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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第三章

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第十四話 ちっぽけな力

 透人が目を覚ました時、頭痛はおさまっていた。ただし、その代わりに体に異変を感じていた。宙に浮かんでいるというだけでなく、体全体に妙な感じがするのだ。

 それは体の中に異物が入り込んで気持ち悪いような、それでいて心地良いような不思議なものだった。

 ただ、透人はその感覚を前にも感じた事があった。

 それは魔法を身に付ける為に契約した時だ。

 そこに思い至った透人はある可能性を思い付く。

 頭痛がしたのはサイコキネシスで体を動かされた時だ。その際に何処かに頭をぶつけた訳ではない。


 だったら頭痛の原因はそういう事なのではないか。


 透人はまず肩にかかったままのショルダーバッグのジッパーを触る。そして、それを意識して動くところを強くイメージしてみた。

 するとジッパーがイメージした通りに揺れ動いたのだ。


「うん。何か……できたな」


 思い付いた可能性に絶対の自信があった訳ではない。それを使う方法も頭に浮かんだ事を適当にやってみただけだった。それでも成功してしまった。

 これはつまりサイコキネシス、超能力が使えるようになったのだろう。

 そのままジッパーを実験台に色々試してみる。


「ぐあぁ!」


 そこに紅輝の声が聞こえてきた。

 透人が前を向くと紅輝が地面に倒れていくのが見えた。いつの間にか紅輝はあちこちに傷を負っている。

 それで透人は危険な状況に置かれているのを思い出した。

 透人は頭痛の原因について集中していたせいでその事を意識の外に出していたのだ。

 透人は物事に集中すると周りを意識しなくなる事があるが、この状況を忘れていたというのは危機感が足りないのではないか。あるいは大物なのかもしれないが。


 それはともかく、透人は倒れている紅輝に対して罪悪感を抱いた。

 紅輝が負けそうになっているのは透人が人質となり炎を出せなくなったからだろう。そうなったのは透人が紅輝から離れたせいだ。

 だったらその尻拭いは自分でするべきだ。

 そう透人は決意を固める。


 超能力が使えるようになった今、魔法がバレるリスクを冒さずとも堂々と立ち向かう事ができるのだ。

 透人はバッグから分厚い本を取り出す。そして手に載せたまま回転させたり浮かせたりして自由に動かせる事を確認した。

 これなら大丈夫だろう、と透人は判断し後ろを振り向くと貞次に向かって本を投げつけた。


「必死の抵抗のつもりかい?」


 貞次が憐れんだような声を出したが無視して集中する。そして本が貞次の死角に入ったところで頭に当たる様に本の軌道をイメージした。その結果、イメージの通りに本は動き貞次の頭に命中した。

