第十一話 休日の予定
関係者以外は入れないよう厳重なセキュリティが施された建物の広い一室。
そこではある者達が集まり会議を行っていた。
「要請のあったこの事件、やはり超能力によるものでした」
「そうか。犯人は分かったか」
「調査の結果、正倉貞次という男だと判明しました。以前より問題行動が見られていたようです」
「状況は」
「現在行方を眩ませていて捜索は難航しています。ただ、予知が視えたとの報告があります」
「予知か。あまり当てにはできないが…どんなものだ?」
「今週の日曜日、ある少年が被害に遭うイメージが浮かんだそうです」
「ふむ。護衛をつける必要があるか。その少年の素性は?」
「それが火口氏の息子と同じ学校の生徒のようです」
*
金曜日の朝、透人は充と休日の予定について話をしていた。
「悪い、明後日やっぱ無理だ」
「例のキャンセル待ちが出たの?」
「……あー、まあ、そういう事だな」
「ふーん。じゃあどうするかな」
「明日なら大丈夫なんだが」
「じゃあ、それはそんな感じで。そういえば明後日はあれの新刊が出るんだったかな」
と、そこにいつもと雰囲気の違う紅輝が話しかけてきた。
「おい、話がある。ちょっと来い」
「ん? 俺? じゃあ充、ちょっと行ってくる」
「いや、普通もっと何かあるだろ。……別にいいけどよ」
特に断る理由は無いので透人は充との会話を中断し、紅輝について教室を出る。
紅輝はあまり人の通らない一角まで歩いてきた。立ち止まった後もキョロキョロして周りを確認している。
「もしかして超能力関係の話?」
紅輝はぎくっとして振り向く。
「何でそうなる?」
「いや、だって誰にも聞かれたくないんでしょ?」
紅輝の明らかに怪しい行動に対する疑問。
それに紅輝は視線をそらして答える。
「……それだけで決めつけるなよ。オレはただお前の明後日の予定を聞きたいだけだ」
「明後日なら充に急用ができたからどうしようかと思ってたとこだったけど。まあ、一人で買い物になるかな」
「それ、オレもついていっていいか」
「ん? ………別にいいけど、俺が超能力を知ってる事が関係あるの?」
「……いや、だから関係無いって言っただろ」
「だったら他の友達も呼んでいい?」
「……あー……いや、それはちょっとな」
「明後日に何があるの?」
「……あぁいや、別にたまたま予定が空いただけだ」
「じゃあ……俺が超能力者に襲われる予知でもあったの?」
その言葉に紅輝は固まった。
そして慌てながら否定する。
「ななな、何でそうなる? オ、オレは……えー、超能力の存在を知ってるお前と親交を深めようと」
「超能力絡みで関係無い人はいない方が良くて日にちが決まってるんでしょ?」
「……あぁー……いや、だから」
「あー、本当にそうなんだ」
透人は言葉につまって答えられない紅輝を見て確信したようだ。
上手い言い訳が思い付かない紅輝はもう諦めてしまった。
「ああ、そうだよ! その通りだよ! 何で分かったんだよ!?」
「んー、火口君の俺への用は何かって考えてたら何となく思い付いたというか…勘? 後は火口君の態度で」
「勘良すぎだろ!」
紅輝は冷静さを失って声を張り上げていた。
せっかく人が通らない場所に来たのにこれでは意味がなくなってしまう。
それに気づいたのか、紅輝はしまった、というような顔をした後、落ち着いてから小声になる。
「……で、どうすんだ?」
「ん? 何を?」
「だから、前もって分かってんだから家にとじこもってれば安全だろ」
紅輝の提案に乗れば確かに安全だろう。しかし、危険な目にあう事など透人にとっては何でもない。
透人は裏の事件に巻き込まれる運命の持ち主らしいのだ。いきなり遭遇するより事前に分かっているだけマシだ。この機会に経験を積んでいた方がいいだろう。
それに予知を変えようとしたらどうなるか分からない。
「いや、予定通りにするよ。危険人物を野放しにする訳にはいかないし」
「……確かにそうだけどよ。お前は何もできないだろ」
「うん。俺は囮で何とかするのは火口君だね」
「……いや、人任せだからって平然とし過ぎだろ。苦労すんのはオレなんだぞ」
紅輝はずっと落ち着いていた透人を睨んで言った。
*
透人と紅輝の会話の二日後の日曜日。紅輝は不機嫌な顔で透人の家へ向かっていた。
予知は断片的な情報しか得られない事が多いが今回は何が起こるかという内容と日付しか分からなかった。正確には他にも情報はある。しかし場所はどこかの街中、時間は昼間、というだけで手がかりは無いに等しかった。
だから住所を教えてもらい最初から同行する事にしたのだ。
そして、不機嫌な顔をしている理由、それは気に入らない事が多いからだった。
超能力を悪用している人間がいるというのはずっと前からの問題だ。そんな相手と闘わなければならないというのも気分を重くさせる。しかし、それらは自分一人の力ではどうしようもない。
それに今抱えている問題はそれだけではない。
幽霊が見えるとかいうわけの解らない存在に出くわしてしまった上に超能力の存在を知られてしまったのだ。
