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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第三章

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第十二話 挑発と逃走

 紅輝が電話をしていた時、透人は相手を把握し、この二人やっぱり仲良いなぁ、と思いながらその姿を眺めていた。

 しかし、ふと視界の端に気になる光景を見つけてしまった。


「おーい」


 透人は紅輝に呼びかけるが電話に集中しているのか聞こえていないようだった。そこで透人はどうするべきか考える。


「うーん。まあ、すぐ合流できるか」


 その結果、透人は紅輝を置いて一人で気になる光景に首を突っ込む事にしたのだった。




 人目につきにくい狭い路地。

 そこでは帽子を被った少年と髪を染めた少年と気の弱そうな少年の三人が穏やかでない話をしていた。


「オラ、さっさと出せよ」

「そっちからぶつかってきたんだ。謝るだけで済むなんて思ってねえよな」

「ひっ、えっ……そんな……」


 透人が気になった光景、それは柄の悪い二人の少年達が気の弱そうな少年を連れて狭い路地に入っていく、というものだった。その三人を追いかけた透人は予想通りの展開を目にした。

 透人は放っておく訳にはいかないと行動を起こす。


「もしもし、警察ですか。今目の前で恐喝事件が発生しているんですけど」


 透人は携帯電話を顔に当てて声を出した。

 それを聞いて透人の存在に気づいたのか三人の視線が透人に集まった。そして不良少年の一人、帽子を被った方が透人に近づいてきた。


「あ? オイしてんだてめえ」

「あー、逃げずに向かってきちゃった?」


 透人は携帯電話をしまった。

 通報しても警察が到着するまで絡まれている少年が無事とは限らない。それに後の事が面倒だ。そのため、逃げてくれる事を期待して通報する振りをしていたのだった。


「ハッタリかよ。ナメてんのか」

「やっぱり『お巡りさん、こっちですよ』の方が良かった? でも前に使った時普通にバレたんだよね」

「やっぱりナメてんな、てめえ」


 帽子の不良少年は怒りの表情を浮かべ透人の胸ぐらを掴む。


「正義の味方のつもりかよ」

「いやー、こういうの見ちゃったのに放っておくとさ、何かモヤモヤするというか罪悪感にさいなまれるというか」

「ハッ! 今更放っておけばよかった、なんて言うなよ」

「あー、こうなったらしょうがないね」


 帽子の不良少年がしゃべりながら握り拳を構えたので次の行動を起こされる前に透人は足を上げた。


「うぐっ!」


 それにより膝が目の前の少年の股間に当たり、その相手は股間をおさえてうずくまった。

 透人は無力化した帽子の少年の横を通り抜けて路地の奥へ進んでいく。


「っ! この野郎!」


 うずくまる仲間を見たもう一人の不良少年が腕を振りかぶり透人に向かって殴りかかってきた。

 透人はそれに反応し、肩にかけていたショルダーバッグを両手でしっかり持って前に掲げた。中に入っている買ったばかりのハードカバーの本の角が相手の拳に当たるようにして。


「ってえ!」


 髪を染めた少年は拳をおさえて立ち止まり、透人はその横も通り抜けた。二人共突破した透人は絡まれていた少年に声をかける。


「ほらほら、逃げるよ」

「えっ、ええと……うん」


 透人はぽかんとしていた少年の背中を押して走り出した。

 狭い路地を抜けると辺りに人がいない寂れた通りだった。そこで透人は立ち止まる。


「じゃあ君は先に行って」

「え? でも……」

「いいからいいから。ほらはやく」


 少年は躊躇いを見せたが最後には透人に従い走り出した。

 そのすぐ後で荒々しい声が聞こえてきた。


「待ちやがれコラァ!」


 透人はその声を聞いても平然としていた。そして、曲がり角に身を隠したまま声と足音からタイミングを計り、路地の入り口に足をつき出した。


「うおっ!?」

「のあっ!?」


 髪を染めた少年がその足につまずきたたらを踏む。そこに復活していた帽子の少年がぶつかり派手に転んだ。

 それを確認した透人は先に逃がした少年の後を追って走り出した。途中にあるゴミ箱等をひっくり返して相手が追ってくるのを妨害をしながら。


「何か久しぶりだなぁ、こういうの」


 その途中で独り言をもらした。

 こういう事は中学生の時にも何度かあり、透人は充や他の友達も巻き込んでしまう事があった。その度に「関係無い事に首を突っ込むのは止めろ」等と言われていたが透人は変わらなかった。

 笑亜に色々言われていたがこういった経験が何事にも動じない性格にしたのかもしれない。いや、最初からこんな性格だったからこそ危険な事にも首を突っ込んでいた可能性もあるのだが。

 それはともかく透人がこんな場面に出くわしたのは高校生になってからは初めてだった。もっと危険な事には何度か巻き込まれていたが。

 今日もその「もっと危険な事」がある予定だったのにその前に関係無いものに首を突っ込んでしまった。


 走りながら追ってくる不良少年達の様子を伺っていた透人だったが、ふとある可能性を思い付き呟いた。


「この二人は超能力者じゃないよな?」


 透人は紅輝から自分を襲うかもしれない超能力者の情報を教えてもらっていた。その情報によると正倉貞次という二十代の男らしい。

 そのため超能力とは関係なさそうだと思ったから紅輝と離れてきたのだがそれには何の根拠も無い。もしかしたらこの二人の仲間か元締めのような存在だという可能性もある。決めつけるのはまずかったかもしれない。