 ただ、成功したが気絶させる程の力は無かった。

 隙を作るのがせいぜいか。透人がそう考えていると貞次が話し始めた。


「……どうやら僕の力が引き金となって君の持つ同じ力を目覚めさせてしまったようだね」

「あー、そういう理屈だったんですね」


 透人はその辺りの事情について興味があったがそんな場合ではない。

 サイコキネシスで本を動かしてもう一度貞次にぶつけようとした。

 しかし、今度は腕で防がれてしまう。しかもその後、別の軌道をイメージをする前に貞次に本を掴まれて動かせなくなってしまった。

 そして貞次は余裕の表情で語りかけてくる。


「目覚めたばかりだというのにずいぶんと使いこなしているね。どうかな?その力を僕と共に使う気はないかな?」

「無いです。あなたみたいな人嫌いなんで」

「そうか。残念だよ」


 貞次の提案を透人がキッパリと断る。

 それに貞次が答えるのと同時に透人の体は地面に叩きつけられた。その後に透人の体は再び浮かび上がり、そしてもう一度地面に叩きつけられる。

 それが何度も繰り返される。

 その繰り返される衝撃に透人は顔を歪めるも頭は冷静さを保つていた。


 その中で透人はどうするべきか考えていたのだ。

 いくら分厚いといってもも本では駄目だった。

 かといってそれ以上重い物は持っていないし近くにも無い。

 試しに離れたところのブロックや鉄板を見てイメージしてみたが動かせなかった。

 自分の力では大した事はできないのかもしれない。

 そうちらりと思ったが、諦めずに自分の持ち物を確認し何ができるかを考え、そして気づいた。


 大した事のできない力でも問題無いのだと。


 透人は町中で貰ったポケットティッシュを取り出す。そして体が浮かんだタイミングで中身を全て出して貞次の方に投げた。

 そのティッシュを透人が操作する。ティッシュが多少バラけながらもまとめて動かし、そして広げる。

 そうする事で貞次の視界を覆い尽くした。


「なっ!?」


 貞次はティッシュを振り払うがそれで退かせるのは一部だけだった。退かした分はすぐに奥のものがうめる。振り払われたものも動かせなくなった訳ではないのでその状態を維持できなくなる事は無い。