それについては家族を含めた超能力仲間には話せていない。幽霊の話はともかく超能力を知られた事をずっと黙っている訳にもいかないだろう。
今日の護衛も、する事自体に問題は無いが相手が気に入らない。幽霊が見える奴の一人なのだ。もう一人よりはマシだが、話のペースが崩される苦手な相手だった。
これはもう最初から何かが間違っているとしか思えない。
一つずつ思い返していた紅輝は段々苛々していった。
やがて透人の家に到着した。チャイムを鳴らし透人が出てくるのを待つ。
そして出てきた透人を見た紅輝はここまで来る間に溜まった苛立ちをぶつける。
「何で男なんだよ……!」
「ん?」
「ここは普通美少女が来るところだろ! 偶然秘密を知るのもこうして護衛するのも!! それから秘密を共有した二人の物語が始まるもんだろ!!!」
「………あー、うん。……確かに普通はそうかもね。普通は」
護衛の相手に紅輝はいきなり高めのテンションでつっかかった。
それに微妙に複雑な顔になった透人が同意した事で紅輝はさらにテンションを上げる。
「だろ!? ここはやっぱりアンナさんあたりを希望……ってお前は隣の席の奴狙いでいいんだよな!? アンナさんとは何でもないんだもんな!?」
「ん? いや別にどっちでもないけど」
透人は紅輝からの確認を否定したが紅輝はそれを無視して続ける。
「確かにあの人も可愛いんだが、どうにもお前が羨ましく思えないんだよな。…待てよ、意外な一面があったりするのか? 例えば……二人きりになると甘えてくるとか!?」
「いや、そんなの見た事無いけど」
「じゃあいいわ。お前に任せる」
紅輝は深刻な顔で期待していた様だが透人の答えを聞いてあつさりと態度を変えた。
「それよりいい加減行くぞ。さっさと終わらせたいしな」
「じゃあ、とりあえずこっちから」
時間がかかっていたのは全て紅輝のせいだったが透人はそれに触れずに歩きだした。
紅輝は周りを警戒しながらそれに続く。そして警戒なんてまるでしていない呑気な様子の透人に疑問を感じ確認をとる。
「オイ、今日何があるのか本当に解ってんのか?」
「うん。まあ、いつでも逃げられる準備はしておくよ」
「……………あぁ。解ってんならいい」
透人の口調からは全く緊張感が感じられず、本当に解っているとは思えなかった。
元々超能力とは無関係の人間だったのだから仕方ないのかもしれないが、その分自分がしっかりするしかない。
紅輝はため息をつき、気を引き締めるのだった。
それから一時間程経過した頃。
「よし透人、ゲーセンでも行かね!?」
「うん。じゃあ行くか」
紅輝は最初の不満も周りへの警戒も忘れて透人と打ち解けていた。
最初に本屋に入り、透人が推理小説や歴史小説のコーナーを見ているところまではまだ良かった。
だが漫画のコーナーで話が合い盛り上がってしまったのだ。
その後二人でレンタル店や他の店等を回っている間にも話が盛り上がり意気投合し、そうして途中から普通に遊んでいたのだった。
しかし、紅輝の携帯電話が着信を知らせた事を切っ掛けに事態は動く事になる。
「おお、悪い。オレだ………げ!」
電話の相手を確認した紅輝は思いっきり嫌そうな顔をした。
そのまま携帯電話を睨み続けている。
「ん? 出ないの?」
「あぁ、出ないと余計大変な事になるよな……」
紅輝は観念して電話に出る。
「もしもし」
『ちょっと紅輝! 今何処にいるのよ! まさか私との約束忘れてたんじゃないでしょうね!』
携帯電話からは案の定幼馴染みの怒った声が聞こえてきた。
「待て澄。とりあえず落ち着け!」
『宿題写させてあげた代わりに今日は私の手伝いするんじゃなかったっけ!?』
「すまん、今日は無理だ!今度埋め合わせするから!」
『……へー。じゃあ今、私との約束すっぽかしてまで何やってるの?』
「あー、いやそれは……。忘れて遊んでました」
『じゃあ来週は荷物持ち兼財布ね』
「あぁ!? それは無いだろ!」
『文句言える立場なの?』
「すみませんでした」
その後何度も謝罪を繰り返してようゃく澄は許してくれた。その代わりに紅輝は当分逆らえなくなってしまったが。
紅輝は予知の件のせいですっかり前からの約束を忘れていたのだ。せめて急用ができたと言っておけばよかったのだろうがもう後の祭りだ。そうした場合も確実に怒られるだろうがまだマシな筈だ。
そもそも紅輝は澄に超能力の事を隠しているのである。そのままでは澄が納得できる説明なんて紅輝には出来ないだろう。予定が重なった時点で詰んでいたのだ。
しかし、いつまでもそんな事を考えていないですぐに意識を切り替えねばならない。紅輝は今日、超能力を悪用する者と闘わなくてはならないのだ。
それなのに途中から全く警戒していなかった。
透人の雰囲気に流されたのかもしれないがそれは何の言い訳にもならない。
紅輝は気を引き締め直し透人に声をかける。
「悪い、待たせた透人。……っていねえしっ!?」
が、紅輝が電話をしている間に透人の姿は消えていた。




