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貞操観念逆転戦役と俺は呼ぶ  作者: 木乃末わみつ
第一章 女神の洗礼
5/8

5. 補欠合格

「『鉄』のある場所が思ったより少ない」

「それなりに貴重ですし、無意味に広げすぎると行き来が不便になるからだと思います」


話の流れで、書棚にここら周辺の地図があったと聞いたので、食堂に持ち込み2人で見ている。

城壁の中は首都セルラシアの文字だけで他に何も書かれていない。

城壁を囲むようにぐるっと大きく広がる街は首都セルラシアのサポートの街、単にセルラシアと呼ばれている。

こちらもほとんど文字はない。穀物倉庫や製材倉庫、食料市場や衣料市場など無難なものばかり、あと役場。

『鉄』と非『鉄』のエリア境界は、きっちりと赤ラインが引かれている。あちこちに『鉄』エリアが埋まっているように分散していて、ラインはいくつか修正の跡があった。


「外が圧倒的に大きいな。首都機能を動かすのにこんなに必要なのか?」

「セルラシア自体の活動も多いですから。それと職員の住居はセルラシア側です」

「なるほどな。

ここにエステとある」

「ここですね」

「これか」


道の終点にエステと記されているところから城壁側へいくと、少しずれたところに、鐘の記号がある小さな門があった。

鐘の門、その前に3面が壁の空地、隣接した建屋がこの待機所。

鐘の門は聞いていた通り全部で8か所ある。すべて城門の近くにある。


「城門が近い。見てみたいな」

「2度目はないというお顔でしたよ」

「夜に行ってみるか?さすがに危険か?門が閉まるのかも知らないし」

「閉まっていても人目はあると思います。おやめになった方が賢明です」

「仕方ないか。今回は諦めて、次、セルラシアに来ることがあったら余分に1日取って見て回ることにする」

「許可が下りればいいですね。でも城門付近は『鉄』の区画ですから近づけません。ここか、このあたりから遠目に見るだけになります」

「女の子の恰好をしてこっそり近づくというのはどうだ?」

「お一人で無茶はおやめください」


書棚の本も全部食堂に移動させ、アムリは黙々、俺はパラパラと見ていたら、ドルテ姉さんが昼のおやつとお湯を持って来襲。


「ほら、本寄せて。汚しちゃだめよ」

「ドルテ姉さん、城門、見に行けないかな?遠くからでいいから」

「2人はもうわたしの受け持ちじゃないからお願いは無理。今やってるのは委託業務というやつだから。残念でした」

「じゃぁ宿舎に居るときに見たいって言ってれば、行けたっていうこと?」

「ダメに決まってるでしょ」


木の実の入った甘みのあるおやつパンを食べてから、ぬるま湯で体を拭き、まただらだら過ごしていた。


夕食時は子守役が2人で登場、ワンショルダーずた袋を渡された。着替え、水筒、作業手袋、私物入れを縛る紐、その他必要なものが入っている。おやつは入ってない。


「じゃぁ、明日は朝の鐘が鳴る前に来るから朝食は済ませておいて。夜に食べちゃダメよ」


夕食後、アムリは引き続き食堂で読書。気になる本は読んでおきたいんだそうだ。

俺はパラパラと本を見たり、私物入れのガラクタをどこかで捨てるためにまとめたり、食堂のランプをすべて磨いてから灯したり、考え事をしたりして時間をつぶしていた。



「カラカラカラカラ」


表口のドアベルの音が聞こえたので出迎えに行こうと立ち上がったが、テンポの速い靴音が響いてきたのでそのまま待つ。明かりでここに居るのは分かるだろう。

すぐに扉を開けて母が入ってきた。

なんて言うのが正解かわからん。宿舎に入る時に別れは済ましているし、その後の面談もあったから久しぶりでもないし。


「お待ちしておりました」


俺の苦し紛れな挨拶を受けて、母はにっこりとお茶目な悪党のような顔をして、ゆっくりと返答してきた。


「待たせて悪かったわね。本来であれば文書通達で足りるのだけれど、我が長子においては少々自覚が足りないと見たのでね、儀礼めいたことでもすれば少しは心に留めてもらえるかと、わざわざ足を運んだのよ」


アムリ、ヘルプ。ダメか。


「お忙しいところ、ご足労いただき、ありがとうございます」


ビジネス定型文みたいになっちまった。っと、母が近づいてきて俺の頭を抱きかかえた。


「洗礼の報告は受けたわ、分かってたことでしょう? 心配ばかりかけて」

「申し訳、ありません」


小さな声になったが謝罪の言葉が出た。愛情をもって育ててくれてたと今ならはっきりと分かる。ほんと、申し訳ない。大丈夫、安心してと言ってしまえないのがまた心苦しい。


「まぁいいわ。アムリ、イクシオの隣へ」


アムリがテーブルを回って来たので、少しよけて2人並んだ。

母はショルダーバッグをテーブルに置き、そこから取り出した封筒を手にこちらを向いた。


「では、国土統治局よりの通達を伝えます。イクシオノア・ハプト・メリビオス。本日貴殿は委託統治領カラギナ領地区領主後継者として正式に推挙された。速やかにカラギナへ移動、カラギナ領主カルノシア・ハプト・メレジトスへの着任の報告を命じる。行程は聞いてるわね。通告は先行しているから心配はいらないわ。向こうへ着いたらカルノに任せなさい。これ、通達書はいろいろ書かれているけど目を通しておきなさい」

「えっ、拝命しました」


封筒をポンと渡された。自覚を促すんじゃなかったの?


