プロローグ
月の眩しい夜だった。雲もなく、風もなく、星もなく、ただ月だけが空で存在感を示す。春らしからぬ寂しさのある夜でもあった。
閉まっているはずの学校。無人のはずの教室。しかしその窓際には夜空を見上げる制服姿の少女がいた。
髪は艶やかな黒いロング、彫像のように整った顔立ち、スラッとした細身の体型、そしてどこか儚く神秘的な雰囲気がある。夜の空気がよく似合っていた。
と、そこに不粋な音。夜の静寂をわざと壊すように勢いよく戸を開けて、青年が入ってくる。
「こんな所にいやがったか。何してんだ」
「フフフ。絵になるでしょう?」
「アホか」
「あら。担任教師に暴言を吐かれたわ。教育委員会に通報しなくちゃ」
「言ってろ」
青年は目付きも機嫌も悪い様子だが、少女は軽い調子で戯れるように応じた。教師と生徒というよりも、兄妹めいたやりとりである。
「で? 本当に何やってたんだ」
「誰かが忍び込んでくるかもしれないじゃない。だったら出会いがないと面白くないでしょう?」
「……まあ、無いとは言えねえが」
「でしょう? なにしろ特別な主人公達だものね」
意味ありげに少女が微笑めば、青年は大きく舌打ち。頭をガシガシと掻きながら睨む。
「おかげでこっちは散々だ。今日だけで一体どれだけのモンが飛び交ってた?」
「テレパシー、通話魔法、地球外の通信技術、とりあえずはこれぐらいね。何かトラブルがあればもっと増えたのでしょうけれど」
「んなもん要らん。この上お前の面倒も見なきゃならんとか、やってられん。お前は他所にいて眺めるだけでもよかっただろうが」
「そうね。確かに、私は黒幕に徹する案もあったわ。でも、市乃に言われたのよね」
少女らしからぬ妖艶な微笑みを浮かべて、彼女は言った。
「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損々。って」
アホか。
青年はイライラを隠さず吐き捨てる。外見や素行に見合わず苦労人の相を持っていた。
彼を振り回す少女は、それこそ他者を影から操る黒幕のよう。
だが少女も少女で、甘かった。
予想の外から飛び込んでくる阿呆もいるのだとは思っていなかったのだから。
初投稿です。拙い文章の変な小説ですがよろしくお願いします。