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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第六章

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第二十九話 既知なる敵未知なる力

 清慈郎は透人と別れ地上に降りた後、本来の仕事を遂行すべく例のビルの前まで戻ってきた。

 無駄な時間を使ってしまったので手遅れにならない内に急いで中に入り悪霊のいる最上階を目指す。

 霊視で位置が分かる以上、待ち伏せの心配はない。いち早く到着する事を最優先に進む。

 以前の調査の際に設置された照明がそのまま残されているのでそれを頼りに階段を上がっていった。


 やがて最上階にたどり着いた清慈郎は警戒を強める。

 悪霊がいるのは一番大きな部屋の更に扉から離れた奥の方だ。

 その部屋の前まで移動すると息を整えてから扉を開けた。


 室内は残されていた照明がぼんやりと照らしていた。おかげで奥まで見通す事が出来る。

 長い間放置されていたことで荒れた部屋の中には悪霊と数名の人間がいた。

 悪霊は辛うじて人の形を保っているものの、ギョロッとした目玉に牙を覗かせた顔はもはや人とは呼べない。さらには腕が刃の如く鋭くなっていた。

 霊体となってからずいぶん時間が経過していて、その分魂の変化が大きいのだ。

 だが、この程度の悪霊ならば清慈郎は何度も相手にしてきた。

 さっさと片付けようと距離を詰めていく。


「ふむ? 妙な人間だとは思うておったが、お主、やはりただの人間ではないな?」

「……そうだ。お前を滅しに来た」


 悪霊は清慈郎の正体に気づいたようだが清慈郎は構わず近づいていく。

 どうせ遅かれ早かれ分かる事だ。


「ふむ、そうかそうか。さては手下候補が消えおったのもお主の仕業だな?」

「……だったらどうした」

「そうであるなら、償ってもらわねばなるまいな!」


 叫びを上げた悪霊は腕の刃を降りかざして襲いかかってきた。

 それに対して清慈郎も魂を変化させた刃で迎え撃つ。

 悪霊は剣術も戦闘技術も身に付けていないようで滅茶苦茶に振り回してくるだけだ。

 だったら対応するのは容易い。

 上段から降り下ろされる刃を受け流し、首もとを狙った突きは身を捻って避ける。

 次々にくる攻撃を確実に見切りながら悪霊の隙を窺う。


 そしてついにその時は来た。

 清慈郎に攻撃を受け流された悪霊が大きく体勢を崩したのだ。

 チャンスを逃さないように最小の動きで悪霊の側面に回り込み素早く構える。


 その瞬間、部屋の奥から鉄パイプが飛んできた。

 清慈郎は悪霊への攻撃を断念して後ろに下がり部屋の奥へと視線を向ける。

 そこにいたのはただの人間である男が二人。ただし、二人共悪霊に取り憑かれていた。

 先程の鉄パイプはどうやらその悪霊に取り憑かれた男が投げたらしい。

 今まで動きがなかったので油断していた。


「ふむ。なかなか上手くはいかんな。ならば仕方あるまい。主らも参加せい!」


 悪霊が言い放つと取り憑かれた二人が鉄パイプを手に走ってきた。

 一人は最初の悪霊の隣に、もう一人は少し離れたところまで来て待機している。

 命令通りの行動だが何も応答が無い。

 最初の悪霊と二人に取り憑いている悪霊との関係は仲間や主従というよりも、支配されていると言った方が近いのだろうか。


 清慈郎はこのまま後手に回る訳にはいかないと相手の分析も程々に攻撃をしかける事にした。

 まずは取り憑かれた男に向けて魂の刃をのばす。

 しかしそれは隣の悪霊によって防がれ、その隙をついて取り憑かれた男が鉄パイプで殴りかかってきた。

 魂によるものではない物理的な攻撃にはこちらも物理的な手段で対応するしかない。

 だから魂の刃では受けられない。

 攻撃を避けながらカウンターを狙う。


 ただしそれは簡単な事ではない。

 悪霊の攻撃も同時に処理していかなくてはならないのだ。

 しかも後ろにはもう一人控えている。

 なかなか厄介な相手だ。


