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【連作短編043】 国有 全12話 ―AIが国を動かし、国が人を動かす―  作者: マチャオ (Machao)


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第十二話 正常:測れる項目が、そこにはなかった。

最終話です。メールは午前九時ちょうどに届きました。

全十二話完結。最初からお読みでない方は第一話からどうぞ。

 メールは午前九時ちょうどに届いた。


 件名は「雇用区分更新のお知らせ」。


 谷口航はベンチに座ったまま、画面を開いた。送信元は「NLAS-AUTO」だった。


 「谷口航様。このたびの定期評価により、あなたの雇用区分がCからBへ更新されました。AIリテラシー向上プログラムへの参加実績、および就労支援ツールの活用状況が評価されました」


 航はその文章を読んだ。


 凌に教わって、プログラムを受けた。就労支援ツールも使った。三か月かかった。できることとできないことがわかった。できることは、思ったより少なかった。でも、ゼロではなかった。


 区分がBになった。何かが変わるのかどうか、わからなかった。


 川が流れていた。


 隣のベンチに、知らない男が座っていた。四十代くらいだった。スマートフォンを見たまま、動かなかった。航は一度だけ見て、川に目を戻した。


 男の顔に見覚えはなかった。でも、その顔を航は知っていた。半年前の、自分の顔だった。


 スマートフォンが振動した。凌からだった。「区分、変わった?」


 「変わった」と航は返した。


 「よかった」と凌が返してきた。


 航はその二文字を見た。よかった。そうかもしれなかった。でも何がよかったのか、うまく言えなかった。スコアが上がった。区分が変わった。制度の中で、少しだけ上に動いた。


 それだけだった。


 ハルのことを思った。今朝、出かける前に餌をやった。ハルは食べながら一度だけ振り返った。それだけだった。


 男がベンチから立ち上がった。どこかへ歩いていった。行き先のない歩き方だった。


 航はその背中を見送った。


 川沿いの道を、無人のバスが走っていった。静かだった。整然としていた。どこへ行くのかは、わからなかった。でも止まることなく、走っていった。


 スマートフォンにまた通知が来た。「AIリテラシー向上プログラム・上級編のご案内」。スコアをさらに上げるための、次のステップだった。


 航はその通知を閉じた。


 川を見た。水は変わらず流れていた。上流から来て、下流へ行く。どこから来てどこへ行くのかを、川は説明しなかった。ただ流れていた。


 鍵を渡されたのに、どこのドアかわからない。


 あの老人は、もうここに来なくなっていた。いつからかは、わからなかった。


 区分はBになった。制度は正常に機能していた。航の中で何かが変わったのかどうか、誰も測らなかった。測れる項目が、そこにはなかった。


 風が南から来た。


 航はベンチに座ったまま、しばらくそこにいた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

全十二話、お付き合いいただけて嬉しいです。

制度は正常に機能していました。測れる項目が、そこにはなかっただけで。

またどこかでお会いできると嬉しいです。

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