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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第七章

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第三十五話 組織

「……オイ。何でてめえがまだこんな所にいるんだ?」

「あら、自宅にいるのに何か問題があるのかしら?」

「いいから答えろ。また何か変な企みを増やしたんじゃねえだろうな?」

「仮にも教師とあろう者が教え子にそんな言葉遣いをするものではないわよ?」

「無理矢理教師にしといて何言ってやがる。さっさと答えろ」

「フフフ。言っておくけれど私じゃないわ。理事長先生よ」

「ジジイが? …………まさかあの件か? …………お前はそれでいいのか」

「あのとかそれとか言われても解らないわね。具体的に言ってくれないと」

「……チッ。お前もジジイも何考えてやがんだ」

「フフフフフ。さて、何を考えているんでしょうね」

「……………………ああ、分かった。お前が決めた事なら俺は口を出すべきじゃないな」

「フフフ、その通りよ。まあ、そういう訳で私は欠席するのだけれど、先生は早く出た方がいいんじゃないかしら。それとも遅刻する先生というキャラで売っていきましょうか? それもありだと思うわよ」

「っ……ああ、分かった。さっさと行きゃいいんだろ、行きゃ」

「ええ。行ってらっしゃい」



  *



「早く席に着け。ホームルームを始めるぞ」


 透人が家に帰ってからゆっくり読もうという結論に達し、紅輝がヒイヒイ言いながら課題を写し終えた頃。

 チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。いつも機嫌が悪そうな顔をしているが、この日は更に輪をかけて不機嫌そうだった。

 その事に嫌な予感がした生徒達が身構える中、先生は朝のホームルームを始めるといつもと同じ様に授業や今後の行事についての連絡をしていく。

 だが、大方の予想通りこの日はそれだけでは終わらなかった。


「……あー、連絡事項はこんなもんだが、会議で他の先生方からあがった苦情がいくつかある」


 先生はそう前置きすると、服装も素行もあまりいいとは言えない生徒達の名前を呼んだ。


「玄堂、佐藤、和田。服装はちゃんとしろ。それに授業をサボるんじゃない。また指導室に呼び出されたいか」

「「ハイッ! 分かりましたっ!」」

「……はい」


 先生が威圧感を発しながら言うと佐藤と和田の二人は顔をひきつらせながら瞬時に即答した。以前の指導室への呼び出しで何があったかは知らないが、余程恐ろしい目にあったらしい。

