第十五話 襲撃者の正体
「なぜ、あなた方はそんなに親切にしてくれるんですか?」
ルミルは聞いた。
オーナーは私の背中の傷を治療しながら
「困っている奴がいたら助けられずにはいられないからさ。
それよりなんだってこんな深い傷を負っているんだい?」
と、私の質問に簡単に答え、聞いてくる。
「幻夢の森を歩いていたら黒い衣を着た人たちに襲われて・・」
私は言葉を濁した。
「黒い衣?そいつぁ、山賊ならぬ森賊だねぇ。
そいつらに襲われてこの程度なら奇跡に等しいねぇ。」
「森賊?」
きいたことない。
シンジはそいつらを知っていたんだろうか?
「そうさ。そいつらは人じゃぁない、精魔なんだ。」
「え?精魔?」
思わぬ正体を聞いて拍子抜けな声を出す。
「そうさぁ。精魔が姿を変えた奴らのことさ。
あの森は別名 幻魔の森 とも呼ばれていてね、あいつらは幻魔そのものなんだよ。」
「幻魔・・。」
思わず呟いた。
「そうさね、幻の魔物、それが森賊さ。まぁ、とにかくこの程度でよかったね。
たいていの奴はあそこであいつらに捕らえられるからね。
捕まった奴はうちらが何とか助けに行くがね。」
「え?助けに?どうしてそこまで・・」
「元は、あの森は、我らの獣の森だったからね。
今はあいつらにとられたが、時間をかけて取り戻そうと思ってんのさ。
まぁ、そのついでのようなもんさ。あいつらもとられたとあっちゃ本気でかかってくるがね。」
「え、そしたら犠牲者が出るんじゃ・・・・?」
「犠牲者?そんなものはでないさ。我ら一族をなめてもらっては困る。」
「じゃぁ、さっきなんで・・」
私は最後言葉を飲み込んだ。
だって私に、この傷ですむのは奇跡に等しいっていったから聞こうと思った。
でもそれは私たち人間にとってのことなんじゃないのか・・・。
「あ~あれは、あんたたち人間にとってのことさね。
苦労しただろ?ここまで来るのに。」
「は、はい。」
やっぱり。
「鍛錬を積んだ精霊にとっちゃまだあれはレベルが低いさね。」
「そうですか。」
だから、ウィーミアの風であんな簡単に吹き飛んだんだ。
オーナーは私の背中に包帯を巻きつけ、その紐をぎゅっと縛ると
「これでもう大丈夫さね。
治療呪文はかけたし塗り薬も塗ったし、これでたいていのことは自由にできるさね。」
と、言った。
「あ、ありがとうございました。
あ、あのやっぱりもう一部屋借り手もいいですか?お金は払うので。」
「それ言おうと思ったんだよ。
あんた、お金余分においていっただろ?だからそれでちょうど二部屋分さ。」
「そういえば、そんな気が・・・ありがとうございます。」
私がお礼を言って立ち上がった。
「どうしたんだい?」
私が急にもじもじし始めたからそう聞いたのかもしれない。
「あ、あの、天寿の力のことは、その、他言しないでください。
シンジにも、その、言っていないんです。」
「あぁ、分かってるさね、そんなこと。
いいから、そのシンジとやらのところにいってあげなさいな。
42号室だよ。それともう一部屋ね、43号室も使っていいからね。」
「あ、ありがとうございますっ。」
私は再びお礼を言って42号室に行った。
私がそのドアを開けようとしたら、精霊が何人か出てきた。
「あぁ、君はあの人の連れだね。治療は終わったけど、まだ意識が戻ってないよ。
少ししたら目が覚めると思うよ。」
精霊の一人がシンジを指差して言った。
「あ、ありがとうございます。」
私はお礼を言った。
「いいえ。また何かあったらいってね。」
その精霊は微笑んで他の何人かを連れて行った。
私は念のためその精霊たちにも魔法をかけておく。
こんなに用心深くたびたびしてるのはこの力はとても強大だからだ。
悪用されたらたまったもんじゃない。
あのオーナーにも念のためかけ魔法をかけておいた。
疑っているわけじゃない。
いつ何が起こるかわからないからやっているだけ。
シンジにもいつか言わなければならないんだな。
私は不安だった。
シンジにばれたらシンジは私をどう見るだろう?
私をどう扱うだろう?
怖くてたまらなかった。
そう思いながらも、私は42号室の中に入った。