表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/141

第三十話 守る者守るべきもの

「……助かった」


 あれだけ苦戦した相手だったが最後は何ともあっけなく終わってしまった。

 清慈郎はその事に複雑な思いを抱いたがとりあえず礼を言おうとした。


「うーん。今のって応用出来るかな……」


 が、透人はメモ帳を手にブツブツ言っていて聞いていなかった。

 この日何度目かの苛立ちを覚えた清慈郎はもういいかと背を向ける。


 もう自分の仕事は終わった。あとは連絡をして事後処理担当の者に任せればいい。

 透人を放ってさっさと帰ろうとする。

 しかし、数歩も進まぬ内に呼び止められた。


「あ、待って御上君。ちょっと手伝って貰いたい事があるんだけど」

「……手伝って貰いたい事?」


 清慈郎は訝しげな顔で振り返る。


「うん。今困ってるんだよ。ほら、さっきの借りを返すって感じで」

「……用件は何だ」


 透人は困っているという割には落ち着いているし、緊張感も感じられない。

 それなら大した頼みでもないのだろう。

 別に急がなくてはならない訳でもない。

 貸し借りの件もある。

 清慈郎は正直これ以上関わりたくは無かったのだが、ひとまず話を聞くことにした。


「うん。何か魔法を悪事に使う輩が襲撃してきたから助太刀してくれない?」

「…………何だって?」

「だから魔法を悪事に使う輩が襲撃したから助太刀してくれない?」

「…………それは、本当なのか?」

「うん」


 清慈郎は透人が何を言ったのか理解出来ずに聞き返したものの答えは同じだった。

 冗談ではないかと期待を込めて確認しても肯定されてしまった。


 予想を遥かに越える大事である。

 どうやら魔法使いに対する認識は間違っていたらしい。


 弱き者達の為に力を使う。それが力ある者が果たさなければならない責務。

 それに、個人的に縁のある相手を見捨てるのは目覚めが悪い。

 そうであるならば撃退に手を貸すべき。

 なの、だが。


「悪いが、協力はできない。ただの人間、ではなくとも霊の事情と無関係な者相手に無闇に力を振るう使う訳にはいかないんだ」


 魂に傷をつければいかに屈強な人間だろうと関係なく簡単に意識を奪える。

 悪用する者が表れれば被害は計り知れない。

 そればかりでなく魂の力が弱い者なら後遺症が残ってしまう事さえある。

 故に霊能力を気軽に用いてはならないと厳しく教えられ、霊能力者の管理も行ってきた。

 その管理する立場にある家の後継者がおいそれと破っていいものではない。


 だから魔法使いを相手にする事は、出来ない。


 清慈郎は正面から透人を見据え、きっぱりと拒絶の意思を示す。

 それでも透人は食い下がってきた。

 説得は的外れな上にふざけているのかと思えるものだったが。


「大丈夫。向こうも未知の魔法だって思ってくれるから」

「そういう問題じゃない」

「うーん。そこを何とか。襲撃してきた魔法使いが透明になる魔法使っててさ、観鳥さんには見えないんだよ」

「何を言われても無理だ…………いや、待て。お前には見えるのか?」

「ん? うん。霊視を使えば」

「っ!?」


 透人の言葉に疑問を覚えて質問を投げかけるとあっさりと答えられた。

 その内容に絶句する。

 今まで何度も驚かされてきたが今回は驚きの種類が異なっていた。

 これが事実なら見過ごせないのだ。


「……誰に教わった? 俺以外の霊能力者を知っているのか」


 ただ霊が見えるだけでは霊視など出来ない。

 普通は指導を受けながら鍛練を積んで習得する技術だ。実際清慈郎もそうだった。

 ここで問題になるのは教えた者の存在である。

 自分以外の家の者ならいいが、まだ管理下にない霊能力者がいるのなら放っておく事は出来ない。


 透人は清慈郎の詰問を受けると困ったように頭をかいた。


「……あーー、うん。……なんか、やったらできた」

「そんなに簡単に出来るものじゃない。そもそも普通はやろうと思わないだろう。それに何故その言葉を知っている?」

