶ。


「行くぜ『黒鉄刀匠(ザングラ)』ァ!」


 すると、黒い鍵がまばゆい光を放った。その光の中で鍵のシルエットは変貌を遂げていく。

 発光していたのは時間にしてほんの一秒。

 その後、光が収まった時に鍵の代わりに金悟が握っていたものは、緩い反りを持った細長い筒のような黒い物だった。日本刀の鞘に近い形だ。ただし、収まるべき刀身はなく鞘だけである。

 それでもお構い無しに金悟は鞘をベルトに差し、前方へと走り込む。

 そこに立ち塞がるのは動きの鈍い大型ではなく、通常の獣。小柄な人の形をした、倒すべき敵だ。


 金悟には武器もなしに挑みかかるような愚かな考えはない。

 敵を見据える瞳には強い意思、闘志だけがある。

 その闘志のまま、迷いも躊躇もない流れるような行動をとる。

 まず鞘の鯉口の手前、本来なら柄がある部分に手を添え、そして一呼吸をおいた後に刀を抜き放つような動作で腕を振った。


「オラァ!!」


 金悟の行為によりもたらされたのは、真っ二つに両断され消えていく獣。

 

 金悟がそれを為せたのは、手に漆黒の剣を握っていたからだ。

 それは鞘に収まる筈もない巨大な剣。全長は金悟の肩の高さと同じ位で幅も広い。日本刀とは似ても似つかない、どちらかといえば西洋の両手剣に近い代物だ。


 その大剣を金悟は両手で握り直し、再び駆ける。

 しかし、目標に到達する前に頭上から巨大な蹄が迫ってきた。その先のがっしりした腕は人の胴体程に太い。

 当たれば最低でも大怪我は免れないだろうその攻撃を、金悟は脚力にものをいわせた加速で振り切る。半ば転げるかのように前進し、背後に衝撃を感じたところで安心しつつ勢いを緩めた。

 獣は体が大きすぎるのか、動作が緩慢で追撃の姿勢がとれていない。

 チャンスとばかりに脚を斬りつける。ただし、剣道の経験すらない金悟に洗練された技術はない。ただただ力任せに殴りつけるだけだ。

 それでも重量のある大剣のおかげか、刃は脚の三分の一まで到達する。が、そこで止まり両断出来ない。それどころか厚い筋肉に食い込み、抜けなくなってしまった。


「チッ。堅ぇな」


 その間に態勢を立て直した獣が斬りつけられた脚を持ち上げたので、金悟はあっさりと大剣から手を離した。

 それから急いでその場を離れる。

 直後に震動。獣による踏みつけだ。直撃は免れても、立っていられない程の衝撃が金悟を襲う。

 そこに更なる脅威が迫る。獣はもう一方の脚で蹴りつけようとしてきたのだ。

 素早く立ち上がったが、態勢を一度崩されてしまったので完全に避ける事は難しい。


 刻一刻と近づいてくる死の可能性。

 人を超えた怪物が振るう猛威。

 それを、金悟は避けようとしない。

 脚が叩きつけられた際に大剣は何処かへ飛んでいってしまったが、問題無い。

 今度は鞘に両手を添えた金悟は昂る感情に身を任せ、辺りに響き渡る大声で吼えた。


「ウオオォオォォラァ!!」


 そして、脅威を迎え撃つ。

 再び現れた大剣を、蹄状になっている爪先に叩きつけた。

 筋力も気力も総動員したが、均衡は一瞬にも満たない。

 しかし、そのぶつかり合いにより僅かに軌道をずらし、反動で逆方向へ移動する。

 ギリギリで回避した。

 息は荒いし、顔には冷や汗をかいている。その上、心臓は早鐘を打っている。

 ただ、金悟の表情に、恐怖や絶望といった感情は気配すら存在していなかった。


「まだまだ足りねえなぁ! こんなもんじゃ俺は殺せねぇぞ牛頭ぁ!!」


 不敵な笑みを浮かべた金悟は怪物相手に喧嘩を売る。



  *



 巨大なモンスターを相手に一対一の闘いを繰り広げる金悟。

 その立ち位置から十メートル程後ろでもう一つの戦闘が発生していた。


 四方から寄せてくる異形の群れを、赤銅の猫が一体で凌いでいる。

 猫はある一点を中心とした半円のラインを駆け回り、近づいてきた獣から順々に爪で引き裂いていく。

 その中心にいるのは建物を背にして怪我をした男性の応急処置をしている良子。傍に立つ透人も含めた三人を守るようにして猫は戦っていた。


 透人は二つの戦闘を眺めながら得た情報を整理する。


「ふーむ。成程」


 どうやらこの世界ではそれぞれが専用の武器を使ってモンスターと闘うらしい。

 その武器が管理者の証。

 金悟が持っている鞘は武器を精製する能力を持っているという感じか。良子の猫は特殊なタイプなのだろう。


 ただ、最も重要な情報はそれではない。

 重要なのは、金悟の鞘は変化する前は鍵だったという点だ。

 つまり、透人がモンスターを倒した際に現れた白っぽい鍵が管理者の証なのだ。


 敵に囲まれたこの状況。透人はいざとなれば魔法や超能力を使う気でいたが、どうやらバレる心配なく手を貸す事が出来るようだ。


 もっとも、今現在は良子の猫だけでも問題はない。

 群れるモンスターの襲撃をしなやかにかわし続け、反撃を見舞う。その動きは風の様に速く、爪は剣の如く鋭い。引っ掻くなんてレベルではおさまりきらない斬撃が幾筋も閃き、それを受けた襲撃者が次々と形を崩してゆく。


