超短編小説Ⅲ 家の守り神
「ただいまぁー」
「ニャー♪」
小学校から帰ってきた優花理は、家の玄関の前でしゃがみ、そこでじっとしている、白と茶色のしま模様のネコの頭をなでた。
「今日もおつかれさま」
そう言いながら、笑って見せる。
ネコも「ニャ!」とほほえむ。
「ここに来て、一か月くらいになるね」
たしか、雨がものすごく降ってた日のことだったけ。
――学校で友達のともみちゃんと大げんかして、泣きながら帰ったときのことだ。家に帰ったあとに、玄関の前に座り込んでいたとき、この子はやってきた。
優花理のとなりで、ぬれた体をバタバタとふって、水気を飛ばす。そして、正座するように、背筋を伸ばし、しっぽを立て、じっーと彼女を見続けた。
「ニャー」
「ゆかのお話を聞いてくれるの?」
「ニャアー」
言葉を分かっているかのように、ネコは高い声で鳴く。
――それからだよね。
なぜかずっと、一條家を守るナイトのように、ここにいるのだ。
「おじいちゃんが側にいるみたいだって、ママが言ってたよ」
優花理は、ママから『しゅごれい』となる者の話を聞いた。天国に旅立った人が、虫や動物に取りついて、家族を守ってくれるらしい。
きっとこの子は、そうなのだろう。
「キミがここに来てからね、ゆかにも色々なしあわせがやってきたよ。ともみちゃんと仲直りができて、運動会のかけっこではいちばんになって、苦手な算数のテストも初めて百点がとれたんだよ。ママとパパとおばあちゃんが、とってもよろこんでくれたの」
「ニャア!」
よかったね、と言っているように見えた。
「きっと、キミが見守ってくれたからかもね。しあわせを運んでくれて、ありがとう。これからも、ゆかたちを守ってね」
「ニャッ!」
二人は笑顔を見せ合った。
「ゆか――っ!」
「あっ、ママの声だ」
優花理は「またね、おじいちゃん」と手をふり、家の中へと入っていった。