 透人はそうして貞次の視覚を奪う事により攻撃を封じた。


 ここには紅輝もいる。だから、透人はサポートに回ればいいのだ。

 紅輝は透人の意図を理解したのか炎を出して透人を迂回する軌道で貞次に放った。

 しかし、貞次もその事に気づいたようだ。


「これがどうしたっ!」


 貞次は叫ぶと透人の体を自らの近くに引き寄せ始めた。見えなくても自分とサイコキネシスで操っているものとの位置関係は解るのだろう。

 接触するほどの距離にいれば貞次を狙ったとしても透人も炎に巻き込まれてしまう。紅輝はそれをしないと判断したらしい。

 事実、紅輝は炎を止めた。


 だが、透人にとっては好都合だった。

 突然予想外の出来事が起こり、パニックになっているのかもしれない。だが、今まで距離を離していたのは警戒していたのではないのだろうか。

 透人は膝を曲げ、首だけで振り返りタイミングを計る。そして貞次に充分近づいた時、足を勢い良く背後につき出した。


「がはっ!」


 空中に浮いている為に地面を蹴る事はできなかった。それでもサイコキネシスによる勢いが加わった蹴りには貞次を倒れさせる力があった。

 サイコキネシスを維持できなくなったのか貞次が倒れた時、透人も地面に落ちた。

 そして、その横を炎が通り過ぎる。


「ああああぁぁ!!」


 炎は貞次に燃え移り悲鳴をあげさせた。貞次は地面を転がり消そうとするが弱まる事はない。


「ああぁぁ………あ?」


 しかし、ある時悲鳴は途切れた。炎が突然消え去ったのだ。

 ただし、炎の代わりに貞次の目の前には紅輝がいた。貞次がそれに気づいた時、紅輝はその胸ぐらを掴んでいた。


「安心しろよ。オレはお前とは違う。ちゃんと手加減はしてやるよ」


 紅輝はそう言うと貞次の顔面を思いっきり殴りつけた。



  *



「悪かったな、透人。助かった」


 紅輝は気を失った貞次を持ってきていた紐で縛り上げた後、透人に声をかけた。


「いやいや、お互い様だよ。紅輝がいないとどうしようもなかったし。そもそも俺のせいだし」

「……それもそうだな」


 紅輝はそう言ったきり何があったのか透人に追及しなかった。あまり話したい気分ではないのだ。

 だがそんな紅輝を気にせず透人は話を続ける。


「それより聞きたい事があるんだけど、いい?」

「………何だ?」

「最後はパンチなの?」


 あちこち傷だらけになっている透人はこんな事を聞いてきた。紅輝はもっと他に言う事があるだろうと思ったが気にしない事にした。


「…まあ、やり過ぎる訳にはいかないからな。無力化できるなら何でもいいだろ」

「まあ、そうだね。それで?」

「それで? 何言ってんだよ」

「いや、顔見たらさ、それだけじゃない気がして」

「…………」


 確かに紅輝が貞次を殴った理由はやり過ぎないため、だけではない。

 もっと複雑な思いがあっての事だ。

 それが顔に出てしまっていたのか。


「別に、そんな大した理由じゃない」

「ふーん、確かに俺も超能力をあんな事に使うなんて嫌だけど」

「ああ。………あぁ!?」


 紅輝はうっかり同意してしまった後で透人の言葉に驚いた。


「おい、待て待て。さっきのどういう意味だ!?」

「ん? 何か嫌そうな顔だったからそうかな、と。本当だった?」


 カマをかけられたのか。

 しかし、勘がいいと言うか察しがいいと言うか。何故分かったのだろうか。

 やっぱりこの会話のペースが握られている感じはどうにも苦手だ。

 でも、ちょうどいい機会かもしれない。

 紅輝はそう考え、透人に語り始めた。


「……超能力での闘いなんてしてると普通の人間とは違うって改めて実感させられるんだよ。それに、相手が超能力を悪用する人間で、そいつを捕まえるためだとしてもオレの力を人間に向けるのは気分のいいもんじゃない。だから、なるべくなら使いたくないんだよ。まあ、使うしかないんだけどな」


 紅輝は苦い表情で自嘲した。

 重い空気が辺りを包む。

 だが、透人はそれをものともせず呑気な調子で答える。


「うん、何となく解るかな。俺も暴力で解決なんてなるべくしたくないし」

「…その割には容赦無かったぞ」

「まあ、自分が選んだ事だからね。多少嫌でも我慢しないと」

「……あぁ? どういう意味だよ?」

「自分のやりたい事の為なら苦労でも嫌な事でも何でもしないとって事だよ。今日はあの人を止めたかったからさ、他に方法がないなら仕方ないよ」

「………その使い方はおかしいだろ」

「うん。よく言われる」


 紅輝は透人の答えに言葉を失った。どう対応していいのか分からない。

 やっぱり調子が狂う。

 ただ、超能力で闘うというのは紅輝が自分で決めた事だ。だったら、うじうじ悩むべきではないかもしれない。


「まあ、それは置いといて。それより、俺なんか超能力が使える上に幽霊も見えるんだよ。それに比べたら紅輝の方が普通の人間だと思うよ」

「……………確かにお前は普通じゃないな」

「そうそう。御上君とか普通じゃない人は他にも結構いるみたいだし」


 さっきの透人の理屈はともかく、これは励ましているのだろうか。

 自分の方が普通じゃないと認めていたのだが解っているのか。

 やっぱり透人はよく解らない。

 ただ、悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。

 そんな風に紅輝が透人の言葉について考えているとその本人が声をかけてきた。


「じゃあ俺はこれで」

「ああ。………いや待て、どこ行く気だ!?」


 透人はこれで終わったとばかりに何食わぬ顔で歩き出した。

 紅輝はそれを見送りかけて途中で肩を掴んで止める。用はまだ終わっていない。


「ん? 話は終わったから帰ろうと」

「むしろこれからだよ! 今から機関に行って、さっきの奴についての事情聴取とお前の登録があんだよ!」

「あー、つまり超能力者の組織に行って俺が新しく仲間入りするのか」

「ああ、超能力の事を知られただけならともかく使えるようになっただろ」

「うん。俺も超能力者になったね。それに超能力者の組織は気になってたから見てみたいと思う。でも今日の事説明するの面倒臭いんだけど」

「それこそ我慢しろよ!」


 透人はこれから今日の一件について話がある事を分かった上で逃げようとしていたらしい。


「お前がどっか行ってたせいで大変な事になったんだろ! これ以上面倒かけるな!」

「あ、今言うのそれ。まあ、確かにそうなんだけど」


 そのまま紅輝が面倒臭がる透人を説得しようとしていると、その場に中年男性が現れた。

 紅輝はその男性に早く来るよう促している。という事は仲間の超能力者なのだろう。

 結局、透人は逃げるのを諦めて大人しくついていった。

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