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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第六章

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第二十八話 乱入

 何もない静かな夜空。

 その静寂を複数の話し声が破る。


「ここまで隠蔽魔法を徹底的に使う必要あるんですか? 砂塵さん。標的は魔法で遊ぶ様な子供ですよ?」

「そうですよ。そもそもこんなの三人も要らない簡単なお仕事じゃないですか」

「陽炎、凪、油断するな。標的は"人形師"を返り討ちにした相手だぞ」


 若い男と女の声を渋い男の声がたしなめた。

 誰もいない空中に話し声だけが響いているのにはちゃんと理由がある。

 彼らは魔法使い。

 魔法により空を飛び、姿を見えなくしていたのだ。


「あれはただ趣味に走ったせいでしょう。まともにやれば成功してた筈ですよ」

「だからこそ、だ。我々も実力差があると油断すれば同じ道を辿る事になるぞ」

「そんな無様な真似しませんよ」

「大体姿を隠して奇襲するのにどうやったら失敗するんですか」

「実戦では何が起こるか分からん。あらゆる事態を想定しておくものだ。第一"人形師"を負かしたもう一人についての情報は無いんだぞ」

「確かにそれっぽいのが一緒にいますけどね。だからって気づかれなきゃどうしようもないですって」

「それを油断しているというんだ。……それより陽炎、無駄口を止めて気を引き締めろ。そろそろ仕事の時間だ」

「……了解」


 砂塵の言葉で陽炎の声に緊張感がこもった。

 話を止めた三人組は目前にまで迫った標的の少女と謎の少年との距離を詰める。

 ある程度の距離をとったところで陽炎だけが前に出て、残る二人は待機した。

 そして、砂塵の合図で陽炎が素早く標的に接近していく。


「のぁっ!?」

「!?」


 が、それは見えない壁に阻まれた。

 勢いよくぶつかったダメージがあるのか頭を押さえてふらふらしている。

 何が起きたか分からないところに少年の声が届いた。


「フォール」

「っ!?」


 陽炎は突然落下を始め、数メートル下の空中に打ち付けられて止まった。

 気絶したのか、ダメージで魔法を保てなくなったのか、若い男の姿があらわになる。


 陽炎を手際よく無力化した標的達は新たな行動を起こした。

 少年はまだ姿を隠している筈の砂塵と凪の方に向けて正確に手をつき出し、少女もそれにならって同じ場所を見据える。

 無表情の少年と感情を押し殺そうとしている少女。どちらも覚悟は決まっているらしい。


「「ショット」」


 そうして放たれた二つの魔法。

 それを砂塵は防御魔法で防ぐ。

 すぐに対応できたのは元々こうなる可能性も想定して陽炎だけを先行させていたからだ。

 砂塵には奇襲が失敗しても逃走するつもりはなかった。

 多少当初の予定と変わったとしてもそれに合わせて対応してばいいだけの話。

 彼らはただ彼らの仕事を遂行するだけだ。



  *



 清慈郎が去った後、最後に明後日の方向を睨んでいたのを見た透人は嫌な想像が当たってしまったかと警戒していた。


 今回透人がアンナと一緒に流星群を見に来たのには三つの理由があった。

 一つは単純に自分も見たかったから。

 次に魔法について勉強する為。

 最後にアンナを狙う者を警戒しての事だった。


 以前襲ってきた魔法使いは捕まえて魔法使いの組織に引き渡したらしいのだが、取り調べた結果どうやら何者かに雇われたようなのだ。

 魔法絡みで会う度に調査の進み具合を聞いていたがほとんど進展していないらしい。

 雇い主に関してあの魔法使いから情報を引き出そうとしても難しく、まだ分かっていない。なんでも魔法を使っても記憶が封印されているとか。


 それで雇い主が捕まっていない以上、新しい刺客が雇われる可能性を考えていたのだ。

 もっとも、アンナにその話をしたところ魔法使いの組織も怪しい人物やこの地域を見張っているから大丈夫だと言われていた。

 だから清慈郎が気づいたのも味方かもしれない。

