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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第一章
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第三話 観客は舞台へ上がる

 そこは数年前に使われなくなった工場の敷地だった。周囲には昔使われていた機械やドラム缶、トラック等が放置されている。素行の悪い少年達がたむろしている事も多いが、普通は近づく者の少ない危険な場所である。

 そこに短い髪を逆立てた険しい顔つきの少年、火口紅輝が立っていた。

 しばらくは何もせず、ただ一人で立っていただけだったがやがて一人の少女が姿を表した。

 紅輝は少女を警戒しいつでも動けるよう身構えた上で語りかける。


「よお、テレパシーでオレを呼び出したのはお前か?」


 だが少女は答えない。それどころか身動きひとつしない。


「オレ達が把握してない超能力者だよな? テレパシーがあるのにこんなところに呼び出したんだ。突然使えるようになった超能力について相談って訳でもないんだろ」


 紅輝はイライラしながら言うが少女に反応は見られない。というよりも紅輝の声が聞こえていないようだ。


 このままじゃらちがあかないな。

 そう考えた紅輝は少女の様子を不審に思いながらも慎重に近づく。

 そして数歩進んだ時。

 

「ーー」


 少女が何かを呟いた。


「あぁ? 今何て言ったんだ?」


 紅輝は立ち止まってそう言う。

 すると少女は質問に答える代わりに右腕を紅輝に向けてのばす。


「あぁ?」


 紅輝がその行動を疑問に思ったその時、


 突然、風が吹き荒れた。

 それもただの風ではない。季節外れの雪や氷が混ざった猛吹雪。

 それが紅輝に向かって襲いかかる。


「やっぱりそう来るのかよ!」


 紅輝は吹雪に臆する事なくその場に留まり前方を見つめる。


 すると虚空に炎が出現した。

 燃え盛る炎は紅輝を守る壁となり吹雪を飲み込んだ。


「何のつもりだお前!」


 紅輝は叫びながら炎の壁から飛び出し少女にむけて走りだした。

 それを見た少女は続けて上空から氷の塊を降らせる。


「チッ!」


 紅輝は再び炎を出して氷を溶かすが動きを止められてしまった。


「何の目的でオレを攻撃するんだ!?」


 紅輝は荒れた声で叫ぶが、やはり少女は答えず右腕を紅輝に向ける。

 そうして放たれた吹雪を紅輝は炎で防ぐ。紅輝の炎は強い風をうけても消えることなく激しく燃えている。

 紅輝はそのまま炎に身を隠して焦った様な声で呟く。


「話が通じないな……。まさか超能力が暴走してんのか? だとしたら……あ。いや待てテレパシーは何だったんだ? 他に仲間がいるのか? それともアイツの敵なのか?」


 そうして紅輝は考えるがさっぱり分からなかった。元々頭脳労働は得意ではないのだ。

 だが、自分が今すべき事は分かっていた。


「超能力を悪用する奴を放っておく訳にはいかないよな」


 謎解きは得意な人に任せて自分は自分ができる事をする。

 そう決めた紅輝は少女を睨みつける。そして目の前の炎を消し、代わりに火の玉を出した。それを少女へ向けて飛ばす。


 こうして炎と氷の闘いが幕を開けた。



  *



「う~ん。テレパシーとか超能力とか言ってたんだからあれはパイロキネシスだよなあ。でも氷の超能力って漫画とかでしか聞いた事ないなぁ」


 呑気に分析しているのは勿論透人である。紅輝の方が気になった透人はこんなところまで来てしまっていたのだ。


 というか目の前で異常な闘いが繰り広げられているというのに普段と全く変わっていない。吹雪や炎が出てきた瞬間は少し驚いた様な顔をしたもののすぐにいつもの調子に戻ってしまった。

 透人としては幽霊がいたんだから超能力もあったところでおかしくない位の感覚だった。流石は悪霊に体を乗っとられても平然としていた男である。


 透人は工場の門から二人に見つからないように隠れていた。


「で、これからどうすればいいかなぁ、手助けなんて出来ないしなぁ。」


 そう言いながら様子を見る。紅輝と闘っている少女は吹雪を生み出しながらも飛んで来る火の玉を滑るような動きで避けている。その動きの中で透人の方に移動してきたのを見てある事に気づく。


