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<R15>15歳未満の方は移動してください。

俺の彼女がドSに目覚めた

作者: 胡桃瑠玖

 

「美咲〜、一緒に帰ろ」


 帰りのホームルームが終わり、俺が声をかけた隣の席のこの髪の毛栗色でおめめクリクリの可愛らしい小さな女の子の名前は、早瀬はやせ 美咲みさき(17歳)。俺、芳賀はが 翔太しょうた(17歳)の幼馴染にして、恋人だ。

 今から約1ヶ月前に俺から美咲に告白をし、見事恋人になってくれた愛しい彼女だ。


「ん、いいよ」


 美咲は俺の誘いに承諾してくれた。

 

 さて、美咲と放課後デートと洒落込みますか。


「どっか寄って帰る?」

「どこ行く?」


 ご覧の通り、美咲は口数が多い方ではない。また、感情もあまり顔に出ない方だ。

 だが、そこも可愛いところだ。


「うーん……」

「おっ? 今日も一緒に下校か? ラブラブだこって」


 俺が美咲と何処に寄ろうか考えていたところ、クラスメイトにして友人の優人ゆうじんが揶揄ってくる。

 友人の優人という名前は覚えやすい。

 高校2年生に上がり、その時机が隣同士だった優人に声をかけられ、「俺、もり 優人ゆうじん。友人の優人で覚えてくれ」と、自己紹介をされた事は記憶に新しい。

 あまりにも分かりやすい自己紹介で、俺は優人の名前を1発で覚えた。


「そうだろう、そうだろう」


 俺は「うんうん」首を縦に振り、美咲とラブラブである事を肯定する。


「私と翔太、ラブラブ」


 美咲が俺の腕に自分の腕を絡ませて来たため、美咲が俺の腕に抱きつく形になる。

 その時、「むにゅ」っと柔らかな感触が俺の腕に感じられた。

 これは間違いない。美咲のお○ぱいだ。

 美咲のお○ぱいは凄く大きい訳ではないが、それでも手の平に丁度収まるくらいには、その存在を主張している。


 何故そんな事を知っているかって?

 俺と美咲は思春期真っ只中の17歳だぞ?

 付き合って1ヶ月もあれば、やる事はやってるっての。

 ええ、はい。大変気持ちようござんした。

  

 さて、そんな事より美咲に自分のお○ぱいが俺に当たっている事を指摘しよう。


「美咲、胸当たってる」

「ん、当ててる」


 美咲のその返答により、俺は歓喜した。


 え? 何この子? 超可愛いんですけど??え?? 天使?? いや、女神??


「ありがとうございます!!!」


 俺は嬉しさのあまり、頭を下げてお礼を言った。


「はぁ……、見せつけやがって……甘すぎて砂糖吐きそう……。俺も彼女欲しい……」


 優人がため息を吐き、愚痴をこぼす。


「それな〜、2人を見てるとこっちが悶えるよ」


 他のクラスメイト達も「それな〜」と言いながら同意する。

 

 いや、まぁ?こっちだってやりたくて美咲とイチャイチャしてる訳じゃないし?? でも美咲が可愛い事言うから仕方ないって言うか?? 美咲が可愛すぎるのが悪いって言うか??? それが結果的にイチャイチャしてるように見えるって言うか???? いや〜困っちゃうな〜!! ほんと、俺の彼女が可愛すぎて困っちゃうな〜!!!


「ぎゅへへ……」

「何か翔太の口緩みまくってるぞ?」


 どうやら今の俺の口は緩みまくっているようだ。


「そりゃぁ、こんなに可愛い彼女があんなに可愛い事言って来たら口が緩むのも仕方ないだろ」

 

 ああ、君の言った事は間違いない。

 美咲が可愛すぎるのが悪いのだ。


「末永く爆破しろ」


 まぁ、こんな感じで俺と美咲はクラス公認のバカップルみたいな扱いだ。

 勿論、それが嫌な訳ではない。

 むしろ嬉しい。

 