 悪霊の刃を受け、横からの鉄パイプをかわし、悪霊の追撃を弾き、更に迫る鉄パイプは大きなバックステップで避ける。

 連携が上手く隙が見つけるどころか防ぐので精一杯だ。

 それでも手がない訳ではない。


 距離をとる事でできた僅かな時間でポケットから二枚のお札を取り出した。右手で持ったまま魂の刃をつくり待ち構える。

 やがて悪霊と取り憑かれた男が左右から迫ってきた。

 清慈郎は悪霊の方に移動して右手の刃を降り下ろしたが悪霊に受け止められる。

 その間に取り憑かれた男が背後に回った。

 そして、悪霊の刃と取り憑かれた男の得物が前後から同時に襲ってくる。

 すると清慈郎は悪霊に対して右手のお札をつき出した。


「防」


 悪霊との間に防御の術を使い、取り憑かれた男の一撃は軌道を見極め紙一重でかわす。

 そのまま懐に踏み込み、左の魂の刃で取り憑いている悪霊を切り裂いた。

 確かな手応え。

 肉体に守られている魂には消滅させる程のダメージは与えられない。

 それでも、しばらく肉体を動かす事ができない程度にはダメージを与えた筈だ。

 しかし戦闘不能にするにはまだ手がかかる。


 力が抜け、崩れ落ちる体に急いで右手に持っていたもう一枚のお札を張ろうとする。

 肉体から魂を分離させる術のお札だ。

 防御の術で時間を稼いでいる間にそれで悪霊を追い出して滅さなければならない。


「ぐっ!?」


 が、お札を貼る寸前に邪魔が入った。

 待機していたもう一人が清慈郎を突き飛ばしたのだ。


 もう少しだったのだが間に合わなかった。

 舌打ちした清慈郎が起き上がると、悪霊と先程突き飛ばしてきた男が倒れている男の前に立ちはだかっていた。

 一人は減ったもののまた一からやり直しだ。

 動きがないので清慈郎から仕掛けた。


 まずは取り憑かれた男に切りかかる。

 すると男は横にずれ代わりに前に出た悪霊が刃を受け止めた。

 右手で悪霊と斬り合いつつ左手は男に向けてのばすが大きい動いてかわされる。


 その後も続けていったがどうも様子がおかしい。

 向こうから攻撃してこないでひたすら回避に徹しているのだ。

 それはつまり斬った悪霊が回復するまでの時間稼ぎをしているのだろう。

 そうして万全の態勢を整えた上で持久戦に持ち込むつもりなのだ。

 このやり方は過去に霊能力者と闘い逃げ切った経験からきているに違いない。

 まったくもって厄介だ。


 現状を打開すべく様々な手を試してみたがことごとく失敗してしまった。

 それ以上の手段も思いつかず時間ばかり過ぎていく。


 そうしてそろそろ斬った悪霊が回復するだろうという頃。

 突如建物が振動し始めた。

 疑問に思いつつ攻撃を続けるが相手も隙は見せない。

 その間も振動が止む事はなく最後に一際大きな音が響いた後、ついに天井に穴が空いた。

 そしてその穴から一人の人間が落ちてくる。

 落下には妙な違和感があったがそんな事はどうでもいい。

 問題は落ちてきた人物の正体である。

 天井からの落下にも無事で、今辺りをキョロキョロしている人物には見覚えがあり過ぎる。


「またお前か…………!」

「まぁ、うん…………御上君久しぶり」


 その人物は遥か上空で遊んでいた筈の透人だったのだ。

 一体何があってこんな事態になったのかは知らないが相手をしている暇はない。

 それどころかただの足手まといだ。


「ほほう、知り合いか。ちょうどいいのう。奴を捕まえい!」


 早速悪霊は透人に目をつけ、何だかんだとやっている内に回復して立ち上がっていた悪霊に指示を出した。

 回復したばかりの男は透人に向かって走っていく。

 清慈郎は阻止しようと動くが悪霊がそうはさせまいと斬りかかってきた。

 更にさっきまで回避に専念していた男も妨害に加わる。


 そうして何とか妨害を潜り抜けて助けに向かおうとしている清慈郎と裏腹に、当の本人は逃げ出そうともせず呑気に質問してきた。


「御上君、悪霊って倒すしかないの?」

「今聞くような事か!」

「それが今聞くような事なんだよ」

「……ああ、倒すしかない! これでいいか!」