 それでもとりあえず用心しておこうとアンナに声をかける。


「観鳥さん早く食べちゃった方がいいよ」

「ふぁい? (もぐもぐごくん)とうどくんどうしたの?」

「うん……えーと、ちょっと嫌な予感がしてね」


 確証もないので透人は適当な事を言ってから霊視を使う。

 清慈郎が見ていた方角に注意を向けると、確かに三人の魂を感じた。まだ距離があるがどんどん縮まっていく。

 そろそろ霊視でなくても見えるだろうという頃になり目を向ける。が、誰も見当たらなかった。

 ここは障害物のない空中である。

 見つからない筈はないともう一度霊視を使い魂の位置を確認する。

 それから肉眼でその位置をみるがやはり見つからなかった。


 そこで理由を考えたところ、透人は相手が魔法で姿を隠している可能性を思いついた。

 もし味方ならそんな事はしないだろう。


 とは思うが一応アンナに確認をとっておく。


「知り合いにドッキリが好きな人とかいない? 魔法で姿を消して驚かしたりとかする人」

「ふぇ? そんな人いないよ? それより嫌な予感ってなに?」


 頭に疑問府を浮かべるアンナを置いて透人は三人組はやはりアンナを狙う敵だと確信した。

 助けを呼ぶ時間は無い。

 ならば二人で何とかするしかないだろう。


「観鳥さん。今から前の時みたいに闘いになるかもしれない」

「え……そうなの?」

「うん。向こうから姿を消した悪の魔法使いが来るんだよ」

「ふぇ? じゃあ何で分かったの?」

「あぁ、それは……気配だよ」

「気配?」

「まあ、分かった理由はともかくちょっと作戦会議をしようか」


 霊視の事を隠そうと適当に言ったらアンナに変な顔をされてしまったが、透人は強引に話を進めた。

 その間は相手に気づいているのを悟られないように注意する。

 そうして透人とアンナは奇襲を仕掛けてくる相手を逆に奇襲すべく出来る限りの準備をして待ち構えていた。




 そして、ひとまず作戦は成功した。

 箒に乗って作った足場から数メートル上空で待機。

 それから壁を張り、ぶつかった相手に飛行魔法を打ち消して落とす魔法を使った。

 二発目は防がれてしまったものの、一人は無力化に成功したのだ。


 しかし、気を緩めてはいけない。

 相手はこんな仕事を請け負うような実力者。

 それにまだ残る二人の姿は見えていない。透人は霊視で分かるのだがそれをアンナに伝えるのは難しい。

 数は同じでもまだ透人達の方が不利なのである。

 先程の落とす魔法はこの状況では有効なのだが扱いが難しい。魔法陣は基本的に魔法をかける対象と距離があるほど効力が弱くなるので近づかねばならないのだ。

 更に相手の魔法に干渉する関係上、発動に時間がかかってしまう。

 手の内を知られた以上警戒しているだろうから、成功させる為には隙が必要だ。


 ここからは慎重にいこう、としばらく様子を見ていると渋い声が聞こえてきた。


「何故分かった? 探知魔法への対策もしていたつもりだったんだがな」

「自首して雇い主を白状するなら教えてもいいですよ」

「残念だがそいつは無理な相談だな」


 その言葉が終わると同時に頭上からの突風が吹き荒れる。

 渋い声が話してしている間に一人が既に動いていたのだ。


 風の流れを操作されているのか透人とアンナは別々の方向に吹き飛ばされ、引き離されてしまった。

 このままではマズイと早く合流しようとするが風が吹き続けているので上手く飛べない。

 そうした中でアンナは自分の魔法で風の影響を打ち消しながら確実に進んでいた。

 しかし、その横から一つの魂がアンナに迫っているのを透人は感じとる。


「観鳥さん右!」

「えっ、うん! ショット!」


 アンナが空気弾を放つと近づいていた魂は急上昇した。それから再びアンナに向かっていく。

 角度を伝えるのは難しいので指示の内容を変える。


「左に移動!」

「うん!」


 透人の指示の通りにアンナが左に移動した直後、迫っていた魂が動きを止めた。

 そして、透人がいる方向へと進路を変えて飛んでくる。

 透人はその動きに合わせて何度も空気弾を放つがことごとく避けられてしまった。

 相手の実力もあるが、ただでさえ風のせいで不安定な上にずっと霊視を使い続けている疲れもあり上手く狙えないのだ。