 さて、では帰るとしますか。


「じゃ、皆んなまた明日」

「バイバイ」


 俺と美咲はクラスメイトの皆んなに片手で手を振り、並んで教室を出る。


 気づけば既に美咲は俺の腕を離していた。

 その代わりに、美咲は俺の手の平に自分の手の平を絡ませて来た。

 所謂恋人繋ぎというやつだ。

 美咲と手を繋ぐだけでも、こんなにも彼女の事を愛おしく思うとは。

 この感情を大事にしていきたい。


 俺と手を繋いで並んで歩いている隣の美咲の方を見る。

 普段感情の乏しい美咲だが、俺には美咲が嬉しそうにしている事が分かる。

 本当に俺の彼女は可愛い。


 その後、途中コンビニに寄りながらも美咲と帰った。








 さて、俺は仲良く美咲と俺の家に帰って来た訳なのだが……。


「これ付ける」


 どういう訳か、今、美咲にお座りさせられ犬の首輪とリードを付けられそうになっていた。

 いや、まぁ、どういう訳も何も、美咲がそういう性○だという事は付き合い始めて結構すぐに露見したから知ってる訳なのだが。

 また犬の首輪とリードですか……。

 

「付けて」


 俺は美咲に犬の首輪とリールを付けてもらうために、お座りしながら美咲の方に首を傾け「付けて」とお願いした。


「犬は人語話さないで」

「ワンッ!!」


 うーん……、何だろう……? 前にも思ったけど、美咲に躾けられるこの何とも言い難い"快感"は……。


「ん、良い子」


 美咲は俺の頭を撫でながら、俺に犬の首輪とリールを付ける。

 

 さて、諸君はもうお気づきだとは思う。

 そう。俺の大切な幼馴染にして俺の大好きな彼女である早瀬 美咲……。

 彼女は何と……ドSだったのだ。

 

 勿論、それが悪いと言っている訳では決してないし、そういう性○の人がいるってのも分かっている。また、それがダメだとも俺は決して思わない。


 だがしかし、取り敢えず彼氏の俺が彼女の事を言える事があるのだとすれば。



 俺の彼女、ちょっとヤバい。








 遡る事、約1ヶ月前。


 俺はその日LINEで放課後学校の校舎裏に来てくれる様に、美咲を呼び出していた。

 美咲への要件は告白だ。

 

 俺と美咲は幼馴染だ。家がお隣同士で、幼稚園から小、中、高とずっと一緒の学校だ。

 

 美咲の事を異性として意識し始めたのは、小学校6年生の時だった。

 この時も今と変わらず、美咲は口数が少なく感情もあまり顔には出さないタイプの女の子だった。

 美咲の身長は小学6年生の女子の平均より小さく、また小動物めいた女の子だった。

 

 この年齢になってくると、皆んな恋愛に興味を示す子達が多くなってくる時期だ。


 そんな時、男子から告白されたと美咲から話を聞いた。

 美咲は小動物めいた可愛さがあるし、まだ幼さはかなり残るものの、容姿は間違いなく整っていた。

 だから、美咲が男子から告白されるのも時間の問題だったのだ。

 俺はそれを聞いて、胸がズキリとしたのを今でも覚えている。

 美咲が他の男と付き合うのが嫌だと思ったからだ。

 その時、俺は美咲の事が好きなのだと自覚した。


 そして高校1年生の3月。俺はようやく美咲に告白しようと決意したのだ。

 

 今日は3学期の終業式の日だ。

 今まで美咲に告白してこなかったのに、何故、今になって美咲に告白しようと思い至ったのか。

 理由は簡単だ。単純に美咲に告白する勇気が湧いてきたからだ。

 そして、春休みは美咲とイチャイチャしたいと思っていたからだ。

 だが、俺の告白で幼馴染と言う関係も壊れてしまうかも知れない。

 もし、告白を断られてそうなりそうになったら、俺は全力でスライディング土下座をかまし、悲しくはあるが、「今まで通りにいてください」と申し入れる事だろう。


 それ程の覚悟を持って、俺は今日、美咲に告白をする。

 

 美咲を呼び出し校舎裏で待つ事数分。そこに俺が呼び出した美咲がやって来た。

 

「ん、翔太。お待たせ。こんなところに私を呼び出してどうしたの?」

 

 美咲はキョトンとした表情で俺に問いかける。

 俺と美咲は幼馴染だから、まさか俺から告白されるとは思っていないのかも知れない。

 これが別の男子からの呼び出しなら美咲は、「告白か」と思ったと思う。

 それはひとえに俺の事をただの幼馴染としか思っていないからなのかも知れない。

 

 だが、それでも、それでも俺は美咲に告白をする。

 もし無理だったとしても、告白する事自体は無料だ。

 そしてもし告白が成功すれば、それはもう数えきれない程の愛という名のお釣りが彼女から貰えるかも知れない。

 告白は間違いなく、ノーリスク・ハイリターンだ。

 いや、実際には美咲が俺の告白を受け入れなかった場合、幼馴染と言う関係が壊れてしまう可能性は捨てきれないから、リスクはあるが……。

 だが、それでも、それでもリスクを承知の上で告白して成功すれば、美咲からの愛が貰える。

 そしてもし付き合って結婚まで行ければ、彼女が妻として、好きな人からの永遠の愛が貰える。


 こんなにもお得な買い物があるだろうか?