 しかし、金悟の方は問題がありそうだ。

 靄がかかっているので霊視でしか解らないが、一進一退の攻防に視える。

 ただし、所々で少々危なっかしい。

 猫には余裕があるが、金悟は常に限界ギリギリの力で戦っているようにも見える。


 手助けが必要だとするなら此方の方か。


 しかし、どうすれば鍵を変化させられるのか解らない。

 いくら鍵を眺めていても、振ったり叩いたりしてみても反応しない。

 良子に聞けば早いのだろうが、必死な顔で男性の手当てをしているので声をかけるのがはばかられるのだ。


 だからといって見ているだけでいいのか。

 確かに透人の力は必要ないかもしれない。見ているだけで解決するかもしれない。わざわざ危ない橋を渡る必要はない。

 それでも、身の安全より頭と心が求める事柄を優先するのが透人なのだ。

 傍観者でいるより参加者でいたい。


 こうなったら仕方ない。こっそり魔法でも使おう。


 そう決心した時、頭の中にある言葉が浮かんだ。聞いた事のない単語だ。

 疑問に思ったが、金悟も鍵を変化させる時に何かを言っていた事を思い出した。

 となれば、この言葉が必要なのか。

 そう根拠もないのに確信した。


「言わなきゃ駄目かなぁ……」


 しかし、透人は気乗りしていない声で呟いた。ただ、現在の状況を考えたらすぐにどうでも良くなった。


「ま、いっか。……『貪欲なる旅人(ワンダーヨーカー)』?」


 すると白っぽい鍵が光を放った。透人の前で鍵が変化を遂げていく。

 そして光が消えた時、透人が手にしていたのは鍵と同じ色をしたリング状の物体。外周の直径は二十センチ程、太さは五センチ位で握るのに丁度いい。

 それは形といい、色といい、例えるならば相応しいものがあった。


「蛍光灯?」


 とても武器には見えない。どうやって戦えというのか。

 透人はしばし困惑したものの、とりあえずフリスビーのように投げてみた。

 標的は猫が守る範囲から少し離れたところにいる、二足歩行している羊型のモンスター。

 投げられたリングは弧を描いきつつ狙いに迫り、そして命中した。

 が、聞こえたのはコンという弱々しい音。羊型のモンスターは多少ぐらついただけで、何事もなかったかのように進行を続けている。


「うん。弱いな」


 ただ、投げたリングは命中した後、方向転換して自動的に手元に戻ってきた。それだけがこの武器の能力だとしたら余りにも情けない。

 というより、意味が無い。リングは軽いので、問題なくサイコキネシスを使えるのだ。

 ということで次は超能力を併用してみる。どうせ金悟も良子も見ていないし、もし見られてもそれがリングの能力だと言えば納得して貰える気がする。

 再び羊型のモンスターにリングを投げた。今度は命中したリングを操作して何回もぶつける。

 数回程度では役に立たなくても何十回も繰り返せば多少は効果がある筈。

 そう思っていたのだが、結果は予想とは大きく違っていた。

 まず十回もしない内から見るからに動きが遅くなった。それから更に十回程繰り返すと完全に動きが停止し、それからも続けていくと最終的には道路に倒れ伏したのだ。


 物理的なダメージは皆無だったように見えた。やはり何かしらの能力があるのか。

 考えことをしていた透人が戻ってきたリングを見ると、変化が起きていたのが解った。妙に光っているのだ。

 それが能力を推測するヒントになるだろうと思いつつ頭を働かせる。


 そこに、甲高い猫の鳴き声が聞こえてきた。妙に気になったので思考を中断して警戒し始める。

 すると、ビキビキと何かにヒビが入っていくような音も聞こえてきた。発生源は足下だ。嫌な予感がした透人は視線をリングから足下に向けつつ後退する。

 それから間もなく、つい直前まで立っていた箇所に穴が空き、そこから大きな爪の生えた腕を持つ蛇のようなモンスターが出てきた。


 前線は維持されているのに、潜り抜けられてしまった。

 予想外の展開に少し驚く。

 だが、それだけだ。


 すぐに落ち着き、冷静に情報を整理する。

 蛇は爪を透人に突きたてようとしている。しかし、その動きは以前戦った超能力者に比べれば遥かに遅い。

 手には硬い武器がある。まだ未知が残る力であるが、充分戦える。


 恐れる事はないと覚悟を決めた透人に迫る鋭い爪。それを見切り、手に持つリングを使って弾く。

 キィンという硬質な澄んだ音とバキバキという何かが砕ける嫌な音が鳴った。

 その砕けた何かを見て透人は驚く。

 単なる防御のつもりだった行動により、蛇の爪が粉々に砕けてしまったのだ。


 予想外の結果だったが、そこからある考えが閃いた。

 それを確かめようと、片方の爪が砕けて悶えている蛇のモンスターに自ら攻撃を仕掛ける。リングは投げずに鈍器として使用する。

 カウンターを狙う残った爪は大きく逆側に踏み込む事で回避した。その際の動きは透人が意図したものより速く滑らかだった。

 側面に回り込んだ透人は、空振りしてバランスの崩れた蛇の頭をリングを握る手で殴りつける。やはり攻撃は透人の想像よりも速く、重く、力強く、普段の自分の力と大きく違っていた。

 透人の一撃を受けた蛇はドゴッ! と道路に叩きつけられ、反動で跳ね上がる。そしてそれきり動かなくなくなった。

 鈍い手応えに顔をしかめつつも足下に目をやれば、殴った蛇が消滅していくところだった。


 自らの運動能力。殴っただけでモンスターを倒してしまった事実。そして光の弱まったリング。


「……成程」


 透人は自分が新たに手に入れた力を理解した。

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