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長いながい戦いの記録……Aさん戦記

「ぽん太、ちょっと相談したいことがあるんだけど」

と、お世話になってる人から連絡があり、なんだろうと思いつつ「なんでしょう?」と応えると、会って話したいということで、その人の事務所に伺いました。


 Aさんとします。


 Aさんは事業をなさっており、私にとってはお客様でして、過去に何度か取引をさせていただいております。そのAさんは、複数の法人の【実質的支配者】でして、経営はそれぞれの社長にお任せをしておりました。


 そんなAさんですが、ご自身の資産管理会社の代表には当然ながらなっており、その代表者であるAさん宛に、弁護士から内容証明が送られてきたということが、相談の発端であります。


 とてつもない長さでありつつわかりづらく、さらに意図的に専門的用語を使うことで読み手を不快にさせるお手紙の内容を要約しますと、下記のようになります。


「Aさん、貴社が所有している〇区〇町のマンションは、承認を得て修繕積立金増額を決定したよ。〇年〇月〇日から十万円を請求するよ」


  Aさんは、一万円だったものが十万円? こんなことあるんかいなと思い、不動産業者の知り合いに聞いてみようということで、私に連絡したのですね。


 私は、この弁護士からの内容証明を読み、ピーンときました。


「Aさん、マンションを売ってくれと不動産業者から言われてませんでした?」

「……書類がきてたけど、安かったから断っていたんだよね」

「何度も、来ませんでした?」

「しつこく送ってきていたね」


 築50年以上のマンションとはいえ、立地は某有名駅徒歩五分ほどの好立地でしたので、さすがにその金額はないだろうとAさんは思って、丁重にお断りをされていたようです。


 わかりやすく例えると、リノベなし現況売りでもエンドに一五〇〇万なら売れるだろうと思われる物件を、三〇〇万円で売ってくれと言われていたような感じです。買取再販をする業者の金額としても、安すぎるなという印象ですね。


 では、どうしてこのマンション買取と、修繕積立金増額が関係するのか。


 私はピーンときてたので、Aさんをお誘いして当社まで車でブイーンと移動しました。


 そして、登記情報提供サービスでそのマンションの建物謄本を全室、取得したのですね。


 私の机いっぱいに広げた全室二十室分の謄本を一度に見れば、明らかとなってくることがあります。


 Aさんにマンションを売ってほしいと打診していた不動産業者を、B社とします。


 B社は、そのマンションの各所有者を個別にあたり、少しずつ区分買取を進めていたのですね。そして、議決権を超えたので、残り数室の「売りたくない」と言っている人への嫌がらせ&立退き材料目的で、修繕積立金増額をつきつけてきたのです。


 巧妙なのは、B社は各室を買取りながら、個人に売却も進めております。ぱっと見ればB社の意向がそのままマンション理事会に反映されるものではなさそうですが、買った数日後に売っている登記の内容と、こういうケースを知っている私はピーンときてます。


「これ、パっと見はわからないようにしていますが、B社は購入後に自社の社員あるいは関連会社社員に名義を移してますね。で、売らないなら嫌がらせするぞということですね」

「ぽん太よ、そんなことに弁護士が手を貸すかね?」

「貸しちゃうんですよ、それが弁護士さんですから。依頼者の味方なので」

「……金欲しさにひどい依頼を受けるのか、まったく……どうしたらいい?」

「顧問弁護士にご相談なさっては? どちらにせよ、B社はこれで終わりではないですよ。あちらはAさんが嫌になって、売ると言ってくるのを待っているんです。B社の目的は、一棟を全て所有した後に建替え、あるいは売却して利益だしたいんです。おそらく大手が出口についていて、いついつまでに仕上げますという打合せがされているはずです」

「自宅から近くて、書庫にして読書してたんだ。癒しの場所だったのに……ぽん太の知ってる弁護士で不動産に詳しい人いない? 私の顧問弁護士はお爺ちゃんでさ……同級生だから」

「ご紹介します」


 Aさんに、C弁護士を紹介しました。


「あー、これは完全にやられちゃってますね、ここから挽回するにはお金がかなりかかりますけど、大丈夫ですか? 修繕積立金も払わないといけないですよ」


 かるーい感じのC弁護士ですが、ちゃんと仕事はしてくれます。


 Aさんは「修繕積立金十万も払いたくない」と言いました。


「ダメですよ、ダメです。弱みつくります。こちらが粘っていて、組合運営に協力するというスタンスでいれば、困るのはあちらなんです。あちらはいついつまでに仕上げたいんです。そうはさせじと修繕積立金増額に応じたり、緊急の共用部リフォームにも応じたりして時間をかけて焦らせるしかありません。お金、かかります。そこまでして、戦いたいですか? オススメは、買い上がりを要求して、打診額よりも高く買ってもらえば気が楽になりますし、手元にキャッシュが残ります。私への報酬も払う必要ありません」


 Aさんは、悩まずこう言いました。


「この業者と、この弁護士に負けたくない。あんたがやってくれるなら、俺は金を払う」


 こうして、長いながい戦い……一年ほどの戦いが始まったのです。


 結論、Aさんは所有していた区分を当初三〇〇万円買取金額だったところを、一五〇〇万円でB社に売却しました(例えの金額ですよ)。


 最後の一室となったAさんに、B社が折れたというところです。


 Aさんから、経緯は常に共有されていて、「こういう不動産業者は免許とりあげたってくれ」と思うほどのひどい話です。


「耐震補強工事するから、修繕積立金とは別にお金がなんぼ必要なので、〇月〇日にまでに払うように」

「共用部のあれを直すので以下同文」

「外壁のあれを直すので以下同文」


 これに対して、Aさん代理人としてC弁護士は都度対応してくれました。


「協力します。ただ見積りを見せてください……見積りは一社だけしかとっていないのですか? 複数社からの見積りをとって安いところを探しませんか?」

「共用部の修繕の件、依頼者も喜んで協力したいということですが、耐震工事と同じく見積りを以下同文」

「お金は当然、払いますし協力しますので以下同文」


 他には、区分所有法が改正されるから云々かんぬんとAさんを不安にさせるような文面が送られてきた時も、C弁護士は適切に対応してくれました。


「脅すならやったるぞ、こら」


 みたいな感じです。


 建替え決議をとるとか、いろいろとあの手この手を使ってきたことへも、「協力しますよ」という対応をとり、また修繕積立金を払えたAさんが稀有だったということもあって、B社がついに「ごめんなさい、売ってください。倍の六〇〇万円で買います」と言ってきたのです。


 Aさんは、「一五〇〇万円なら売るよ。調べたらこれが相場らしいから」とC弁護士経由で答えました。


 B社は出口売却後の利益と相談して、もう買っちゃえと思ったのでしょう。


 Aさん、一年間お疲れ様でした。


 C弁護士、ありがとうございました。


 皆さんも、分譲マンションを実需でご所有の場合、「その区分、売ってください、なんぼで」としつこく訪ねてくる、あるいは連絡をとってくる不動産業者が現れたらご注意ください。


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