 俺は無いと断言できる。

 たった一回の勇気で両手では抱えきれないほどの愛を、大好きな人から貰えるのかも知れないのだがら。

 どれ程のお金を積んでも、これほどまでに嬉しい物は買えないだろう。


 だから、俺は美咲に告白をする。もし無理だったとしても……だ。

 

「美咲、来てくれてありがとう」

「ん、大丈夫」


 俺は彼女の瞳をしっかりと見据える。美咲も俺の瞳を見る。

 そして俺は口を開いた。


「俺、美咲に伝えたい事があるだ」

「ん、なに?」


  顔が熱い。また、俺の心臓が早鐘を打つかの如く、ドンドンドンと高鳴っている。

 

 俺は意を決して口を開き、美咲に告白をした。


「俺……美咲の事が好きなんだ。だから……、だからもし良かったら、俺と付き合ってくれませんか……?」


 そして俺は美咲に手を差し出し、頭を下げた。


「……」


 美咲は無言だ。


 くッ……これは無理か……?


 美咲の顔が見れない。

 俺は断られるかもしれないと思い、悲しさのあまり顔が歪み、涙が出そうになる。

 だが顔に力を入れ、グッと涙を堪える。


 数秒後、俺には何十分もの時間に思った沈黙を、美咲が破る。


「驚いた。まさか翔太が私の事好きだったとは……」


 その反応はどっちなのですか美咲さん!!!


「でも……ん、良いよ。付き合う」


 そう言って俺が差し出した手を美咲が両手で握る。


 俺は美咲の返答にガバっと顔を上げた。


「ん、これからよろしく」


 普段感情をあまり表に出さない美咲は、俺の目を見て確かに僅か、微笑んだ。


 俺は美咲が握っていない方の手を空に上げ、嬉しさのあまり感情が爆発し、歓喜の声を大きく上げた。


「やっっっっっっっっっっっっっっったああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 そして上げていた手を下ろした後、両手で美咲の手を包みぶんぶんと上下に振る。


「美咲、これからは彼女としてよろしくな!!」

「ん、今日から翔太は私の彼氏。よろしく。後、手、痛い」

「あ、ごめん」


 美咲は手が痛いようなので、ぶんぶんしていた手を止める。


 これ程までに嬉しい日の事は、今後一生忘れる事はないだろう。

 それ程までに、俺は美咲の恋人になれた事が嬉しかった。

 俺はその日、彼女になった美咲と手を繋ぎながら歩いて帰った。








 美咲への告白から1週間。俺と美咲は順調に交際を続けていた。

 いや、まぁ、付き合いだしてから1週間ぐらいで順調もクソもないとは思うが……一応言っておこうと思う。順調だ、と。


 さて、今日も今日とて美咲と一緒にお家デート中だ。

 尤も、家がお隣同士だから付き合う前からお互いの家に行ったり来たりしていた訳だが。

 やはり、彼氏彼女の関係になると少し違った感じがする。


 例えば、幼なじみとはいえ付き合う前はお互いに身体を必要以上にベタベタとくっ付けたりしなかった。

 

 だが、今の美咲はどうだ?


 俺がベッドに座って漫画を読んでいると、モゾモゾと俺の開いた足と足の間に座り、背中を俺の身体に預け美咲も漫画を読んだり、背中を預けて来たかと思えば俺の方に身体を向け、強く抱きついて来たりする。


 何なんだ?? この可愛い生き物は????


