表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第一章
2/141

第一話 非日常の世界へ

「ん? んー。んんんー?」


 夜道を歩く少年が、ふと立ち止まった。

 首をかしげ、キョロキョロと辺りを見回し、唸る。突然湧いてきた妙な居心地の悪さや不快さに疑念を覚えたせいだった。天気の良い春の夜で、むしろ過ごしやすい空気のはずなのに、と。


 少年は明海透人(あけみとうど)。仕草はともかく、表情にはあまり変化が無く外からは何を考えているかよく分からない。

 分かりにくいが、無感情ではない。今も現状を不気味に思い、恐いと思っている。

 ただ考えた結果、この不思議な感覚を無視する事に決めた。


 何故なら今は夜。無駄に遠回りしたくはなく、帰りたいのだ。

 今の外食も遊びに来た友達の忘れ物を届けるのが目的であり、その家は歩いて五分もかからない距離にあるのだ。だからわざわざ遠回りしたくはなかった。実利的な理由があれば恐さは無視する、そういう度胸が透人にはある。


 だから透人は特に無理に急ごうともせず普段のペースで歩いていた。無表情のまま鼻歌混じりに。

 だが、途中で近所の公園から何か音が聞こえる事に気付いた。

 こんな時間に何をしているのか不審に思った透人は足を止め、公園の様子を窺う。すると。


 バシイィッ!

 と、今まで聞いた事のない不思議な音を聞いた。

 夜の公園と謎の音。

 明らかに厄介事の匂いがするが、だからこそ透人にはそれが何なのか気になってしまう。原因不明の妙な居心地の悪さはともかく、出所がはっきりしているのなら話は別だ。透人は気になった事はとことん調べないと気がすまない性格の持ち主である。それなりの正義感もあって、すぐ警察を呼べるように備えもした。

 とりあえず遠くから何の音なのかだけでも確認してみるか。そんな事を考えながら、何の躊躇いもなく公園に入っていくのだった。


 透人は植え込みに身を隠しながら公園の中央部が見渡せる位置に辿り着く。そこから見えたのは二人の人物。一人は地面に倒れていて顔が見えなかったが体格からすると成人男性のようだった。

 そして、もう一人の顔を透人は知っていた。なぜなら、その人物はこの春進学したばかりの高校で同じクラスの、御上清慈郎(みかみせいじろう)だったからだ。

 

 清慈郎はその男性アイドル並みに整った顔と高い身長から学校では女子に人気がある。その上、誰に対しても素っ気ない態度をとっているため嫌っている男子は多い。


 そんな清慈郎は今、透人が隠れて見ている中、夜の公園で動き回りながら腕を振り回していた。

 

 さて、清慈郎は一体何をしているのだろう。

 格闘技の練習か何かだろうか。そもそももう一人は何故倒れているのか。さっきの音は何だったのか。清慈郎の姿を見ても疑問は解決せず、むしろ最初より増えている。

 もう直接聞いてみようか。透人がそう考えた時、突然清慈郎は透人がいる方向を向き、そのまま走り出した。

 見つかったならしょうがないか。そう思った透人は立ち上がろうとしたが。


「!?」


 その前に、突然意識を失った。



 意識を取り戻した透人は目の前に清慈郎が立っている事に気付いた。それにいつの間にか隠れていた場所から出てしまっている。その事を疑問に思ったが、まずは清慈郎が何をしていたのかを聞こうとした。


 だが透人の口から出てきたのは、


「よお霊媒師、悪いがまだまだ付き合ってもらうぜえ」


 そんな透人のものではない重い響きの声だった。

 試してみたが、口だけでなく体も思ったように動かない。自らの体を何者かが勝手に動かしている。そんな異常な状況に置かれた透人は。


 ──さっき霊媒師って言ってたな。それで体を乗っ取られてるって事は俺は今、幽霊に取り憑かれてるのか? じゃあ御上君はさっき見えない霊と闘ってたのか?


 普段と変わらぬ調子で事態を把握しようとしていた。異常事態にもまるで動じずに。


 だが、そうしている間にまた透人の口は勝手に動く。


「おっと動くなよ。この体がどうなってもいいのか?」

「貴様ら悪霊に従う必要は無いな」


 ──ああ成程、やっぱり幽霊で合ってたんだ


「んな事言ったところで見捨てられねえんだろ?」

「見捨てずとも貴様を滅する方法ならある」


 ──あれ、ところで体を乗っとられてるのに意識はあるのって普通なのか? こういう時意識は無いんじゃないのか? 俺が特別なのか、それともこの悪霊が特別なのか、どうなんだろ?


 透人がそう考えた時。


「つーかよお、さっきから煩えんだよてめえ!」


 突然悪霊はそう叫んだ。悪霊の言葉に驚いたのか清滋郎も呆気にとられている。


 ──いきなりどうしたんだろ? さっきまで御上君と普通に話してたのに。


「てめえだよ、てめえ! この体の持ち主! 何で意識あんだよ!」


 ──おお、何だ俺か。やっぱり意識あるのは普通じゃないのか。というかこの心の声聞こえてたのか。じゃあ、ちょうどいいな。これって俺が特別なんですか?