「うーん。そんな事言われてもなぁ……あ、協力してくれたら教えるっていうのは?」

「む? ……いや、それとこれとは話が別だ」


 やはり隠し事があるらしい透人とお互いの要求をぶつけあうがどちらも譲ろうとしない。

 徐々に清慈郎の目付きは鋭くなり、透人からは余裕がなくなっててくる。

 そんな中、天井から切羽詰まった声が降ってきた。


「とうどくん! 大丈夫ー!?」


 見上げると現在魔法使いに狙われている筈のアンナが天井に空いた穴から顔を出していた。

 透人は清慈郎との交渉を切り上げて大声で返事をする。


「うん、大丈夫だよー!」


 返事を聞いたアンナは直ぐ様穴に身を踊らせる。

 そしてギョッとする清慈郎をよそに空中で箒に跨がると落下にブレーキをかけ、何事もなく透人のすぐ近くの床に降り立った。


 そのアンナの姿を見て清慈郎は言葉に詰まる。

 ところどころ服が破れ、いくつもの怪我を負っていたのだ。

 本当に悪人と戦っていたらしい。


 ただアンナはそんな姿だろうと他人の心配をしている。

 その表情は先程見た能天気なものとは全然違っていた。


「無事でよかった……! 心配してたんだよ」

「いやぁ、お互い様だよ。それより観鳥さんも説得してくれない?」

「ふぇ?」


 言い終わるとともに体の向きを変えた透人にならってアンナも清慈郎の方を見た。

 そして短い時間の硬直の後、慌て出す。


「あ、えっ……せいじろうくん? あー、えっと……今の見ちゃった?」


 どうやら今まで気づいていなかったらしい。

 見ちゃったも何も堂々といたのだが、透人にしか注意がいかなかったのか。

 普通ならこちらも慌てる場面かもしれないが清慈郎は落ち着いていた。

 既に魔法使いだということは知っていたし、色々あったせいで感覚が麻痺してきていたからだ。

 だから、アンナが望んでいるだろう台詞を冷静に返す。


「…………安心してくれ。口外はしない」

「あっ、そう? ならよかった…………あれ? いいのかな?」


 一度は安心したアンナだが今はしきりに首をかしげている。

 場違いな仕草に清慈郎は脱力してしまった。


 しかし、すぐあることに気づいて身構える。

 悪人と戦っていたアンナが何故ここにいるのか。

 その理由に二つの可能性が思い当たった。

 既に悪人を撃退したのか。

 あるいは、


「来たよ、二人共気をつけて。ショット」


 透人が警告と共に発したのは取り憑かれた男達を吹き飛ばした時と同じ言葉。

 しかし、何も起きない。

 透人の視線を辿っても誰もいない。

 そこで清慈郎は霊視で天井付近の様子を探った。

 すると確かに二つの魂が浮かんでいた。力の強さからして霊的には普通の人間だ。

 だとしたら本当に透明になった魔法使いが二人いるのだろう。

 いや、天井より上にもう一人。


「完全にバレてますよ。それなら俺も参加していいですよね?」


 天井の穴を潜って若い男が入ってきた。今度は魔法を使っていないのか普通に見える。何故一人だけ違うのかと疑問に思ったが今はそんな問題ではない。

 何処か呑気に「あ、復活してる」と呟く透人はいいとして、アンナは唇をきつく結び上空を見つめている。

 これから始まるのだろう。清慈郎の知らない戦闘が。


 部外者である自分は、手を出すべきでは、ない。




「了解。……というか、人が増えてますけどどうします? やっぱりここは有効利用すべきですか、ねっ!」


 やがて他の者の指示を受けたらしい若い男が急降下してくる。

 ただしその行く先はアンナでも透人でもなかった。

 真っ先に狙ったのは悪霊から解放したばかりの男。

 "有効利用"が何を指すのか嫌でも分かる。

 その行為を阻止しようとこちら側の二人の魔法使いが動いた。


「ショット」

「あっ、と、ドロウ!」


 透人による例の吹き飛ばしは若い男に軌道を変えて避けられたらしい。

 ただし、急に吹いてきた向かい風で離れたところに倒れていた人達が近くまで転がってきた。これでひとまず大丈夫だろう。

 一仕事したのだろうアンナは一瞬ほっとした表情を見せる。

