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同類

作者: てこ/ひかり
掲載日:2026/09/13

 自分より不幸な人を見ると安心する。


 自分はアイツよりマシだって思えるから。どんなに苦しくても、辛くても、まだ下がいるんだって判ると何だかホッとする。心理学的にはこれを『下方比較』と呼ぶらしい。人の不幸は蜜の味だって、全く昔の人は本当に上手いこと言ったもんだ。


 だから俺は、何か嫌な目に遭った時は『不幸コンテンツ』で荒んだ心を癒している。自分より貧乏な奴が、栄養なんて概念の無い暴飲暴食で不健康に苦しんでいる姿や、無能やポンコツが人生に大失敗して嘆いている姿や、頭の悪い奴が殴り合っている姿、宗教やスピリチュアルにのめり込んでおかしくなっている姿などなど……。


 だがそんな俺も、彼女に出会って変わった。


 ナンシーは俺より二つ年上で、敬虔なキリスト教信者だった。元々俺は宗教そのものを小馬鹿にしていたので……だってそうだろう? 本当に奴らの宣う『神』なんて奴がいるんだったら、何故今すぐ地上に降臨しない? 何故戦争は無くならない? 何故地震や竜巻で被害が起きる? 何故悪を悪のままのさばらせておく? 何故……何故……とにかく俺は彼女を論破してやるつもりで、悪意マシマシで口論をふっかけた。


「神は常に私たちを導いてくれます」


 彼女は良くそう口にしてほほ笑んだ。結論から言うと、俺は彼女の人柄に惚れた。もちろん今でも神なんて信じていない……だけど、彼女との出会いが奇跡だって言われたら、それは素直に信じる。彼女の優しさに触れ、俺の荒んだ心も次第に『コンテンツ』を求めなくなって行った。


 歳を取って変わった、って言うのも確かにある。ティーンの頃は、見た目に性別、学校の成績に親のルーツ……比較しなきゃいけないものがとにかくいっぱいあった。人に笑われるのが怖くて、ここだけの話、少し容姿を揶揄われただけで丸一日落ち込んでたことだってある。


 それが歳を取って、良い意味で面倒になった、って感じだ。そんなことより自分が楽しければ良い。自分が良いと思えればそれで良い。そう思えるようになった。今振り返ってみれば、人より足が短いだとか、毛深いだとか、なんでそんなこと気にしてたんだろうって笑っちまうようなことばかりだ。ナンシーの影響もきっとある。彼女は他人の評価など一切気にしない人だった。


 彼女の誘いで、ちょくちょく教会にも行くようになった。神父の説教なんて聞いても俺の心にはちっとも響かないが、だからって全否定しちまうのも大人気ないなって最近は思うようになった。

 あれだ、星占いと同じだ。科学的には解明されてなくても、その『コンテンツ』を楽しんでる奴がいるんだから、いちいち突っかかるのも野暮ってもんだ。もちろん一番は、彼女のそばにいたいって、それだけだったが。


 それで、俺は興味本位で懺悔室に入った。

「神の慈しみに感謝して、あなたの罪を告白してください」

 とか何とか言われて、俺の罪は、そりゃ色々あった(生きてりゃ色々あるもんだ)が、ふと頭にあの『不幸コンテンツ』のことが思い浮かんだ。


「あー……」


 俺は首を垂れ、至って真面目に告白した。自覚はしてるが、確かに俺の性格はひん曲がってる。自分より不幸な人間を見ると安心するんだ。他人の不幸は蜜の味だ、って。


 そしたら神父はこう囁いた。

「全能の神は全てを見ておられます」って。


 その時ふと思ったね。


 もしかして神が全てを、俺たちをずっと見ているのは……俺たちを導くためなんかじゃなくて……俺と同じ理由なんじゃないか、って。

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