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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第三章

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第十話 この教室の日常

 これからも事件に巻き込まれるとは言われていた。

 だから何があってもいいようにと心の準備はしていたつもりだった。

 しかし、予想外の敵が現れてしまった。

 いや、こんな事があると少し考えれば予想できた筈だ。

 それなのに他の事が気になって注意を怠っていた。

 警戒していれば備える事はできたのに。

 まあ、反省ばかりしていてもしかたない。

 過去を後悔するよりも、今目の前の出来事に最善を尽くす事の方が遥かに有意義だ。

 そう考えていたところに目の前の敵の声が聞こえてきた。


「無視しないで答えてくれるかなー。昨日の帰り、アンナちゃんと二人でいたけどどういう関係なのかなー?」


 透人は面倒臭くて現実逃避気味に色々考えていたが、それを止めて前を向く。

 目の前の敵の名前は白葉市乃(しらはいちの)

 明るい茶髪をポニーテールにしている彼女は何処からかクラスメイトの情報を手に入れている厄介な女子だ。その情報はこうしてちょっかいをかけたり、自身の全体的にスレンダーな体を指摘した相手に制裁を加えたりといった事に活用されている。

 そして問題なのはこういう話題は被害者以外にとっては非常に興味があるものだという事だ。

 少し前、廊下側の席のアンナが反対側の席の透人にわざわざ挨拶してきた時点で興味は持たれていたのだ。

 そこに市乃の発言である。

 当然、教室中の視線が透人とその前に立つ市乃に集まっていた。


 こんな風に目立つのは嫌いなんだよな、と透人は思いながらどう答えるか考える。

 どんな関係かといえば、魔法使い仲間という関係だのだがそれは言えない。


「別に帰りに偶然会っただけだよ」

「えー、公園のベンチに仲良く二人並んで座ってたのに?」


 その言葉に教室がざわついた。

 そこまで見られていたのか、と思いつつそうなった経緯を振り返るが、魔法絡みなのでやっぱり言えなかった。とはいえ他の理由をでっちあげるのも面倒臭い。


「それはまあ、色々あって、色々あって……色々あったんだよ」

「ええっ!! もうそんなところまでいったの!!?」


 市乃はわざとらしい驚愕の表情を浮かべた。

 本気でとんでもない解釈をしたという訳ではなく、単にふざけただけのようだ。しかし教室はさらにざわついてしまった。


「誤魔化したいならもっと上手くやれよ」


 どうしようかと考えていたら後ろから呆れた充の声がした。

 そこで透人は充の方を振り返る。


「充、昨日買ったゲームの話なんだけど」

「おい前向け前! 俺も巻き添え食うだろ!」


 逃げようとしたが拒否されてしまった。透人は市乃の危険性を考えれば仕方ないと割りきり、次の手を考える。


「充君、友達として何か知ってたら教えてくれない?」


 そこに市乃が話しかけてきた。

 なかなか話さない透人は諦めて充から聞き出す事にしたようだ。


「いい!? えー、いやこいつは昔から朴念仁というかそういうのなんで本当に偶然会っただけなんじゃないですかね」

「じゃあ何で色々とか言って誤魔化そうとしてると思う?」

「単純に説明するの面倒臭がるんですよ、こいつ」

「……ふーん、まあそういうパターンもあるかー」


 何故か敬語になった充の話を聞いた市乃はなにやら難しい顔で考えていた。


「そーいう時はー」


 が、やがてニヤニヤとした顔つきになるともう一人の当事者の元へ向かった。


「アンナちゃんは透人君の事どう思ってるのかなー?」

「ふぇ? とうどくんは友達だよ?」

「そうじゃなくて、もっと男の子としてね」

「? えっと、だから友達だよ?」


