第一話 精霊使いの旅
「・・・見て、シンジ!!倒したよ!!」
私は近くにいる少年に向かって叫ぶ。
「・・・はしゃぎすぎだ。・・今の奴は、初級の中でも弱い精魔だ。・・さぁ、いくぞ。」
少年は冷たく言い放った。
「・・・少しはほめてくれたっていいのに・・。」
そう呟き、目の前を歩くシンジについていく。
私の名前はルミル。シンジは旅の連れなの・・というよりシンジと旅の連れといったほうがいいかもしれない。
旅をしているのには理由があった。
ーーー精霊使いとしての目的を果たすためーーー
それが理由。
精霊使いになりたての未熟な私を連れてシンジは旅をしてくれている。
シンジと出会ったのは今から、一週間前のことだった。
その日、私は庭で遊んでいた。
「お~い、ルミルや~いるかのぉ~」
聞き覚えのある声がした。
とっさに振り向くと、私から少しはなれたところに、おばあちゃんと私の知らない少年がいた。
「い、いるよぉ~。い、今、行くからぁ~」
私の声はなぜか裏返った。
多分知らない少年がいるからだと思う。
私は飛びたいと強く心の中で念じた。
すると体は宙に浮いた。これが私の能力だ。
私は能力をコントロールして二人のいるところに向かう。
そして二人の目の前の降り立った。
「こんにちは、おばあちゃん。久しぶりだね。・・・え~と・・・」
おばあちゃんに挨拶してその隣にいる少年に視線を向けたが私は戸惑った。
「あ~こいつはシンジって言うんだよ。ルミルとシンジは従兄妹同士だったはずじゃが・・果て、あったことあるかの?」
おばあちゃんはそういって、少年を紹介してくれたけど、会ったことがあったかどうか考え込んでしまった。
私には記憶にないのだけど。
「・・私、ルミルですっ。よろしくねッ。」
頭をペコッと下げ、自己紹介をした。
いくつか歳がはなれてると思った。背が私の頭分、私より高い。
「・・・。」
驚いた顔をしている。飛んできたからかな?それともほかの事?もしくは、両方?
「あの~。」
私が困っている顔をすると、ようやく気づいてくれたのか、
「・・・!・・シンジ・・だ・・」
と、自己紹介?をしてくれた。
結構、無口なタイプの人かな?クールな人は嫌いじゃないけど・・。
「さて、ルミルや。精霊使いになるための試験を受けるかの?」
「はいっ。もちろん!!そのためにこれまでいろいろ準備してきたのだから。それに・・父さんも認めてくれるでしょ?」
父さん・・・数年前、父さんは、精霊使いとして、依頼を受けた。そして、いつまでたっても戻ってこないと思ったら、そのとき、亡くなったことを聞いた。
「そうじゃのぉ。あいつも認めてくれるじゃろう。では、奥で準備するから二人は呼ぶまで待っておるのじゃぞ。」
そういって、私の家の奥に入っていった。
私と少年の間に長い沈黙が訪れた。
「あ、あの、シンジ君・・・」
「・・・シンジ・・でいい。」
私の呼び方を訂正する少年。
君付けいけなかったのかな?・・呼び捨てにしろって言いたいのかな?
「あ、あの・・シン・・・!」
私は訂正しようとしたが言葉を飲み込んだ。
笛の音が聞こえる。耳に手をかざし、家の奥を見つめる。
「?」
私の言葉と動作を不思議にお待っているような表情を見せるシンジ。
「・・笛が・・・呼んでる・・」
「ん?」
シンジは私の呟きが理解できていないようだった。
「笛が呼んでる。・・行こう。」
再び言って、今度はシンジの手を引っ張って家の奥を進む。
シンジは理解できずにルミルの連れて行かれた。
そしてルミルは立ち止まった。
「・・・!!」
何も言わないでついてきたシンジは驚いた顔をしていた。
目の前に、精霊使いになるための試験の用意はできていて、おばあちゃんは笛を手に持っているのだから無理もない。
「おぉ、笛の音が聞こえたのじゃな。では、はじめるぞ。」
「はいっ。」
私は、シンジの手を離して魔方陣の中央に立つ。
魔方陣は精霊を呼び出すためのものにしか過ぎないが。
私は精霊に呼びかけの言葉を言った。
言葉が終わると同時に魔方陣が輝きを放った。
そして、時期に輝きは失い、一体の・・いや、一匹のといったほうが的確なかわいらしい精霊が現れた。
精霊はふわり、ふわりと、宙に浮いている。
つむじ風と音符がその精霊を囲んでいる。
「あなたなら、契約してもいいよ。」
精霊が言う。
「ありがとう。あなたは、ウィーミアね。私はルミル。じゃぁ、契約しよう。」
私は、精霊の名を当てて、契約を交わす言葉を言った。
契約とは、精霊使いと精霊の行う儀式である。リングに精霊を呼び出す力が備わる儀式。
使い手にとって、精霊がすぐ呼び出せるように。
精霊にとっては使い手が使い手として役目を果たすかどうか見るために。
そして契約を交わした。
「ルミル、あなたはすごいよ。私の名を当てることができた使い手は初めてよ。これからよろしくね、ルミル。」
「えぇ、ウィーミア。こちらこそ、よろしくね。」
私がそういうと精霊は笑ってリングに戻る。
「風と音のつかさどる精霊だのぉ。これは珍しいものじゃ。さて、出発の準備が整ったのぉ。」
「え?」
私そんなこと聞いていないけど?
「何、今知ったという表情をしておるのぉ。精霊使いは旅をするものなんじゃよ。シンジと旅をしてくるのじゃ。」
「はぁ。」
私は頷きこそしたものの頭は混乱状態に陥っていた。
え、えぇ?本当、本当に!?シンジとなんて・・聞いてない~~!?
私の意思には関係なくもう決まったことみたいだ。
シンジは平然としている。
私と行くことを前々から知っているかのように。
だから、ここに来たのか。
頭の中は整理がつかぬまま、翌日にシンジとともにする旅を見送られた。
こうして、私は、今まであった記憶のないシンジと旅をすることになったのだった。
いろいろとご迷惑をかけてしまいますが、ぜひ読んでくださるとうれしいです。