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OJISA-IZM  作者: 抹香
13/15

OJISA-IZMメンバー集めは大変

「ただいま」

 ヘトヘトになって帰宅する。私は何をやっているんだろ? やりたくないオジサンを集めてダンスユニットなんて。あんなに嫌がるのなら辞めてしまおうか? けれど、私が諦めればこの企画は無かったことになる。終わってしまう。人知れずミニ小判きんつばが埋もれて行く。それだけは避けなければ。


 次の日、最大の関門になるであろう川村徳次郎さん、トクさんへ談判に向かう、トクさんを説得できれば沢村さんだって承諾してくれる。宙ぶらりんで漂っている男性男性ユニットOJISA-IZMが固まっていきそうな気がした。私はトクさんに、今回の男性ダンスユニットの結成に至った経緯を伝えて参加を促す。

「はあっ⁈ そんなのに俺が参加するのか?」

 トクさんは私を睨み

「本気か? あんた、おつむの方は大丈夫か?」

 と自分の頭を指さす。

「ミニ小判きんつばは渋々承諾したが、宣伝はそっちの仕事だろ?

よりにもよって、こんなジジイに踊らせて誰が喜ぶ?」

「若い人がです。話題になると思うんです」

「ああ、きっと話題にはなるだろうよ。悪い意味でな」

「お願いしますトクさん」

「出ていきな」

「トクさん!」

「出てけ! そんなふざけた用事で神聖な職場を汚すんじゃねえ!」

 工場から追い出されてしまった。


 トボトボと事務所に戻るとウメさんと目が合ってしまう。

視線を外してそそくさと隅へ移動する。なのに、

「どうしました? お嬢様」

 逃げれば追ってくるウメさん。

「いえ、何も」

「何でも私にお話しください、お嬢様」

 どうしよう? ウメさんはメンバーに誘ってない。足元がおぼつかないお爺ちゃんにダンスは無理でしょ?

「どうかなされましたか?」

 ま、いいか、話をすれば本人だって納得するはず。これまでだって、みんなに断られてきたんだもの。私はポツリポツリと経緯を伝える。

「そうでございましたか? 私、その男性ダンスユニットに参加してもよろしゅうございますよ」

「え? ええええ! でもウメさん……」

 ありがたい申し出だけど。妖怪メガネ爺にダンスは無理でしょ? 

「お役に立つなら、この梅田嘉郎、お嬢様に余生を捧げる所存でございます」

 いや重いし、余生なんて要らない。

「ありがとうウメさん」

 一応そうは言っておくけどね〜。

「しかしトクさんも了見が狭い、宣伝はそっちの仕事だとは」

 そう言い残して、ウメさんはズンズンと裏の工場へと入っていく。

「あ、ウメさん……」

 ウメさんは、ガラガラと工場のドアを開けると、

「トクさん」

「ん? ああ、ウメさんか、どうした?」

「見損ないましたよ。お嬢様の頼みを断ったそうじゃないですか?」

「はあ? あんなくだらねえもんに加担はできねえ」

「くだらない?」

「くだらないだろう? こんな年寄りにダンスをやらせるつもりだ」

「でも、せっかくお嬢様が考えたんです。ダメで元々、やってあげてはどうなんです?」

「はあ? そんな恥っさらしなことができるか⁈ 俺は栄芳堂の名に恥じないお菓子を作るのが仕事だ。宣伝はそっちでやりな」

「トクさん……あんただって栄芳堂が窮地に立っていることは薄々知っていたはずだ。いや、知らないとは言わせない! なのに、今の今まで何をやってきた? 

美鈴さんが苦しんでいるっていうのに。あんたは見て見ぬふりをして、ただお菓子を焼いていただけじゃないか?」

「な、何だと……」

「みんな同じ栄芳堂という船に乗っている。お嬢様は船の船頭です。この苦境を乗り越えられるよう必死に考えておられる」

「必死に考えた末が、ダンスユニットなのか?」

「トクさん、反対するのは結構だ。だったら他に代案を出したらどうです?」

「代案?」

「反対するのは簡単です。嫌なら他の案を出せばいい。

だが案がないなら、お嬢様から請われたんだ、意気に感じて、人肌脱ぐのが大人の男じゃないですか?」

「ウメさん……だがダンスだぞ?」

「ダンスが怖いのですか?」

「怖い? 俺に怖いものはねえよ!」

「じゃあやってみましょうよ」

 後ろから二人のやり取りを見守っていたが、何だかウメさんの背筋がちゃんとしてきたように見える。

「そういうウメさんはやるのかよ!」

「やります! どうせいつかは死ぬ。だったらお世話になった栄芳堂のために私は死にたい」

 このお爺さんはすぐ死ぬ話を持ち出すな〜。

「何だそれ? 特攻隊かよ?」

「ああ、そうです。私は特攻隊の生き残りです」

 え? 