 しかし、すぐに悲しみや怒りが入り混じった目付きになって叫んだ。


「この人達は関係ないでしょ!? 手を出すのは止めて!」

「ハッ! だったら大人しくついてきますか!? それならこんな事しなくてもいいんですよ!?」

「それ、はっ……」


 若い男は口調とは異なり荒々しい粗野な雰囲気を纏っている。こちらがこの男の本性なのだろう。

 対するアンナは苦しそうに顔を伏せていた。本気で若い男の言葉を検討でもしているのか悩んでいるように見える。

 そんなアンナに若い男は何もしようとしない。ただ下品に笑っているだけだ。

 そうして生まれた膠着状態の中、初めに動いたのは透人だった。


「ショット」


 放ったのは例の言葉。

 ただし見ていたのは若い男ではなかった。

 アンナの背後の虚空にいた魂、また別の魔法使いだ。若い男が注意をひいている間に近づいていたのだろう。

 透人の攻撃を避けた後は隙を窺っているのかやや上方を飛び回っている。


「やっぱり見えてたら隠蔽の意味なんてないですねぇ。じゃあ、俺も仕掛けますかっ!」


 わざわざ攻撃を宣言した若い男は清慈郎を指差した。

 自分が狙われていると解釈した清慈郎は警戒し、自分で対処出来る様にと若い男の動きに注目した。透人も前に出て新たな魔法を使う。


「ブロック」

「それじゃ駄目!」


 にもかかわらずアンナは清慈郎を突き飛ばした。予想していなかった行動にあっさりとその場を譲ってしまう。

 その瞬間、先程まで清慈郎がいた場所、今はアンナがいる場所で爆発が起きる。


「きゃあっ!」


 アンナは爆風で吹き飛び床に頭を打ち付け、そのまま動かなくなった。

 清慈郎は急いで様子を見る。

 呼吸はしているし酷い出血がある訳でもない。どうやら命に別状はないようだ。

 そう安心した直後、若い男が声を響かせた。


「ハハハハッ! やっぱり子供ですね! ちょっとやり方を変えるだけで片づきましたよ!」


 作戦が上手くいって満足したのかいつまでも下品な笑いを続けている。


 その不快な声が聞こえる中で清慈郎は考える。


 これは誰の責任か。

 間違い無く自分の責任だ。


 すぐに立ち去れば良かったのに、何故ずっとこの場所に留まっていたのか。

 透人に引き留められていたからか。

 アンナに対応している内に魔法使いが来てしまったからか。

 下手に動けば足を引っ張る可能性があったからか。


 全て、言い訳にすらならない。

 自分のせいでアンナがこんな事になってしまったのだ。


 そもそも自分はアンナの事を安易に決めつけていた。

 遊んでいるからといって決して能天気に考えているのではなかった。

 相手の魔法使いと対峙している時は真剣に悩んでいた。

 自らを顧みずに他人を庇った。

 確かに魔法に信念を持っていた。

 力ある者として力無き者を守ったのだ。


 それに比べてどうだ。


「標的以外はどうでもいいですからねぇ。あとはなめられた屈辱を晴らさせてもらいますか!」


 あの男は自分勝手極まりない。

 無力な者の為に使うべき力をただの遊びどころか人を傷つける事に使っている。

 とてもじゃないが、許容出来ない。


 ならば自分はどうすべきなのか。

 答えは、解りきっている。


 清慈郎はゆらりと立ち上がると、前方を見据え構えをとった。

 すると若い男は人を馬鹿にしたように下品に笑い出す。


 やはり救いようがない。

 自らが持つ力に誇りを持たない者の下卑た笑い声。

 実に―


「耳障りだ」

「っ……」


 清慈郎が静かな気迫とともに腕を降り抜くと、唐突に声が途切れた。それから数瞬の間を置いて若い男はゆっくりと床に崩れ落ちる。

 魂の刃で魂を一息に切り裂いた事で意識を保てなくなったのだ。



 霊能力の掟は今は忘れる。

 ここからは霊能力者ではなく、アンナの代わりとして力ある者の責任を果たさねばなるまい。

 五、二十七、二十八話の解説部分やミスを修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