何とかなりそう
トクさんの甥っ子の翔太くんが手配してくれたおかげで、全国のあんこ製造業者さんからミニ小判きんつば用のあんこが集まって来る。まずは翔太くんが選別したものをトクさんに吟味してもらい業者を絞り込む。実際に発注したあんこを使ってミニ小判きんつばを試作する。製造過程で、もう少し塩味が欲しいとか、色合いを綺麗に見せたいとかのリクエストを上げていき、それを翔太くんが業者に伝える。何度となくそれを繰り返していくうちにミニ小判きんつばが仕上がっていく。その過程で、改めて栄芳堂が守り続けてきた小判きんつばがなんと味わい深いものなのかと気付かされる。一宮神社の縁日は近づいている。それまでにトクさんに及第点の貰えるミニ小判きんつばを完成させなければならない。一旦商品化したとしても完成まではまだまだ紆余曲折があるな〜っと実感する。
私は、OJISAーIZMのレッスンの合間をぬって日頃からお世話になっている印刷屋さんとミニ小判きんつばのパッケージの打ち合わせをする。
外装は箱にするか? 袋か? 高級感を演出するなら一つ一つ小さな紙の箱に入れた方が丁寧だろうが、ミニ小判きんつばはカジュアルさをアピールしたいし、六つの味の違いも外見でわかる様にもしたいという私の意見で、半透明の袋に決定した。これまで、伝統におんぶにだっこで何ひとつ作り出して来なかったことを痛感する。何もノウハウもないのだ。前例にないことばかりで、しかもーー
「え? それって誰が決めるの? 私?」
そんな場面に何度も直面する。私が発案したプロジェクトだ。私以外方向性を決められないことは承知しているつもりだったが、それでも私は素人だ。誰か助けてくれないと、決断が正しいのか間違っているのか分からない。だが今は、無理〜と投げ出している場合じゃない。タイムリミットは刻一刻と迫っている。オジサマたちも、プロモーション曲の発表を控えて慣れない踊りを必死に覚えてくれている。動き出したばかりのプロジェクトを私の弱気で潰してはならない。
私はこれまで誰かの後ろに隠れて生きてきた。世間の言う通りに生きていればそれが安全で安心だった。でも、ここに至っては逃げてはいられない。髪を後でひとまとめにして、動きやすいジャージ姿で家と工場とレッスンスタジオの間を、そして義母が入院した病院と飛び回った。
壬生様はそんな私を見て、
「けいこさん、必死ですね」
一瞬バカにされたのかと思った。
「ええ必死ですが、何か?」
「いえ、悪い意味ではありません。何かに必死に打ち込む姿は男女を問わず美しいものです」
「美しい……ですか?」
壬生様がさりげなくほつれた私の髪に直して、
「はい。花も鳥も虫もそうです。皆必死に生きているからこそ、その瞬間がかけがえもなく美しいのです。華道家はその刹那を切り取っていく」
「は、はあ」
「頑張って下さい。応援していますよ」
壬生様が暖かい眼差しで私を見つめる。
「はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げながら、頑張ろ! どんな時でも楽観的なのは私の長所だ! 成功を信じて、ただ前だけ向いて歩いて行こうと思った。そんなの時に限って、
「え? 神楽の舞台は使えないんですか⁈」
一難去ってまた一難である。一宮神社の御神楽用の舞台は、あくまでも神事を行う場所であり、いくら長い付き合いの栄芳堂とはいえ気軽には貸しては上げられないと言うのである。参道にステージを作ることも参拝者の通行の妨げになるので許可できないと言われ、八方塞がりになる。
「どうしよう?」
悩んでいると、沢村さんが近づいて来る。
「だったらお嬢。本店前の駐車場のスペースにステージを組むのはどうだ?
あそこなら、縁日に来た客からも見えるんじゃないか?」
と提案してくれた。仮説ステージを作る業者にも当たってくれるそうだ。
何とかなりそうな気がしてきた。