 不思議そうに言うアンナを見た市乃からニヤニヤ笑いが消えた。市乃は真剣な顔をすると近くにいた背の高い女子に向けて大声を出す。


「友人代表、日村早喜(ひむらさき)さん、どういう事か説明を!」


 また本人ではなく周りの人間から聞き出そうとしたようだ。

 早喜は突然の事に戸惑ったようだが意味を理解して答えた。


「は? ……まあ、アンナはこういう話には疎いから本気で何とも思ってないと思うけどな。色気より食い気ってやつだし」

「ひどいよ、さきちゃん! 私そんなのじゃないよ!」

「だからな、アンナ。あんパン食べながら言っても説得力無いからな」


 アンナと早喜のやりとりの横で市乃は不満そうな顔になっていた。


「……二人共そんなんじゃつまんないでしょ! 鈍感相手にもう一人がこう…えぇ!? 本気で無いの!?」

「アンナに変な期待はすんな。解ったならうるさいから黙れ」


 自分勝手な理由で怒っていた市乃に早喜が辛辣な言葉を浴びせた。その後も市乃はしばらく騒いでいたが落ち着くと再び標的を変える。


「しょうがないなー。早喜はあの人とどこまで進んだ?」

「はあ!? いやいやいや、何の事だ!?」

「とぼけても無駄だよー。よく男の人と二人でいるでしょー」

「はあ!? 何で知って……いや別にあれとはそんな関係じゃ、ってああっ! これじゃこいつの思う壷だ!」


 早喜はなにやら一人で忙しくしていた。

 そのリアクションを見て市乃は満足そうに頷く。


「そうそう、こういうのが見たかったんだよねー。でもちょっと物足りないかな。と、いうわけでアンナちゃん、リピートアフタミー。

 べ、別にあんな人何とも思ってないんだからね!! ハイ!」

「ふぇ? えっとべ、別に」

「おい白葉、人で遊ぼうとするな。それにアンナもこんなのまともに相手しなくていいからな」


 市乃を含め女子三人で何やら面白可笑しくやっている。騒ぎの中心は完全に移ったようだ。

 市乃が戻ってこないと判断した透人は安心して市乃から視線を外す。


「充、昨日買ったゲームの話なんだけど」

「ああ、本当に話したかったのか」


 だが、市乃が離れるのを待っていたのは透人だけではなかったのだ。


「おい、お前。さっきの話はどういう事だ」

「ちょっと紅輝、やめなさいよ」


 止める声を聞かずに紅輝は透人に詰め寄る。


「あぁ!? 澄は黙ってろよ! 偶然会っただけでどうしたら仲良くなれるんだよ! 本当は偶然じゃなくて最初から狙ってたんじゃないのか!?」

「あら、それは無いわよ」


 透人がどうするか考えていたところに今まで黙って見ていた笑亜が助け船をだした。


「この人が狙ってるのは私だもの」


 訳では無かった。

 ニヤニヤと面白がっているところを見ると、どうやら「貴方の行動、楽しませてもらうわ」と言ったのは裏の世界に関わる事だけでは無かったらしい。


「ちょっと待って、それどういう事!?」


 そして市乃が瞬間移動でもしたかのように突然目の前に現れた。無駄に動きも反応も速い。

 そして紅輝は市乃を避けるように自分の席に戻っていった。

 ちなみに市乃は笑亜の近寄りがたい雰囲気を気にしていない一人である。


「ええ、この人、何かある度に二人きりになろうとしてくるのよ」


 確かにそれは本当の事だ。

 しかし二人きりでの会話は色恋とは程遠い内容である。

 そもそも秘密にするべき事じゃないのだろうか。


「神無月。それはしょうがないと思う」

「ほう。呼び捨てになってる。しかし名字でまだ下の名前ではない、と」


 市乃は細かいところまで把握しているようだ。

 というか透人はいつの間にか呼び捨てにしていた事に今気づいた。

 なんと言うか組織の話を聞いている内に自然となっていたのだ。仲間意識の様なものだろうか。


「いや、七文字は長いから。それに神無月とは…う~ん…ただの漫画仲間だよ」

「またそんなこと言ってー。ホントはどう思ってるのー?」


 最初の時よりも注目が集まっている気がする。そんな状況が面倒臭かったので透人は話題をそらそうとしてみた。


