孤独死
不動産に関する仕事をしていると、事故物件とかかわることがあります。
これは、実体験で、愚痴です。
そのマンションは、二年前に取引先からの依頼で買い取った一棟収益物件でした。利回りは都内の山手線駅徒歩十分内なのに八パーセントあり、ネット利回りも高くお買い得だと思ったのです。
ところが、今年の春、入居者の一人が死亡していることがわかりました。
部屋で。
管理会社へ、隣室から電話があったそうです。それで、管理会社の担当がカギを持ってその部屋に行き、警察の到着を待って中に入った……いえ、入るまでもなく、玄関前ですでに臭いので察したそうです。
厳密には、この時点ではまだ自殺、他殺などで死亡したとはわからないので、事故物件といえないのですが、悪臭うずまくその部屋に特殊清掃をいれないわけにはいかないので、結局は事故物件となります。
皆さんもお部屋を探すときに、不動産屋で見る募集図面、マイソクというやつを見たことあるかもしれませんが、はしっこに小さく『心理的瑕疵あり』と書かないといけないやつになってしまったのです。
仕方ないと思って、リノベや清掃の手配をするように担当と話をしたのですが、ここから面倒にまきこまれることになります。
「ここで発見された遺体が、Aさんであるかの確認をしないといけません」
Aさんが借りていた部屋で、遺体が発見された。その遺体は誰かわからないほどなので、Aさんである確認が必要と、日本が誇る警察組織は言うわけです。
つぎに面倒なのは、Aさんには身寄りがいません。
なんと、本当に一人だったのです。
お仕事はしていて収入があり、家賃保証会社の審査は問題なかったのですが、相続人がいないのです。
賃貸を借りるときに書く、緊急連絡先はなんとAさんが亡くなる半年前にお亡くなりに……その配偶者の方としても「いや、巻き込まれたくないので」「三重なんで」「お任せします」ということで……。
結局、警察の捜査が終わるまで、Aさんは、Aさんかもしれないというシュールな状態となってしまったのです。歯医者の記録、病院の記録などなどを警察が調べて、これはAさんであると確認をとるまで約一か月……。
それから住民票の除票手続きを、管理会社の担当がしてくれたのですが、役所のほうではAさんの荷物やらあれやらは2年間ほど保管するそうです。
「相続人が出てくるかもしれませんので」
「ニ年後に、かかった費用を口座の残高からいただきます。その時に、金融機関にAさんが亡くなったと手続きするので口座はまだ生きています」
この、ニ年間という期間が、私を困らせることになるのです。
管理会社の担当者から、その連絡が入りました。
「電気だけは解約ができないんです」
「……なんで?」
「本人か、配偶者でないとダメだって言うんです。せめて親戚から」
「亡くなっていても?」
「関係ないそうです」
「……マジかよ」
「ラチあかないですよ、コールセンターなんて委託うけてやってる人たちだし、他に窓口ないし、なんとかしてもらおうとしてもいたしかねますの連発で、話になりません」
「親戚は? 独身だったし、親戚っていっても……例の連絡先になっている遠い親戚の配偶者は?」
「連絡つかないんですよ」
リフォームしないといけないので、当社で電気の契約をしようとすると、『前の契約が残っているのでお客様との契約はできません』と断られます。
当社が電気の契約をしたいと小売業者に申し込むと、小売業者のほうでその場所の契約をするよと送配電業者に連絡し、送配電業者がAさんと契約している小売業者に「解約せぇよ」という連絡をいれて、Aさんと契約している小売業者がAさんに連絡をいれて確認をとらないと、当社の契約はできないのです……これは、当社が申し込んだ小売業者のコールセンターの人の説明です。
じゃ、解約をしなきゃということで、Aさんの部屋にあった電気の小売業者と思われる封筒から、その会社に連絡を管理会社からいれてもらったところ、「Aさんか、Aさんの配偶者から連絡させろ」「代理は解約できんよ」と言われてしまったとのこと。
Aさんは電気料金の支払いを、クレジットか口座振替でしているに違いありません。そうでないと、未払いでとっくにとまっていないといけないからです……。
どないせーちゅうんじゃ!
「担当部署に、A様がお亡くなりになったという情報をまわしておきます」
「解約がいつになるかはわかりません」
「新規の申し込みが入れば、解約されるかもしれません」
こんなことを言われたと、管理会社の担当も疲れており、私たちも他に方法がないならと『契約できるまで、Aさんの部屋で電気の契約がされるまで何度も申し込みをする』という間抜けな作業を続けます……。
はぁ……親戚の配偶者からだったら、一発で解約してくれたかもしらんというのにと愚痴りながら、リノベの工程リスケをします。
電話や携帯なんかは、別に放っておいてもこちらも困りません。
口座のお金がつきれば、解約になるでしょうから。
ですが、電気の契約ができないのは困ります。Aさんの契約で使っちゃえよという悪魔の囁きに抗いながら、コンプラ上まずいよなと我慢します。
あと、Aさんの口座にどれだけのお金が残っていたのかわかりませんが、こういう体験をしたので、こう言えます。
「自分の資産を残したいという相手がいたら、必ず遺言を書きましょう」
残す資産が欲しい人は、頑張ってください。
騙されて、不動産を買ったり投資をしてはいけません。
それでは、失礼します。