 俺に背中を預けて来たり抱きついてくると、美咲は身体が平均より小さいから、俺の身体にすっぽりと埋まりメチャクチャ可愛い。

 守ってあげたくなる可愛さを美咲は持っている。

 勿論、全力で守りますとも。えぇ。








 さて、そんな美咲なのだが、彼女は今、新しい扉を開こうとしていた。

 もしくはもう開いているかも知れない。


 ベッドの上に座っている俺に、美咲は少々興奮しながら、俺の座っているベッドの上に乗り、犬の首輪とリードを持って四つん這いでジリジリとにじり寄ってくる。

 俺は身の危険を感じ、目線はしっかりと美咲の方に寄せながら、だがしかし少しづつ後方に追い詰められる。


「な、何を持ってるいるんですかね美咲さん……」


 俺は引き攣った笑みを浮かべ、美咲に問う。


「ん、犬の首輪とリード」


 いや、それは見れば分かるねん!!!!

 何でポチの首輪とリードを持って来てんねん!!!! そして尚且つ何でそれを持ってこっちににじり寄って来てんねん!!!! それが聞きたいんや!!!!


 俺は美咲の行動に驚愕し、そして内心では驚愕のあまり関西弁でツッコミを入れてしまう。


 因みにポチとは芳賀家にいる柴犬の名前だ。


「ちょ、ちょっと一旦落ち着こうよ美咲さんや……」

「私はいつも落ち着いている」


 いや、確かにッ……!!。一理あるッ……!!


 美咲は普段感情をあまり表に出さないし、口数少ないからいつも落ち着いて見える。


 だがしかし、今、少々興奮しながら俺ににじり寄ってくる美咲は誰がどう見ても落ち着いているようには見えない。

 

 それにしても……、今の興奮してる美咲、何かエ○いな……。


 そんな事を一瞬考えてしまった事が命取りになってしまった。


「えいっ!」


 美咲は可愛らしい掛け声と共に、犬の首輪を俺の首に嵌めた。


「いやだあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 俺は絶叫した。そして暴れようとしたが、ここで暴れると美咲が怪我をしてしまう可能性に思い至り、大人しくする。


「……」


 美咲は次に、俺につけた犬の首輪にリードを付けた。

 俺はそれを見届ける事しか出来なかった。


 人間は何と無力な事が生き物なのだろう……。


「グス……もうお嫁に行けない……」


 俺は両手で顔を覆い、嘘泣きをする。


「ん、大丈夫。私が貰ってあげる」


 何と嬉しい事をこの子は言ってくれるのだろうか……。


 だが現状俺は犬の首輪を嵌められ、リードを付けられた状態だ。

 そしてそのリードは美咲の手にある。

 こんな状態じゃなければ美咲の「貰ってあげる」発言に対して、俺は歓喜の声を上げ狂喜乱舞していた事だろう……。

 いや、勿論こんな状態でも美咲の「貰ってあげる」発言は嬉しいけどもッ!!!

 

 それは兎も角として、何だこの状況?


「ねぇ美咲、何でこんな事したの?」


 俺は美咲の目を見て、抗議の表情をする。


 美咲は真面目な顔でとんでもない発言をした。


「ん、そういう作品、初めて読んだんだけど、"ちょっと"興奮した。それで分かった。翔太。私、ドSみたい」


 俺の彼女がドSに目覚めた。


 いや、そんなことよりコイツ、可愛い顔して何言っとんねん!!!!!!!!ドSて!!!!!


 だが、うん……。彼女の性○を受け止めるのも彼氏の勤め。

 ここは一つ、美咲の性○に付き合うとしよう。


「それで?美咲に首輪とリードを付けられた訳なんだけど、俺は何をすれば良いの?」


 美咲はベッドの上に立ち上がり、俺に何をすればいいのか指示を出す。


「ん、犬の真似」


 ッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………………………俺の尊厳は何処へ………?


 だが、良いだろう。美咲に頼まれたからにはやってやろうではないか。犬の真似。


「ワンッ!」


 俺は両手両足をベッドの上につけ、立ち上がった美咲に視線を向ける。

 俺は今、美咲に対して所謂上目遣いというやつをやっている。


「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!」


 美咲は両頬に手を当て、声にならない声を上げた。

 おそらく自身の支配欲が満たされていくのを感じているのだろう。


「お手」


 美咲は身体を屈め、俺に手の平を出して来た。


「ワンッ!」


 俺はそれに答えるように、差し出された美咲の手に自分の手を置く。


「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


 この人かなり興奮してるんですけど……。

 いや、それにしてもさっきも思ったが、美咲の興奮した顔……いいね……。"ゾクゾク"する。"その顔、メチャクチャに"したい。

 