 ただ、玄堂だけはふてぶてしく返事をするだけだった。

 そんな反抗的ともとれる態度をした玄堂だったが、先生は特に注意しなかった。

 言うことは言ったと、すぐに次の名前を呼ぶ。


「染井。お前の件は言うのも馬鹿馬鹿しいんだが……とにかく風紀を乱すな」

「……はい」

「よし、詳しく言わなくても分かってるな。今度から気をつけろよ」

「え、いや、気をつけろって言われても」

「いいから気をつけろ」

「……はい」


 先生は有無を言わさぬ口調で要点だけを吉野に告げ、詳しい内容は話さなかった。

 それでも何の話をしているかは僅かな例外を除きクラス全員が理解していた。

 またやりやがったな、と男子勢の胸の内にどす黒い感情が宿るも、行動には移さず先生の前では大人しくしている。

 という事に気づいていながらも先生は意にも介さず話を次に進めた。


「さて、次はこのクラス全員の問題だな。……お前達、毎日言っているがとにかく喧しい。休み時間はともかく授業中くらいは静かにしろ」


 先生に気迫のこもった一言で黙らされて以来、彼がいる中では静かにしていたクラスの面々。

 しかし、それ以外の場面では学年一、つまり学校一うるさいクラスであった。


「特に白葉。いつもいつも騒ぎを起こすんじゃない。大人しくしていろ。いつまで経っても改善されなければ体育の時間延々と走らせるぞ」


 先生は今までよりも更に不機嫌そうに顔をしかめた。

 そして騒ぎの中心となる事の多い問題児の名前を上げ、体育教師としての権限も使って警告した。


「そっ、そいつぁひどすぎるぜ旦那ぁ! 人間誰しも間違いを犯す。それを許してやるのもまた人間ってぇやつじゃあねぇのかい!」

「お前それ何のキャラだよ」


 しかし、名前を呼ばれた当の本人は気にした風もなく早速ふざけだす。彼女こそ唯一それが可能な勇者、あるいは馬鹿として一部から尊敬の念を集めていた。

 とはいえ、


「それを止めろと言っているんだが?」


 当然先生が黙っている筈はない。静かでありながらも、これが殺気かと思わせる気迫を乗せた声で応じる。

 その影響はついつい反射的にツッコミをいれてしまった早喜どころかクラス全員にまで及んだ。

 教室はシーンと静まりかえり、身動き一つ出来る者はいない。

 先生はその様子をやり過ぎたというかのようにばつの悪い顔で見ていたが、やがて少々早口でホームルームを再開させる。


「……あー、それと。神無月は家庭の事情で欠席だそうだ。……よし、これでホームルームは終わりだ」


 そうして先生が去っていっても教室に活気はなかなか戻らなかった。

 そんな雰囲気の中、他の者よりまだマシな精神状態を保っていた透人は最後にもたらされた情報について考えていた。


 やはり笑亜は欠席だった。

 先生なら理由も詳しく知っているだろう。といっても果たして教えてくれるかどうかは解らない。

 それでもダメもとで聞いてみるとして。

 今は推測する。

 家庭の事情というのは組織絡みな理由を隠す為か。

 それとも組織は関係なく、本当に家庭の事情なのか。


 と、考えていく内にふとした疑問を抱く。


「神無月の家族ってどんな感じなんだろ……想像出来ないなぁ」


 笑亜の家族も組織に関わっているのか。家族には隠しているのか。

 それ以前に家族構成や住所。

 透人は何も知らない。

 その事実を改めて実感した。


 ただ、よく考えてみると、それは単に今まで聞いてこなかったのが原因であり、更にその理由はそういった事柄以上に興味のある話題が多すぎたからだ。

 だったら仕方ない。

 いつかの機会に聞けばいいや、と透人はこの案件について深く考えるのを止めた。



  *



 テーブルにソファ、本棚といった家具。それからカーテンや絨毯に至るまでの全てが素人目にも最上級品だと解る程の物で揃えられた部屋。

 その主である笑亜はガラス張りのテーブルに何枚もの紙を広げて何らかの作業をしていた。

 真剣な目付きで作業に没頭する中、唐突に扉がノックされる。


「入りなさい」


 視線をテーブルに固定したまま発せられた笑亜の声を聞いて部屋へと入ってきたのは、フード付きのマントを身につけ姿を覆い隠した怪しげな人物だった。

 その人物は素早くかつ丁寧に扉を開き音も無く入室する。そして明らかに年下である笑亜に対して恭しく報告した。


「只今戻りました」

「遅いわよ。お使い位ちゃっちゃと済ませなさい」

「いえ、これ以上早くは……」

「雑用が余計な事を言うんじゃないわよ。それを置いたらすぐに通常業務に戻りなさい」

「……分かりました」


 雑用と呼ばれた人物がファイルを置いて退室していくと、笑亜は軽く伸びをする。


「さて、仕上げといきましょうか」


 そしてニヤリと笑うとファイルにとじられた書類に目を通し始めた。

 書類の内容は一人の人物についての資料だった。生年月日から身長体重、趣味嗜好に至るまでこと細かに記されている。それが数十枚。

 その全ては現在行方不明になっている人物の情報だった。


 理事長が創設した組織が学校をつくり裏の人間を集めて監視しているのは趣味や遊びに近く、本来は世界中の裏の厄介事の解決を主な活動としていた。

 笑亜はこの日その本来の活動の為に動いていたのである。

 今回組織に持ち込まれたのは超能力者の失踪事件。

 超能力者の組織も手は尽くしたのだが、サイコメトリーや千里眼等の超能力を用いても手がかりすら発見出来なかったらしい。


 書類はその事件を解決する為に用意させたものだ。

 笑亜は一枚の書類を読み終えると、複雑な図形の画かれた紙に手をかざしつつ何処の言語ともつかない言葉を紡ぎだした。

 すると図形の上に小さな光が灯る。笑亜の作業が進むにつれて光はゆっくりと移動していき、笑亜が口を閉じた数秒後にテーブルに広げられた地図の一点で止まる。

 その光景を神妙な顔つきで見つめていた笑亜はすぐに二枚目の資料で同じ作業を始めた。

 笑亜が何事かを唱えると、光が生まれて移動していく。停止すると新たな資料に目を通す。

 

 それを笑亜は淡々と繰り返していき、やがて最後の資料での作業が終わる。

 その時、生まれた光は全て地図上のある一点に集まっていた。


「決まりね。……さあ、今回の悪人達にはどんな悪夢を見せてあげましょうか」


 笑亜は精巧に作られた人形のような美しくも冷たい微笑を浮かべてそう言った。


 超能力者には手がかりすら発見出来なかった行方不明者の居場所。

 それを笑亜は魔法を用いる事で突き止めたのだった。

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