「やりましょうトクさん、今度はお国のためじゃない。先代の隆行さん、亡くなった幸隆さん、病床にある美鈴さんのため、受けた恩を少しででも返そうじゃないですか?」

「分かってるのか? でもダンスなんだぜ?」

「上手い下手は別だが、人がやっているものなら何と思いますよ?」

「あんたは気楽に言うけど。俺が出来る踊りは金井克子くらいだぞ」

 と言うと、手や顔を右や左に振る。

「バンバンババンバン」

 となぜかメガネ爺が合わせて歌う。

何これ?

「それだけ出来れば大したもんだ」

 いや、そんなのじゃダメ。健康体操じゃないんだから。でも何? 今、何が起こってるの?

「分かった。そのかわり、若女将」

 トクさんはウメさん越しに私を見て、

「骨は拾ってくれよ」

 何かすごい話になってきてない? 骨を拾うの? 私が?

事務所に戻ってくると聞いてみる。

「ウメさんって、特攻隊の生き残りなんですか?」

「ファファファファ、そんなわけありません。いくら何でもそんなお爺さんじゃない」

 ウメさんは笑い飛ばす。いや、充分お爺さんですけどね。

 

 トクさんがダンスユニットに入る事になった事を沢村さんに告げる。

「え!」

 思いっきり驚く沢村さん。

「いや、まさか」

「だから沢村さんもやってくださいね」

 もちろんやっくれますよね約束だから。

「でも、僕が踊れるのはYMCAくらいだぞ」

 あ、それは知ってる。え、あれもダンスの範疇に入るの?

「それでけいこが良いなら」

 良くな〜い。それに何? その受け身な答えは。でもまあいっか? チョコとこし餡と抹茶に当たるメンバーは揃った。あとはイチゴあんに栗あん、そして、つぶ餡ね。私は、すぐにM&Aコンサルティングに連絡する。


 いつもの喫茶店。何も知らずに姫路社長はやってくる。

「お疲れ様です。新商品の開発は順調ですか?」

「はい。それで、ミニ小判きんつばのプロモーションを一宮神社の縁日で行いたいと考えています」

「おお、それは素晴らしい」

「姫路社長にもお手伝いいただけませんか?」

「ええ、もちろんです」

「ダンスユニットを作って新商品のアピールを行います」

「ああ、良いですね」

「それに姫路社長もご参加下さい」

「はぁ⁈」

「きんつばのそれぞれの餡でキャラクターを作って、ダンスをしたら楽しいと思うんです。姫路社長もお願いいたします!」

「……あの、冗談ですよね?」

「本気です」

「踊れませんよ」

「踊れなくて結構ですが、姫路社長は踊れるはずです」

「踊れても社交ダンス程度です」

「私は、姫路社長には歌っていただきたいと思っています。グループのリードボーカルです。昔、グループ・サウンズをやっていらしたとか?」

「え? よく知ってますね」

「M&Aコンサルティングが何の会社か知りませんでしたし、新手の詐欺だと困るのでウィキペデアで調べた時に経歴を拝見しました。

ダンスも必要ですが、核となる歌える人が必要なんです」

「もう何年も歌っていませんよ」

「かまいません」

「いや、こっちがかまう」

「栄芳堂の高齢の男子社員が踊るんですよ!」

「だからと言って私が歌わないといけない理屈にはならない」

「おっしゃる通りです。でもスワンボートは」

「え?」

「スワンボートは心一つにしないとーー」

「前には進まない」

「そう、おっしゃったのは姫路社長です」

「……」

「お願いいたします」

「ずいぶんボイトレも受けてない」

 私は、余計なことは語らずに、ひたすら沈黙に耐えた。

「うーむ……そちらの男子社員さんは踊れるんですか?」

「特訓してもらいます」

「分かりました」

「やっていただけるんですね?」

「まずはリハーサルをしてみましょう。使い物になるかどうか、判断はそれからだ」

「ありがとうございます!」

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