「アムリ・ノン、あなたは側近候補としてカラギナへ転籍となります。大変だと思うけどイクシオのことよろしくお願いしますね」

「ありがとうございます。ご期待に添えるよう努めます」

「よろしい。じゃぁ座って」


「よかったな」「ありがとうございます」を、目で伝え合って2人並んで座った。


今度は母がテーブルを回り、俺たちの対面に座った。


「さて、まずイクシオだけれど領主後継者としても未熟であると評価されました。理由は分かりやすく言うと危なっかしいからね」

「理解できます」


こっちが本命か。はっきり言うと不適格ということだな、まぁ当然かな。


「にもかかわらず承認された理由は3つ、カラギナが安定していること、優秀な側近候補がいること、わたし、というよりメリビオスへの配慮。イクシオの将来性は入っていないわ」

「はぁ、理解できます」


顔の横でグーの手の甲をこっちにけ、小指から順番に指を立てながら教えてくれた。そして人差し指をピコピコさせながら俺への指摘。こっちの方が気になるあたり領主の資質がないのは明白だな。


「これが表向きの理由」


うわぁ、きな臭くなってきた。


「で、裏?斜め?だけど、ほんとに大した理由ではないわ。

カラギナが聖国、王国と接しているのは知ってるわね。

あなたがこの2国への訪問時に不始末を起こしたら謝罪外交団を送り込む、という条件付きオペレーションが承認されてしまったの。だから今回、あなたの欠点には目をつぶりましょうということ。でも決して事態を期待しているとかじゃないわ。分かる?」


いや、うーん。目的は何となく分かる。

やり方が非常識っぽいけどこの世界ではありなのか?


「えっと、諜報員をやれと?」

「あなたは単なるゲスト要員よ、何をやれとも言わないし、行動も縛らない」


なんかこう、締まりのない作戦だよな? アムリ、どうよ?


「聖国か王国におかしい動きがあるのでしょうか?どちらも政治的な動きは遅いと聞いています」

「不安要素の元は皇国よ。簡単に言うと、皇国はかなり前から『聖雫鉄』の真似事を始めて、意思の継承なんてものを普遍化しつつあるの。それを血統以外の権力基盤として王侯貴族体制を強化しているの」


皇国の話をすんなり飲み込んだ俺をちょっと意外そうにしながら、母は話を続けた。


「聖国も王国もそれについての政治的な回答は得ているわ。でも、もうちょっとね、内情を知りたいの。イクシオは、その切っ掛けにならないかな、という計画のうちのひとつね」


この国の外交は大丈夫か?とも思ったが、国家間が安定し過ぎているのも原因かな。

それにしても、どこからそんな計画が湧いて、あぁ。


「発案者はどなたでしょうか?」

「ミリス外交政策局長よ。

わたしの上司でもあるかな。

ちょっとイクシオの愚痴を言ったら、面白そうだから組み込んでみましょうかという話になってね。

訪問回数が増えるくらいで何も強要しないわ。イクシオも好きでしょう?こういうの。

もちろん切り捨てたりしないで、きちんと守ります。そのための謝罪外交団でもあるしね。

あなたは未熟だとか言われても奮起しない。かといって鈍感でもなし。にもかかわらずいろいろと報告は上がって来る。これも適性でしょう。

どうせ大した事は起こさないわ。心配するだけ無駄よ」


ジト目で母を見つめたままでいると、あれこれ語った挙句、最後は責任転嫁された。

でも俺の本当の威力に気づいていない。

王国でスキル無しは絶対にトラブルの種だ。

聖国で『鉄』のことが露見すれば最悪暗殺コースも有り得る。

王国と軽くごたごたを起こして引退コースが平和な道かな?


「そのわたしの不始末ありきの計画に名前はあるのですか?」

「当然あります。イクシオノア・ハプト・メリビオス領主候補生の国外憂慮行動露見時における外交団派遣計画。国名を入れていないのは皇国にも拡大適用させるためよ」


そのまんまじゃないか。父には作戦名の変更を願おう。


「分かりました。父上、領主様ともよく詰めておきます」

「よろしい。それに限らず、向こうでカルノにじっくりと育ててもらいなさい。

では、そろそろ戻ります。見送りはいらないわ」


そう言われてもってことで、アムリと表口まで付いていく。

ショルダーバッグを斜め掛けにし、壁に掛けていたランタンを手にした母はこちらに向き直り俺を見据えた。

目を合わせても、お互いまるで話しかける気はないというような時間が過ぎる。

暗いな。記憶を思い出してから、この暗さにはまだ慣れていない。ランタンの明かりがあるが故に意識してしまう存在感のある暗さ。母の顔に落ちる陰影は、別れではなく追放を宣言しにきた冷たい官吏であるかのように感じさせた。


「イクシオ、あなたにカラギナ領主就任の道はない。

行く末は自分で決めなさい。助力は惜しまないつもりではいます。

但し、メリビオスの名を穢すような行為だけは許しません。

先のない領主後継者としてもです。心しておきなさい」

「ハッ」


いかん。

何事もなかったような真面目な顔で、手を胸へともっていき、感謝の言葉を伝えた。


「ご助言、ありがとうございます。このことは父上にも秘密ですね」


なぜか一気に脱力した母は、俺に軽く礼を返した後、扉の向こうに消えていった。


領主側近の道も途絶えたけど、アムリ、俺を見捨てないよな?

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