「ん? 今まで遠くて顔見えなかったけど、もしかして神無月さん?」


 こちらに近づいてきたとはいえまだ距離があり顔ははっきりと見えない。

 それに笑亜にしては違和感があった。その正体は分からないが何か嫌な予感がする。


 透人は身を隠せそうな障害物があるのを確認すると違和感の正体を確かめるためもっと近くに行く事にした。



 透人は障害物に隠れながら二人に見つからないよう注意して少しずつ進んでいく。

 そこに、氷の塊が飛んできた。


「うおう!」


 近くに落ちたが透人には当たらなかった。二人の様子を窺うがどうやら透人に気づいた訳ではなく流れ弾だったようだ。

 大きな氷の塊を見て肝を冷やしたがそれでも途中で引き返そうとはしなかった。

 何故そこまでするのか、それは透人自身にも解らなかった。それでも透人はまるで何かに突き動かされるようにして歩を進める。


 そしてなんとか無事に二人の顔がハッキリ見える場所まで進む事に成功した。


 そこから少女の顔を見ると違和感の正体はすぐに分かった。確かに笑亜だが無表情だったのだ。

 目は虚ろだしいつものミステリアスな微笑みも無い。

 ただそれがどういう事なのかが分からない。紅輝が言っていたように超能力が暴走しているのが原因なのか。

 そう考えていた透人は笑亜の口が開くのを見た。そこから出てきた言葉は、



「……サ、ムイ……」


 だったが、それを聞いた透人は珍しくはっきりと驚きの表情を浮かべた。

 一瞬、自分で吹雪出しといて何言ってんの、とか思ったがそういう問題ではない。


 その声が笑亜とは全く違う別人のものだったのだ。

 そして透人はそれに心当たりがある。昨日、自身が悪霊に体を乗っとられた時がそうだった。

 だから、透人は理解した。


 笑亜は今悪霊に取り憑かれている。



 悪霊が人に取り憑いたところであんな事ができるのかは分からない。だが、全て悪霊の仕業だったらどうなるのか。

 今までの様子を見たところ、紅輝はおそらく幽霊の存在を知らない。

 超能力だと勘違いしたまま闘い続ければ、二人とも危険だ。


 そう判断し、透人は動き出した。


 昨日のように気づいたら被害者になっていた訳ではない。

 好奇心を満たすためでもない。


 目的を持って自らの意思で、危険な舞台へと向かっていく。



  *



「ハア、ハァ」


 相手の攻撃を炎で防ぎ、その隙に自分から攻撃する、という事を何度も繰り返していく内に紅輝は消耗していた。超能力を操る集中力も長くは保ちそうにない。

 だがその一方で、相手は同じような力の使い方をしているのに全く消耗している様子は無い。


「本当に何なんだ、アイツは……」


 紅輝は疲れを感じさせる声で呟く。


 紅輝はこれまで超能力を悪用する者と闘ってきた。だが、今目の前にいるのは今までに経験した事のない程の強敵だった。


 それでも諦める訳にはいかない。紅輝は勝利のために考える。


 まず持久戦になれば押しきられる。

 それが分かった今、闘い方を変える必要がある。


「もう後の事なんて考えてる場合じゃないな」


 紅輝がそう言った時、炎の壁がより一層大きく激しく燃え上がる。

 短期決戦を決めた紅輝が今できる最大の力を出そうとしたのだ。

 紅輝は覚悟を決め、顔に笑みを浮かべて相手を挑発する。


「よお、今までは事情を聞く為に手加減してたがアンタに勝つにはそんな事言ってられないみたいだ。だから助かりたければアンタも」

「火口君ちょいストップ」

「全リョフッ」


 が、透人に襟首を引っ張られて邪魔されてしまった。


「あぁ!? 一体何なんだよ!?」


 紅輝は怒りながら振り返る。そして透人を見て、


「って、おま、あっ、ああああぁぁぁぁ!?」


 思いっきり動揺した。それも無理は無い。今まで隠していた秘密を堂々と見られたのだ。


「おおおい、い、いつからいたんだお前」


 まともに言えていない紅輝のその質問に透人は平然と答える。


「え~と、誰もいない教室でブツブツ言ってた時から」

「本気で最初からいたのかよ!!」


 驚いた紅輝は本気で叫んだのたが、透人は全く気にしない。そのまま会話を続けようとする。


「で、とりあえず一旦退こうか」

「あぁ? 何でだよ?」

「ん~、いやここは専門家に任せた方がいいと思って」

「専門家? ……その落ち着き様、オレ以上に超能力を知ってるってのかお前?」

「いや、全然知らないけど」

「じゃあ、何なんだお前はぁ!?」


 さっきから話が全く進んでいない。

 紅輝には透人が考えている事がこれっぽっちも理解出来なかった。邪魔をしに来ただけなのか。

 ただただ混乱していると、逆に落ち着いた様子の透人は右方向を指差した。


「ん、火口君あっち見て」

「あぁ? 今度は何だよ」


 紅輝が透人の示す方向をみると、そこにはこちらに右腕を向けている例の氷使いの少女がいた。


「おぉい! もっと早く言えよ!」


 対抗しようと紅輝が目の前に炎の壁を作り出そうとした時、


 突然、彼女は工場の奥へと逃げていった。


「あぁ?」

「ん」


 紅輝はその事を疑問に思ったが、透人はすぐに原因を察したらしい。

 逃げた少女ではなく、工場の入り口の方を向いたのだ。そして紅輝が原因を確かめる前に、その方向から静かな闘志を感じさせる声が響く。


「火口、お前が何者かは知らんが、ここは退け。これは俺の仕事だ」


 そこには険しい顔をしたクラスメイト、清慈郎が立っていた。


「うん、専門家来た」


 透人は意味の解らない発言をした。

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