表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OJISA-IZM  作者: 抹香
10/12

変わるしかない!

 数日後、いつもの喫茶店で会議が開かれる。糸川さんは和菓子業界をひと通りリサーチしてきていたが栄芳堂を立て直すための有効的な解決策は提案できなかった。しかし一度火がついた糸川さんの熱量は変わらないようで、

「また案を持ち寄ってみましょう!」

 前向きな発言で会議は締められた。

 案ねえ?

 何か売上げを上げる方法はあるのかしら? 悩んでいたら自然に本店に足がむいていた。夕焼けに赤く染まる栄芳堂、この、時代おくれな和菓子屋さんを立て直せるのかなぁ。店番をしてくれている松山さんにご挨拶して事務所へ入っていく。どこかへ出掛けたのかしら? ウメさんの姿はない。奥のドアを開くと、隣接して栄芳堂の工場が建っていて、あずきの甘い匂いが漂ってくる。衛生上の都合なのか別棟になっていて、すりガラスに人の動いている姿が写る。きっと工場長のトクさん、川村徳次郎さんだ。ウメさんに負けず劣らずの高齢者だが朝早くから夜遅くまでよく働いてくれている。とはいえ、未来永劫というわけにはいかない。老舗によくある後継者問題がここにもある。職人気質で頑固なので、本当は夫幸隆が後継者となり技術を受け継ぐつもりだったのだが交通事故で他界し、そのあと若い人が何人か入ってきたが長続きしなかった。

 引き戸を開く音でトクさんが振り返る。

「ん? ああ、若女将か?」

「すいません。少し見学してもよろしいですか?」

「ああ、かまわねえよ」

 あんこを作る機械がぐるぐるとあずきと砂糖を撹拌している。その向こうには鋳型が並んでいて、それで栄芳堂の銘菓小判きんつばは作られている。

「きんつばはシンプルお菓子だ。あんこが決め手になる。大納言の良し悪し、三温糖の良し悪しがすべてを決める。だから絶対に妥協できねえ」

 小豆の混ざり具合を注視しながらトクさんがつぶやく。

「ウメから聞いたよ。あんたが美鈴さんのあとを継ぐんだろ? ここはオレが守り抜いた本丸だ。相談には乗れねえぜ」

「まだ何も」

 言ってないのに。

「ふん。どうせ材料費をおさえられないかって相談だろ?」

「違います」

「そうかい? じゃあなんでここに来た」

「迷っていたから」

「……」

「どうしたら、そのぅ、売上げが上がるのかって?」

 トクさんはあんこを練っていた機械を止めて

「オレに相談しても無駄だ。オレは職人として栄芳堂の名に恥じない菓子を作るだけだ。売るのはあんたらの持ち場だろ?」

「だけど、どうしたら良いのか分からなくなって……幸隆さんが迷ったら工場に行くといっていたのを思い出して」

「若旦那がそんなことを……そうかい。それで良い手は思いついたのか? 若女将」

「いえ。ますます悩むばかりです」

「そっか。こっからはあんこを鋳型に移す作業だ。神経を使う。悪いけど出ていてくれねえか?」

「え? あ、はい。お邪魔しました」

 ガラガラと引き戸を閉める。

 そっか、売上げを上げるのは私たちの仕事なのか? 改めて思い知らされる現実。経営や資金繰りで悩むのは役員の仕事だ。なんちゃって販売部長の私でもそれは逃れられない。彼らを同等の立場で悩ませることは出来ないのだ。従業員は同じ栄芳堂という船に乗っているとは言え、持ち場が違う。沈む時はもろともだが、残った借金は代表取締役であるお義母さんが支払わなくてはならない。分かっていた事だが、分かっているのと理解しているのは別物だ。今ようやくそれを実感が湧いてきた。悩んだ時は工場に来ると言っていた夫幸隆に感謝だ。厳しい現実を目にしたが、知らない不安よりはマシだ。私はやるしかない。娘幸子の未来のためにも。


 私は娘と相談することにした。子供に親の家業のことで要らぬ心配をかけてと批判する人もいるかもしれないが、娘は苦しいウチの経営状況に気がついている。何も相談されない方が不安になると思うし、それに世情は娘の方が敏感だ。アイドルとかスマホとか、こちらは聞くことばかりだ。


 夕食が終わり、

「ねえ、サッちゃん」

「なに?」

「ウチの商品、例えばーー小判きんつばを売る方法ってあるかしら?」

「え?」

「もっと多くの人に買ってもらえないかと思って」

 娘はあっさりと

「無理だね」

「え〜! なぜ?」

「だって高いし」

「それは、高級な小豆やお砂糖や使っているからで、これでもギリギリなんだよ」

「お父さんも良くそう言ってたよね〜。でも今の子はそんなにアンコが好きじゃ無いから、高級でも違いが分からないよ。それに同じ味ばかりだと飽きる」

「え?」

「お母さんの好きなサーティワンでもバニラ味しかなかったら飽きるでしょ? 選ぶ楽しみがないじゃない?」

「それは……そうだけど。でも小判きんつばは飽きないように職人さんが味わい深く仕上げているのよ。その味を求めて、お客様はお買い上げくださるの」

 夫や義母や従業員が守り抜いて来た小判きんつばが批判されているようでつい言い返してしまう。

「お母さんが良いなら、それで良いんじゃ無い?」

 尋ねておいて反論されるなら、娘だってそういうしか無いか?

「はぁ〜」

 私は大きなため息をつき、それから視線を中空に向け、自分を奮い立たせる。栄芳堂はここで終わるわけにはいかない。変わるしかないんだ。私が変えてみせる!

「サッちゃん、だったら例えばーーこんなのはどう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