**第五章** 「ログイン者アヤと、データの涙」
「さあ、来い。“異物”どもよ──」
仮面王ゼロ・レイヤーが空へ舞い上がると同時に、灰色の都市にエラーレイヤーが広がった。空間が波打ち、都市そのものが“データの断片”に変わっていく。
「この世界……本当に“プログラム”で動いてるの?」
「正確には、感情と記憶がコード化された“意識レイヤーの並行世界”です」ダージリンがティーカップの中から冷静に答える。
「つまり、ゲームとかVRじゃないけど……“誰かの記憶”でできてる世界ってこと?」
アヤの脳裏に、ふとある場面がよぎった。カフェの休憩室で、ボーっとスマホの画面を見ていたあの日。
──“自己診断・人格同調型RPGベータテストに参加しますか?”
何の気なしにタップした“YES”。
「まさか……あれが“ログイン”だった……?」
「君はこの世界にアクセスした、最初の“感情型ユーザー”です。だが、この世界は、開発者によって放棄されたまま崩壊しかけている」仮面王が手を振ると、塔の外の住民たちが一斉に膝をつく。
「だから私は統制した。仮面によって。“演じること”が、彼らを守る唯一の手段だったのだ」
「でもそれって、“本当の気持ち”を押し殺すことでしょ?」
アヤの声が響く。
「私だって、ずっと仮面つけて生きてたよ。“うさ耳つけて接客する明るい子”って仮面。でも……この世界で、それが“武器”になるって知った。だから……!」
アヤが手を掲げる。
紅く光る接客メニュー表が空中に展開し、スキルが進化する。
【新スキル開放:アヤ】
* 《オーダー・ハートブレイク》 敵の“記憶ログ”にアクセスし、封じられた感情を強制開放する“感情爆破”魔法。仮面を粉砕する。
* 《リピーター・コネクト》 一度心を開いた者(NPC含む)を“絆リンク”で仲間にする。
「あなたにも、思い出があるんでしょ? 隠さないで……! ご注文、いただきますッ!」
《オーダー・ハートブレイク》が放たれた。
仮面王の身体が崩れ、浮かび上がったのは──少年の姿だった。かつてこの世界を作った開発者の息子、“タクト”。
「僕は……忘れられたんだ。父さんも、世界も、誰も覚えてない。だから仮面で全部閉じたんだ……」
「タクト……あんた、本当はずっと寂しかったんだよね」
アヤは彼に手を伸ばした。
次の瞬間、塔全体が光に包まれた──