「それより日村さんの話が気になるんだけど」

「あ、そう? 気になるー?」

「おいそこの!! アタシを身代わりにすんな!!」


 今度は教室中に騒ぎが広まってしまった。

 それはチャイムが鳴っても収まる事はなく、やがて扉が開きこのクラスの担任、体育教師の武藤猛(むとうたける)先生が入ってきた。


「喧しいぞ。さっさと席に着け」


 先生がそう言ったが騒ぎは止まらない。

 生徒の中にも止めようとする者はいたが無駄だった。

 それを見た先生は不機嫌そうな顔で溜め息をつくと鋭い目付きで声を出す。


「喧しい」

「「「……………!!!」」」


 先生は怒鳴った訳ではない。むしろ静かなものだった。だが本能的に危険を感じさせるような威圧感があった。その迫力に騒ぎは止まり教室はシーンとした。


「よし、ホームルームを始めるぞ」




 ホームルームが終わった後、流石に騒ぎが再開する事は無かった。

 そんないつもより静かな教室に素早く我を取り戻した者と最初から平然としていた者がいた。


「先生って組織の仲間なんでしょ?」


 透人は笑亜に身を寄せ、周りに聞こえない声で話しかける。


「いくらうるさいからって生徒相手に本気で怒るような人を担任にして良かったの?」

「フフフ、充分常識の範囲内よ。物的被害も人的被害も無いもの。トラウマは与えたかもしれないけれど」

「……他の人だと被害が出るの?」

「ええ、教卓か黒板を破壊して注目を集めた上で『オレも混ぜろ』とか言いそうな人より遥かにマシよ」


 先生の対応は常識あるものだったらしい。

 どうやら組織には常識を持った人間が少ないようだ。

 いや、昨日の話で予想できた事かもしれない。


「それより先生は何やったの?」

「あれは能力でもなんでもないただの気迫よ。先生は一般人だもの」

「一般人てどういう事?」


 先程の行為がただの気迫だというのはまだ理解できた。

 だが、超能力者やら魔法使いやらを相手にしている組織ではなかったのか。


「先生はねイレギュラーどころか本来は裏の人間ですら無かったのよ」

「そんな人が何で組織にいるの?」

「色々事情があるのよ。それに何も特別な力が無くても問題ないわ。先生は人間離れした身体能力の格闘家だもの」

「それで裏の存在と闘える程強いの?」

「ええ、強いわよ。レベルでいうと七十から八十というところかしらね」

「いや、基準も教えて欲しいんだけど」


 その例えは強そうだということは分かる。しかしどの位の強さなのかが分からない。


「フフ。まあ大抵の相手なら一蹴できるレベルだと思ってくれればいいわ。ちなみに"主人公"達のレベルは二十代。貴方は七ってところかしら」

「俺弱いなぁ。まあ最近始まったばっかりだし仕方ないか」


 透人は自分と他の人との差を聞かされたというのに呑気な反応をした。

 笑亜はそれを見て面白そうな顔をした後、先生の話に戻る。


「でも先生はいくら強くても他の人と比べると地味なのよね。気とか出せないし」


 その言葉に透人は珍しくはっきりと表情を変えた。


「え……気とか出ないの? 何でもありなのに?」

「ええ、他の世界で似たような事はできても格闘家は出来ないわね。というか貴方、ガッカリし過ぎよ」


 笑亜はツッコミを入れた後、愉しそうに笑う。


「フフフ……でも気持ちは解るわよ」



  *



 さっきまで関係を噂されていた男女が顔を近づけて話をしている。そこまでなら話は本当だったという事になるだろう。

 しかし一人は基本的に無表情だしもう一人は笑ってはいるが何だか怖い。それでも何故か気があっているような雰囲気はある。決して甘酸っぱいものではないが。

 そもそもあんな事があった後で平然と話をしている時点で何かがおかしい。


「やっぱりあの二人訳わかんねえな」


 充はボソッと呟いた。

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