 透人の空気弾をかすりもせずに軽やかにかいくぐって魂が接近してくる。もう間にある距離は僅か。


 アンナとの合流が遅くなるが仕方ない。

 透人はとりあえず迎撃を止め距離をとろうとする。

 その瞬間、風向きが変わった。

 透人を背後から押し出すように流れている。その流れに乗れば目の前の相手に接触しまうだろう。

 風に抵抗するので精一杯で思うように逃げられない。


「どうやら我々が見えるのは君一人だけらしいな。ならば君には一足先に退場してもらおう」


 その余裕に満ちた声の調子からは透人の退場が既に確定しているかのごとく聞こえる。

 このままでは確かにそうなるだろうが、だからといって諦める道理はない。

 どうせ逃げられないなら、と透人は風の流れに逆らう事を止めた。むしろ風の勢いを利用する。

 相手を引きつけてからの体当たり。

 自分の力だけでは出せない速度での突進。

 しかし、虚をついた筈のそれも軽々と回避され、更にすれ違い様に箒の柄を掴まれてしまう。


「崩れよ」


 渋い声が透人の耳に届いた瞬間、乗っていた箒が魔法の効力でボロボロに崩れ去った。

 飛行する力を失ってそのまま落下していく。


「とうどくん!」


 透人の状況に気づいたアンナが叫びをあげながらこちらに向かってきた。

 その必死な声からは何が何でも透人を助けようという気持ちが伝わってくる。

 しかし、危険なのはアンナも同様だった。


「観鳥さん、ここにいたのがそっちにいった!」


 その警告で自分の置かれた状況を理解したのか、少しの躊躇を見せた後に別方向に飛んでいった。

 二人が離れた場合は合流出来るまでひたすら回避に専念するようあらかじめ決めていたのだ。

 といっても見えない相手の攻撃を避けながら透人の下へとたどり着くのは相当困難だ。


 どうやら助けは望めそうもない。

 だったら自分で何とかするしかないのだろう。

 幸い、手段ならばある。


「重力軽減」


 まず透人は自らにかかる重力を操作した。

 それでも加速度が小さくなるだけだ。落下の速度が遅くなる訳でも、ましてや落下が止まる訳ではない。

 透人は次に空気弾の魔法を使った。

 何度も何度も使い続ける。

 だんだんと速度が遅くなっていくがこのままでは助からない。

 真下にあった古いビルの屋上が時間と共に大きくなっていく。

 透人は最後に、近づいてきた屋上の床に対して物体の硬度を変化させる魔法を使用した。

 そしてついに落下の時間は終わり、透人はビルの屋上へと叩きつけられた。


 鈍い音が響き、粉塵が舞う。

 床には大きな凹みが出来ており、その中に透人は倒れていた。

 もの凄い衝撃を感じたが何とか生きている。

 散々使った魔法のおかげだ。

 体中から痛みがするが動けない程ではない。

 だったら自分は大丈夫だ。


 飛ぶ方法が無い今、これからどうやってアンナと合流しようかと考えを巡らせる。

 しかも、ただ合流するだけではいけない。ここから逆転するには何か手が必要だ。

 が、どちらも特にいい考えは浮かばない。

 ここでジッとしていてもしょうがないと立ち上がったところ、ボコッという嫌な予感のする音がした。


「おうっ?」


 そして透人は再び落下していく。

 音の正体は床が抜けた際のものだったのだ。

 元々古かったのに空気弾と硬度変化のせいで限界に達したのかもしれない。

 今度の落下距離は先程と比べると大したものではない。

 それに重力軽減の効果も残っていたので再度の落下も無事に済んだ。


 それでも時間を無駄にしてしまった。

 とりあえず屋上に戻ろうと起き上がり周りを見渡すと、様子が異常な事に気づいた。

 人が倒れている上に半透明の異形の存在がいたのだ。


「またお前か…………!」


 更に聞き覚えのある声がしたのでそちらに顔を向けると、そこにはつい先程あったばかりの人物がいた。


「まあ、うん…………御上君久しぶり」


 御上清慈郎。にわかの透人とは違う本職の霊能力者。

 逆転の鍵になるかもしれない。

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