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**第三章** 「バグ都市システムゼロと、レイヤーの涙」

旅に出て三日。アヤはもう、魔物を見てもそこまで叫ばなくなっていた。それどころか、最近では戦闘のたびに、猫耳騎士ラグナよりも先に敵に話しかけるという謎の戦法を取っていた。

「いらっしゃいませぇ〜♡ ご来店ありがとうございます〜!」

敵のスライムは戸惑って動きを止めた。

「ねぇ、それ、やっぱり“魔法”だよな……?」ラグナが隣でぼそっと呟く。

「ただの“接客術”なんだけどなあ……」

戦わずして敵を混乱させる技、“魅惑系スキル”として扱われていたが、アヤにとっては普通の接客モードだった。


彼らがたどり着いたのは、灰色の都市──システムゼロ。元々は高度に発展した魔法科学都市だったが、数年前から「住民たちが仮面を外せなくなる現象」に苦しんでいた。

仮面は人格を固定し、心を封じ、個性を失わせていく。

「彼らは皆、レイヤーと呼ばれるデータの重なりに囚われているのです」と紅茶の精霊ダージリンは説明した。

そして、アヤはその中で、1人の“仮面をかぶった少女”に出会う。


少女の名はレイヤ。無表情で、声もなく、ただアヤを見つめていた。

「ねえ、あなた……名前、覚えてる?」

答えはなかった。だが──アヤが彼女の手を取ったとき、レイヤの目から、一粒の“涙”がこぼれ落ちた。

その瞬間、都市に張り巡らされていた仮面の魔法陣が一部、バチバチと音を立てて崩壊した。

「……感情が、干渉した?」ラグナが剣を抜く。

「バグが、応答している。君の“接客”が、“演技”じゃなかったからこそ反応したんだ」

「え?」

「つまり、仮面の下の“本当の声”に触れたんですよ」ダージリンがうれしそうに言った。

アヤの中で、何かがはっきりした。この世界には“仮面をかぶる”ことで壊れないようにしている人たちがいる。だけど、壊れることを恐れていたら、本当の自分にたどり着けない。

まるで、アヤ自身のことみたいだった。


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