 そしてそれ以外にも、俺は少し予想外な感情が起きていた。

 それは、このドMみたいな状態にあるのにも関わらず、この状態も「少し良いかも……」何て感情が湧き上がっていた。


 その後も美咲に色々な犬の真似をさせらた。








 時は現在に戻って4月。そして美咲と付き合い始めて約1ヶ月。

 今日は久しぶりに犬の真似を美咲にさせられていたのだが……、今日は美咲に頼みたい事があった。


 俺はベッドの上に姿勢正しく座る。

 俺の首輪を嵌められ、リードに繋がれながらも真面目な顔をして美咲を見た。


「なぁ、美咲。美咲にちょっと頼みたい事があるだけど良いか?」


 美咲も俺の顔を見て、真面目な話だと悟り、ベッドの上で姿勢を正す。


「も、もしかして、やりすぎちゃって私の事、嫌いになった……?」


 美咲は別れ話をされるのではないかと不安な表情になり、瞳を揺らしながら聞いてきた。


 なんだ……、そんな事を心配してたのか……。

 そしてやり過ぎた自覚はあったんだ。


「いや、そういう話じゃないから安心して。俺はいつまでも美咲が好きだよ?」


 俺は美咲に安心してもらえるように、努めて笑顔で美咲に言う。


「もし美咲の事が嫌いになってたら、こんなにも美咲の性○に付き合ってないよ。だから安心して?」

「そ、そう……。良かった……」


 美咲は心底ホッとした表情を少し浮かべた。

 美咲、俺の前では感情がかなり分かりやすくなったな。

 それは嬉しい事だ。

 いや、勿論付き合う前から結構分かっていたけども。


 さて、本題に戻ろう。


「それで美咲に頼みたい事なんだけどさ、俺に付いてるこの犬の首輪とリードを美咲に付けても良いか?」


 美咲は俺の言葉に、少し目を見開いた。


「ん、翔太は私に犬の真似、やって欲しい?」


 自分に犬の真似をして欲しいんだと、美咲は瞬時に理解する。


「うん。嫌じゃなかったらだけど。嫌なら、やらなくて良いからね?」


 そうだ。嫌な事はやらなくても良い。自分の彼女には嫌な思いをさせたくない。

 まぁ、俺は犬の真似なんて初めは嫌だったが、彼女の性○に付き合うために尊厳を捨てて犬の真似をしたけども……。

 尊厳を捨てた代償に美咲が喜んでくれるならお釣りが来たってもんだ。

 俺が尊厳を捨てて結果的に美咲が笑顔になるのであれば、尊厳の1つや2つ、犬に食わして捨ててやる。


 それは兎も角として、果たして美咲の返答はどうなのだろうか?


「ん、良いよ。犬の真似、やる。"丁度最近やりたかった"し」


 どうやら美咲は犬の真似をやってくれるようだ。

 俺の問いに「ん」と頷いてくれた。


 さて、美咲に躾けられてちょっと興奮してるドM気質がある俺が、何故彼女みたいなドSな事をやろうとしているかと言うとだが……。

 ちょっと俺は確かめたい事があったのだ。

 

 それは何か?


 前に……と言うか今回もだが、あの美咲の興奮してる顔を"メチャクチャにしたい"という感情が湧き上がってくるのだ。

 そこで俺はふと思った訳だ。


「もしかして俺もドS気質高いのでは??」と。


 だから俺はそれを確かめるために美咲に犬の真似をやってもらおうと思った訳だ。


 俺は自分に付いている首輪とリードを外す。


「ん、付けて」


 美咲が自分の首に掛かっている髪の毛を上に掻き上げ、俺の方に首を差し出してくる。


 オォウ///……美咲のうなじ……エ○ォい///……って、違う違う!!

 今は美咲に首輪をつける時!!!

 

 俺は頭をブンブンと横に振り、美咲に対しての邪な気持ちを追い出す。

 いや、今から首輪とリードを自分の彼女に付けようとしている訳だから、邪な気持ちはあるか……。


「じゃ、じゃぁ付けるよ」


 俺は美咲の首に、首輪を近づけていく。

 そして俺は美咲のうなじを見て、ゴクリと生唾を飲む……ってだからちがーーーーーーーーーう!!!!!!!