 全く危機感を感じていない透人に清慈郎が苛立ちを覚えながら答えると、透人は一瞬顔を曇らせる。

 その後透人の顔が元の無表情に戻った時、予想外の出来事が起きた。


「……じゃあいいか。ショット」

「は?」

「ほ?」


 透人に迫っていた男が数メートルも吹き飛んでいったのだ。

 あまりの光景に清慈郎だけでなく悪霊も固まっている。

 ただ取り憑かれた男は例外だった。

 意思もなく命令を遂行しているだけなのか一切動じずに清慈郎を狙って鉄パイプを降り下ろす。

 反応が遅れた清慈郎は怪我を覚悟で交差させた腕でガードしようとした。


「ショット」


 ただそんな覚悟は無用だった。

 透人が一言呟くとまたも男は吹き飛んでいったのだ。


「駄目だよ御上君。驚いて固まるなんて。隙だらけだったよ?」

「……お前に言われたくはない」


 言われた言葉は確かにその通りだ。こんな醜態をさらすなんて自分はまだまだ未熟で経験も少ない。

 が、驚かせた張本人が言う台詞ではないだろう。


「ええい、忌々しい! 何だお主は!?」


 悪霊は毒ずくと透人へと向かって斬りかかっていった。

 清慈郎は素早く反応して間に割り込む。そのまま数回打ち合うと悪霊は距離をとった。

 謎の乱入者への対応に迷っているのか。吹っ飛んでいった二人が戻ってくるまで待っているのか。


 何にせよ今が攻める好機かもしれない。

 ただ、闇雲に攻めても効果は薄い。

 今度はどうしていくかと考える清次郎だったが、またも透人が質問してきて中断させられた。

 ついさっきの出来事もあるので無視も出来ず仕方なく答える。


「あの二人には悪霊が取り憑いてるって事でいいの?」

「……そうだ」

「じゃあ追い出すにはお札がいるんでしょ? それって俺が張ってもいいの? 御上君が持ってないと駄目?」

「いや、大丈夫だ。対象に触れていれば問題無い」

「だったら貸して」

「……」


 透人の申し出に清慈郎は悩んだ。

 本来幽霊と関係無い者に危険な事をさせるなど、この仕事に誇りを持っている身としては認められなかったのだ。

 ただ、今更取り繕おうとしたところでもう遅い。

 透人には既に助けられているし、戦力になるのは事実なのだ。

 散々てこずっていた相手を前に優先すべきは意地を張る事なんかではないだろう。

 結論を出した清慈郎は二枚のお札を透人に渡す。


「分かった。その代わり自分の身の安全を優先しろ」

「大丈夫。御上君も今度は驚いて隙だらけにならないでね」


 清慈郎はその言葉にムッとしたが言い返さずにこれからに備えて集中する。

 やがて態勢を立て直した二人が戻ってきたので悪霊も動き出した。


「餓鬼共、許しはせんぞ!」


 作戦が崩壊した今、待機させずに一気に勝負を決めるつもりらしい。

 またも悪霊が直接透人を狙うつもりなのか。


 取り憑かれた二人が邪魔をするだろうが、悪霊はやはり自分が相手をするしかない。いざとなれば透人を守りながら全員を相手取る。

 そう清慈郎が気を引き締めた時、二枚のお札が視界を横切っていった。

 それは間違いなくついさっき透人に渡したお札だ。

 お札は悠々と空中を横断していき、ついには取り憑かれた二人の男の額に張り付いてしまう。


「ぬ?」

「っ浄!」


 悪霊は再び固まり清慈郎も一瞬気を取られたものの、何とか術を発動させた。

 それにより悪霊が二人の肉体から離れる。

 すぐさま清慈郎は魂の刃を長く変化させて二度振るい、二体の悪霊を一気に切り裂き消滅させる。


 続けて清慈郎は今の勢いを殺さず残りの悪霊へと魂の刃を降り下ろす。

 ここに至ってようやく悪霊が反応したがもう遅い。

 ガードが遅れた腕を肩から斬り飛ばした。


「ぬ、おおおお!」


 悪霊は最後の力で飛びかかってきた。

 ただ、それ故に単調な動き。

 残った腕を難なく受け流しつつ懐に入り込み、一閃。胴を凪ぎ払う。


 そうして悪霊達は消滅していった。

 今日は色々と予想外の出来事があったがこれで一件落着。




 だと、この時清慈郎は思っていた。

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