 どっちにしろ紅輝とは早く合流するべきだろう。

 と、その時。透人は前方から歩いてくる人影を見つけた。

 噂をすればなんとやらか、とも思ったがただの一般人かもしれない。まだ距離があり顔はよく見えなかったのでどちらとも断定できない。

 透人は一応警戒しつつ声をかけた。


「あー、すいません。ここから離れたほうがいいですよ」

「ああ、心配はいらない。僕はある少年に助けを求められて来たんだ。任せておきたまえ」

「ん?」


 どうやら先に逃がした少年が近くにいた大人に助けを求めたらしい。不良少年達とは関係無いようだ。

 敵対的ではなかったので警戒を解いて透人は男の横を通り過ぎる。

 しかし、歩いてきた人影は痩せてひょろっとした男だった。とてもこの状況を任せられるようには見えない。透人は何故こんなに自信があるのかと疑問を覚えた。

 だがその疑問はすぐに消え去った。


「この……社会の屑共め」


 呟きとともに男の纏う雰囲気がガラッと変わり透人を身構えさせたのだ。

 透人はその声にこめられた狂気を感じ、気づいた時には背後を振り返り叫んでいた。


「危ない!」


 それを聞いた不良少年は歩いてくる男に暴言を吐く。

 完全に誰に対して言ったのかを勘違いしていた。


「へっ! そうだぜおっさん。どかねえと怪我……する……事………は?」


 髪を染めた少年の声はどんどん小さくなっていき最後には呆けた顔で固まった。

 それは目の前で男が触れていた近くの店の看板が宙に浮かんでいったからだ。それは次の瞬間、髪を染めた少年に勢い良く衝突し、後ろの帽子の少年も巻き込んで倒れさせた。


「あがっ!」

「ぐおっ!」


 宙に浮く物体。攻撃を受ける不良少年達。

 目の前の光景を見た透人は何が行われたのかを理解して呟いた。


「……サイコキネシス」

「おや、解ったのか。すると君も仲間なのかな」


 サイコキネシスを使った男は少し驚いた顔で振り返った。

 ここで初めて透人ははっきりと男の顔を確認できた。それで確信した。

 目の前の男が自分を襲うかもしれない超能力者、正倉貞次だという事を。

 ただ、透人の事を超能力者だと思っている割には警戒していない。それにこの場所は人気がないとはいえ、こんな目立つ出来事を起こしている。

 という事は自分が追われる立場だと理解していないのか、あるいは理解していながら事件を起こしているのか。どちらにしろ何をするか分からない危険人物のようだ。

 知っているというのは隠しておいた方がいい、と透人は判断した。


「いえ、俺はただの一般人です」

「そうか。まあ、興味があるならそこで見ていたまえ。僕が屑共に裁きを下すところを」


 貞次は透人の言葉に反応を返すと不良少年達の方を向いた。深く追及してこないという事はそれほど興味は無かったのだろう。


「屑め」


 そして蔑む様な目で二人を見据えると攻撃を再開する。倒れて動かない不良少年達に対し、何度も何度も必要以上に看板を叩きつけていく。

 その光景を見て透人は思った。


 自分がこのまま何も行動を起こさなければ予知は覆るかもしれない、と。


 今のところ貞次に透人を攻撃する理由は無い。背中を見せたまま透人を全く気にしていないので目撃者をどうこうする気は無いようなのだ。

 ここで貞次の行動を邪魔するなりして理由を作る事ではじめて予知の通りになる筈だ。

 だったらどうするべきか。

 確かにあの二人に透人はさっきまで追われていた。カツアゲも今日が初めてではないだろう。しかし、どう考えてもやり過ぎである。

 黙って見ている訳にはいかなかった。


「止めて下さい」

「何故だね? 君も追われていたじゃないか」 

「やり過ぎですよ。俺は逃げられればそれでいいんですから」

「その手助けをしているんじゃないか。それに社会の為にもこの屑共にはルールを教え込まなければいけない。これは正義の行いだよ」


 貞次は透人を見もせずに答えた。

 やはり話は通じない。まともな話が駄目ならと透人は反応しそうな挑発をする事にした。


「人のせいにしないで下さいよ」

「……何だと?」


 貞次は首だけで振り返り低い声で言った。目付きも鋭くなっている。

 どうやら透人の予想通りだったようだ。


「過去に何があったか知りませんけどね、どう見ても私怨が込められてますよ。その行動は完全に自分の為ですよね。それを正当化する為に俺や社会の話を持ち出す様な人が正義の味方の振りをしないで下さい」

「…………何を言っているか解らないな。僕は僕の正義で行動しているんだ。君が何と言おうが意思を変えるつもりは無い。もう邪魔をしないでくれるかな」


 話している間に貞次の雰囲気はだんだんと落ち着いていき、最後には透人との話に興味をなくしたように前に向き直った。

 まだ貞次には透人に危害を加える気はないらしい。ここで諦めて逃げ出せば予知は覆るだろう。

 だが、やはり透人は自ら危険に飛び込む事を選択した。


「言葉が駄目ならこうするしかないかな」


 透人は貞次に近づくとショルダーバッグを肩から外し持ち手の部分を握り締める。そして分厚い本が入っていてそこそこ重さがあるそれで男に殴りかかった。


「っ!?」


 貞次は少しよろめいた後、恐ろしい形相をして今度は体ごと振り返る。


「……何の真似かな?」

「助けてくれた恩人を殴りました。これで俺も社会の屑ですかね?」

「……そうか。そこまで僕の正義を邪魔したいと言うんだね。だったら君は、僕にとっての悪だ」


 貞次がそう言った瞬間、不良少年達に叩きつけられていた看板が空中で静止し、動きの方向を変えて透人の方に近づいてきた。

 それを見て標的が自分に変わった事を確認した透人は貞次の反対方向に全速力で走り出した。


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