 落ち着け……、落ち着け俺……。

 美咲のうなじがエ○いことなど今に始まった事ではないだろう!!!

 

 それとも何だ?

 もしや俺は"この状態に"興奮してると言うのか……?美咲の首に首輪を付ける、この状況に。


 あ、ヤバイ……。

 そう考えると余計に興奮して来た。


「翔太、首輪、まだ?」


 美咲は後ろに振り返り、俺を見上げてくる。


「悪い。今付ける」

「ん」


 美咲は再び前を向き、うなじを差し出して来た。


 俺は気を取り直し、ゆっくりと美咲の首に首輪を付ける。

 続けてリードも首輪に繋げる。


「ん、付いた?」

「うん、付いたよ」


 美咲の言葉に俺は返す。


 美咲は「うんしょ」と言いながらベッドから降りて、少し歩いたのち俺の方に振り返る。

 その表情は何故か少し興奮気味だった。


 なんだろう……、私、興奮してるみたい……」


 確かにその表情は赤み掛かっており、俺に首輪と付けられた状態に興奮しているようだった。


「ねぇ、私になんか"命令"してみて」


 美咲は俺に"命令"をして欲しいようだ。


「じゃぁ、首輪付けてる間、俺の事「ご主人様」って呼んで……、いや、「ご主人様」と呼べ」

「ッッッッッッ!!!!ご主人様。分かった!」

「ッッッッッッッッッッッッッッ!!」


 何だろうッ……!! 何だろうッ……!!! 良い!!!! 良いぞコレ!!!! メチャクチャゾクゾクするッ!!!!!

 

 俺はどうやらドSに目覚めたらしい。


 やはり、あの美咲の表情をメチャクチャにしたいと思った感情は、ドSの気質に違いなかったようだ。


 そしてどうやら美咲にも変化があったようだ。


「はぁ……はぁ……」


 俺が美咲に「ご主人様」呼びを命令してから、美咲の表情はより一層興奮気味に赤みが増していた。


 どうやら美咲はドMの気質もあったようだ。


「美咲、伏せ」


 俺は新たな命令を出す。


 美咲は命令に従い、伏せをする。


「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


 俺の身体全身に快感が行き届く。

 

「お手」


 俺は美咲の前に手を出した。

 その手に美咲は自分の手を重ねる。

  

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」


 俺は再び身体がゾクゾクとし、恍惚の表情を浮かべる。

 対する美咲も、より一層興奮した顔をしていた。


 そして、その美咲の興奮気味の表情に、俺は更なる快感を感じた。


 美咲の興奮したその表情を見て、「あぁ、美咲を押し倒してその顔をメチャクチャに歪ませたい……」と、そう思わずにはいられない。


「美咲……」


 俺は、理性が飛ぶ寸前にまで陥る。

 俺は首輪の付いた美咲を床にゆっくりと押し倒し、四つん這い状態になり美咲の身体に覆い被さるような形になった。


 美咲もこの状況に更に興奮したのか、顔がより一層赤みが増す。


「ご主人様……」


 美咲は目を少し潤ませながら俺の顔をしっかりと見る。

 

 俺はその状態で美咲の唇に自分の唇を近づけた。

 そして俺と美咲は目を瞑り、唇同士がくっ付いたその瞬間……。


「翔太ー、この漫画の続き……を……」


 俺の姉が部屋を開けて入って来た。


「「「………………」」」


 数秒の沈黙が場を支配する。


 え? 待って?? こういうのって普通キスする寸前とかにやってくるものじゃないの???

 俺今メチャクチャ美咲とキスしちゃってるんですけど?


 そんな事を俺は美咲とキスした状態で考えていた。

 

 呑気に考えてる場合じゃない。

 彼女を押し倒しながらキスしてる場面を姉に見られたとか気まずすぎるッ!!!!


 そこまで思考が及んだ俺は、美咲の唇から自分の唇を離し、「ガバッ」と美咲の上から飛び退く。


 そして、俺は慌てながら言い訳を捲し立てようとしたのだが……。


「い、いや、ねぇちゃん!!これは違くてッ………………も違うけどもッ………!!!」


 「これは違う」と言い訳をしようとしたが、先程の状況はどっからどう見ても全く違わないので言い淀む。


「ごめん……。漫画はまた後で借りに来るね。続き、楽しんでね」


 メチャクチャ申し訳なさそうにしながら、姉が俺の部屋から出ていく。


「ね、ねぇちゃん!!!」


 俺が伸ばした手は虚しく空を切った。


「「……」」


 俺と美咲は無言。


 俺はトボトボとベッドへ行く。

 そしてベッドに倒れ込むや否や、感情が爆発した。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

 ねぇちゃんに彼女とキスしてるところ見られたあああああああああああああああああああああ!!!!!