「知るか! オレに聞いてんじゃねえ!」


 ──んー、分かんないのか。御上君なら分かるかな。じゃあ今はいいや。


「てめえ、立場分かってんのか。オレ次第でてめえは死ぬんだぞ」


 ──それもそだね。でもこんな事してる場合じゃ無いんじゃないの。


「あぁ!?」


 ──後ろ。


 その言葉で悪霊は後ろを振り返るが、その視線の先には何も無かった。


「あ?」


 そして悪霊は前に向き直るが、そこにはすぐ目の前まで近付いていた清滋郎の姿があった。


「! クソッ」


 そして清滋郎は持っていたお札を透人の額に押しつけ「浄」と呟く。すると。


 バシイィッ


 透人をこの世界に導いた音が響いた。

 

「成程、あの音は倒れてた人の体から悪霊を追い出した時の音だったのか。で、何で俺も追い出されてんの?」


 推測から納得したが、また新たな疑問が増えた。

 透人は今自らの体が倒れている場所から三メートル程上空に半透明の状態で浮いていた。

 そして、目の前には同じく半透明でありながら爪は獣のように鋭く、体のあちこちが肥大化した、異形の存在がいた。その存在は黒いオーラの様なものを纏っている。

 おそらく、さっきまで透人にとりついていた悪霊だろう。


「てめえ、よくもオレをコケにしてくれたな」


 その声は透人の体にいた時よりも重くドス黒い感情に満ちていた。それでも透人は怖じける事無く言う。


「いや、まさかあんな手に引っ掛かるとは。あれかな、考えがまとまる前に思い付きで言ったから分からなかったのかな」

「クッ、ククッ」


 その声を聞いた悪霊はしばらく顔を伏せ、体を振るわせていた。だが、顔を上げた時、その表情は憎悪にそまっていた。


「てめえ、覚悟は出来てんだよなぁ!!!」


 悪霊は腕を突きだし透人へと迫る。透人は逃げようとしたのだが。


「うおっ……あれ?」


 霊となった体をうまく動かす事ができなかった。そのまま悪霊の爪が逃げられない透人を引き裂こうとした時。


 下から半透明の刃のようなものが伸びてきて悪霊の爪を弾いた。その刃をたどっていくと清滋郎の腕からのびている事がわかった。最初に腕を振り回していたのもこの刃で闘っていたのだろう。


 透人への攻撃を邪魔された悪霊は清滋郎を憎らしげに睨む。


「邪魔してんじゃねえよ!!!」


 そう叫んでまっすぐ迫ってくる悪霊に対し、清滋郎は腕からのびる半透明の刃を構える。そして、悪霊が攻撃するために爪を振り上げた時。


「ハァッ!」


 気合いと共に刃を振るった。その軌跡が悪霊の胴体を通り過ぎた瞬間。


「グッ、アアアアアアアア!!」


 絶叫を残し悪霊は消滅した。




「うん、とりあえずありがとう御上君」


 悪霊が消滅した後、透人は清滋郎に体に戻してもらった。そこでやっと清滋郎とまともに話す事ができた。


「で、聞きたい事が山程あるんだけど」


 透人は公園に入ってから増え続けた疑問を解消しようとしたが。


「確か明海だったか。これは俺達の仕事だ。一般人が関わっていい世界じゃない。悪いが、記憶を消させてもらう」

「ん?」


 清滋郎がお札を透人の額に押しつけ「失」と呟く。

 すると透人はまたもや意識を失った。



  *



 清滋郎が透人の記憶を消し公園を出ていった後、隠れて一部始終を見ていた人物が姿を表した。その人物は緊張感に満ちた声でどこかへ電話をかける。


「こちらホワイト。監視対象について報告したい事が」


「今回コードネームブルーは悪霊を撃退しましたがその際、応征学園一年C組明海透人と接触しました」


「ええ、明海透人は悪霊にとりつかれましたが、その間意識があった様です。ブルーが最後に記憶を消していましたが」


「了解しました。明海透人を監視対象に追加。但し、優先順位は最低に」


「……え? ヤダな~。自分もノリノリだったじゃ~ん」


「うん分かった、とりあえず今日は予定通りで、明海君は明日の様子次第だね」


「じゃあ私は追っかけに戻るから。また明日~」


 そして、緊張感を台無しにした監視者は清滋郎のあとを追いかけていった。



  *



 動くもののいなくなった夜の公園で透人は目を覚ました。透人は上半身を起こし辺りを見回す。


「……あれ、ここ公園?」


 何故自分はこんなところで寝ていたのか。透人は思い出そうとする。


「えーと、確か充の忘れ物を届けに家を出て……そうか、この公園の入り口で変な音を聞いたのか。それで中に入ったら……うん、御上君がいたんだ。その後は……ああ、思い出した。悪霊と御上君が闘って、倒した後に記憶を消させてもらうとか言われたんだ。成程、それで気絶してたのか。………………うん? 消えてないな、記憶」


 そして透人は考え込む。


 今夜の異常事態は、下手をすれば命にも関わる事態だった。

 ここから先は清滋郎が言った通り一般人が関わるべきではないだろう。もし関わろうとすれば、透人は今まで通りの生活はできなくなるかもしれない。透人はそんな人生の大きな分岐点に立たされているのだが。


「う~ん、聞きたい事は山程あるし明日、御上君にきいてみるか」


 相変わらずの呑気な調子で非日常の世界へと踏み込もうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