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貞操観念逆転戦役と俺は呼ぶ  作者: 木乃末わみつ
第一章 女神の洗礼
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2. アムリの洗礼

「おはようございます。イクシオ様」


アムリの声だ。そう、アムリだ。記憶はしっかりしている。異世界転生は夢ではなかったか。


外はすっかり明るい。窓からは隣の建物が見えた。窓の下には椅子が置いてある。

外側に開け放たれた窓扉に掛けられている外閂を潜って身を乗り出せば、右側には同じような建物が続き、下は知っているが通ったことのない道、左はお馴染みの城壁が見えた。

よし、行くか。


「先ほど鐘の音が聞こえました。朝食は彼らの後なのでまだ先ですが、食堂で過ごされますか?」


好奇心でいっぱいの顔だな。


「鐘の門へ行く」

「門衛が立っていますよ。それに外出禁止です」

「内鍵しかない扉の時点で脱出禁止など厳格なルールではないさ。言い訳も用意している」


広場に出ると鐘の門の両脇に立つ2人の女性衛士が見えた。名前は知らないがよく知ってい2人だ。向こうも気が付いたので軽く挨拶をしておく。明るくなった広場を改めて見回しながら歩いて行き、砂場の始まりで立ち止まった。


「おはようございます。昨日はお手間をとらせたと聞きました。ありがとうございます」

「おはようイクシオ君。頭でも打ちましたか?打っていましたね。大丈夫ですか?」

「アムリ、別れの挨拶はしたはずだな。覚えていないか?」


アムリへの苦言のはずなのに俺がにらまれたぜ。


「とてもご心配いただいたようですが、安全確実な場所だと普通に歩けます。ただしっかりと確かめたくて来ました。

それにアムリも昨日なにか変な感じがしたようで、もしかすると洗礼を受けるのでないかと言ってます」

「誰か心配していたか?

懲りずに何度もやらかすだろうと笑いものにした記憶しかないな。

アムリ、女神の洗礼に前兆はない。イクシオの作り話だろうが試したければこちらへ来い」


バレバレだったか。でも都合よくアムリから誘ってくれた。アムリがゆっくりと歩き出し、昨夜と同じように10歩と少し進んだところで体が傾いだと思ったら慌てて引き返してきた。門の高さよりも少しばかり長い距離、鐘からだと5mくらい。前の世界の測定器でも検出は無理だろうと思う。そう考えればこれも謎の能力と言える。

それよりも、びくっとはならないんだよな。オーバーリアクションにならないようにしないと。

アムリの反応は昨日よりもうろたえた感じがした。踏み込みすぎたのか?ほかに原因があるのか?


「仲が良いじゃないか?報告は自分でしておけ」


割とあるのか軽く流されたね。

さてと自分の番だな。黒い鐘を見る。この周辺で唯一の『鉄』。どうして鐘なのか?鐘でないといけないのか?誰も崇めたりしていないので理由なんてものはないのかもしれない。


城壁は門の倍ほどの高さまで続く。壁は薄いと感じる。軍事防御壁ではなく、諜報員工作員を阻む対不審者用の壁だな。


この壁の中には二度と入ることはない。ポラシア共和国中枢城郭都市、首都セルラシア。5千年の歴史を誇る超過密都市。俺の生まれた場所。女の園、ひよこ付き。


おっと、注目されている。それではアクション!

ゆっくり歩いて、うにょって感じで、バックステップ。こんなもんだろ。


「確かに悪影響は残ってないようだが、イクシオはこんな時でも軽薄っぽいな」

「イクシオ君は不確かなところに1人でいかないようにしなさい。最悪、飢え死にますよ」

「飢え死にはいやですけど、それまでにアムリが見つけるので大丈夫でしょう。忠誠心あふれる男ですから」

「アムリ、昨日も言ったが気楽にやれ、悪いのは全部こいつだ。

ほら、特別に貸してやるから少し持ってみろ」


なんか近づいてきたなと思ったら鼻でこいつだと言われた。顎じゃないから可愛く見えるんだよな。笑みを返してしまって、またにらまれたよ。


横向きに握り直した槍をアムリの前に差し出し、構えた右手に受け取らせる。


「このあたりを持て、そうだ、大丈夫か?よし、あの先の扉に向かって構え直せ。

飛んだ矛が扉に突き刺さる絵ずらを思い浮かべて...そこは左手を使ってもいい。木球投げの要領を思い出して狙いを定めろ。扉の真ん中にガツンだ」


矛ですって。みんな槍って呼んでたじゃん。否定しなかったよね。

お優しい矛使いのご指導の下、アムリは不器用に握りの位置を変えたりフォームをあれこれ動かしていたが、やがてきれいな型に落ち着いた。

黄金色の穂先を真上に向け、生き生きとした目は鋭く扉を見つめる。柄を握る手は力みなく、指を揃えた左手は水平に保たれる。槍投げの名人だと言われてもおかしくない見事なフォームからは必ずや扉を穿つ矛が放たれるに違いない。


「届きません。届けば扉には当たるとは思います」

「あたりまえだ。力もなければ技量もない。だが分かっただろう」

「槍が向かう的のところへわたしが送り込む?そういった感じでしょうか?」

「槍を飛ばすのではなく、槍が飛ぶのだそうだ。男は射手ではない、弓だ、理不尽な弓だ。

任地で落ち着いたら体に合った槍で十分に訓練しろ。先ほどのおかしな構えは頭から消してからな」


槍投げにも明るいな。首都育ちではないんだろう。しかし今日はまたアムリに甘い。人目が少ないからか?孤児になる前のアムリを知っているとか?


「男だけに備わったその技は、ゆっくりと役目を終えつつある。前線から離れた土地では娯楽となり果てている。

アムリよ、お前は不幸にもこのお調子者の従者となってしまった。これから何度も厄介ごとに巻き込まれるだろう。死ぬような目にも合うはずだ。そんなとき、おまえの一投が死を免れる糸口になることもあるだろう。的当てだけにのめり込むな、しっかりと鍛錬しろ」

「これの予言はよく当たります。痛ましいことです」


おいおい。こんなに語る人だったか?

しかも予言て、俺は一気に成長した落ち着きのある男だ。的外れな忠告だな。

アムリ、異議はないのか?なんでそんな真剣な顔なんだ。


「ひよこどもの食事も終わっただろう。もう戻って大人しくしていろ」


そうだな、アムリの洗礼も公に終了したし、演技のコツもつかんだ。戻るか。


「アムリへの助言、感謝します。もっとお姉さま方のお話しをいろいろ聞いておけばよかったとつくづく思います。これまでありがとうございました」

「ありがとうございました」


そしてお調子者ではない実直な俺は深く感謝の意を含めたこの世界式の敬礼を捧げた後、振り返ることなく出荷部屋に引き返した。

思い出したよ、俺だけ矯正されてた木球の握りは、槍投げに通じるものだったんだな。


「鍵は掛けなくていいぞ」


了解と右手で合図しておいた。

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