 気まずすぎるううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!

 なんなら押し倒しちゃってるうううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!

 しかも美咲には犬の首輪付けてリードも繋がってるし絶対変なプレイしてると思われたああああああああああああああああああああ!!!!!」


 両手で頭を抱え、両足を曲げ、あまりの恥ずかしさに、そしてあまりの気まずさにベッドの上で右へ左へ右往左往し、行ったり来たりして絶叫しながら悶絶する。


「別に、変なプレイは間違いじゃない」

「冷静な返答をどうもありがとうッ!!」


 俺は美咲の冷静な返答に怒気を強めて礼を言う。

 

 それにしても美咲のやつ、冷静すぎるだろ!!!


 そう思い美咲の表情を伺うが、どうやらちゃんと動揺しているようだ。

 先程とはまた別の意味で顔を真っ赤にしていた。


「はぁ……、そんな雰囲気じゃなくなったな……」

「ん、今日は無理だった。でも翔太と私は彼氏彼女。いつでも出来る」

「そうだな……」


 それに、今出来なくて良かったと思う。


 あのまま本番が始まっていたら、何故かは分からないけど、大事(おおごと)になっていた気がする……。

 それこそ俺たちの存在が抹消されるレベルで……。

 本当に、何故かは分からないけど……。


「はぁ……、それにしても美咲はドMの才能もあったんだな?」

「うん。それどころか、犬の真似させられた時、いつもより興奮した」

 

 俺の問いかけに、美咲は肯定する。

 どうやら美咲は、ドSよりドMの方が自分の性に合ってるようだ。

 

「俺は美咲に犬の真似させた時、メチャクチャゾクゾクした」

「翔太、ドSだったんだね。彼女に犬の真似させて、興奮するとか、翔太、変態」

「うるせぇ!!そんな事を言ったら美咲だって俺の事今まで犬にしてたんだから、美咲も変態だ!」

「そうだよ?私は変態だよ?」


 「え? 何今更気づいたの?」みたいなキョトンとした表情を俺に向ける。

 

 そうだった……。美咲は変態だった……。

 美咲のおかげで(せいで)俺の内に秘めたるドMとドSが開花した訳だしな。


「それ、外すか……」


 俺は目線で首輪とリールを指した。


「ん。取って」


 美咲が首を俺に差し出し、首輪を外すように言ってきた。

 俺はちょっと残念に思いながらも美咲に付いていた首輪と、首輪に繋がっていたリードを外す。


「ありがと」


 美咲が自分に付けられていた首輪とリードを手に持ち、お礼を述べる。


 はぁ、犬の美咲もっと見たかったな……。

 

 まぁ、先程美咲も言っていたが、俺たちは彼氏彼女だ。

 それに、どうやら美咲はドMの方が才能があるようなのでお願いしたらまたやってくれる事だろう。


 それにしても……、美咲と付き合いだした頃はまさか美咲がドSだとは思わなかったな。

 いや、付き合いだした後にドSに目覚めたみたいだが。

 そして今はドMだ。

 何ならドMの方が性に合ってるようだけども。


 そしてそれと同時に、まさか俺がドMの才能もドSの才能も掛け持ちしていたとは知らなかった……。

 美咲に犬の真似をさせられるのも悪くはなかったが、やはり美咲に犬の真似をさせた時の方がゾクゾクとした。

 だから、俺はおそらくドM属性よりドS属性の方が強い。


 そんな事を考えていると、美咲が俺の肩を「トントン」と後ろから人差し指で叩いてきた。


「どうしたの?」


 俺は美咲の方に振り返り、どうしたのか優しく聞く。

 美咲の手には犬の首輪とリードが持ってある。


「耳傾けて」


 どうやら俺に美咲は言いたいことがあるらしい。

 俺は美咲の言った通りに、耳を美咲の方に傾ける。


 そして小さく、だが確かに美咲はこう囁いた。

 





「また私の事、躾けてね。ご主人様」



                       完

 胡桃 瑠玖(くるみ るく)です。


 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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