元夢追い人の休憩時間
名前、荻原賢一。
年齢、三十五歳。
職業、フリーター。
特技、ギター。
夢、なし。
もう夢ではなくなってしまった。
それは霧散し、ただの言い訳へと成り下がっていた。
その言い訳も効力を失いつつある。
こんな人生も悪くない、と思うのも言い訳。言い訳への言い訳。
第三者から見れば素敵だろう。自分のことではないからそう思うのだろう。夢が無かった者や、夢を諦めた者からは少しだけ輝いてみれるのだろうが、その実、安心感も得ているに違いない。
夢を追い続ける言い訳があるのならば、夢を諦める言い訳もまた存在する。
諦めてよかった。
こうならなくてよかった。
平凡で普通な人生に切り替えて本当によかった。
自分に言い訳をし続けてきた俺は、いつからか人の言い訳になってしまった。
人ではなく概念として見られる。そこに人権はなく、切り傷だらけの優しさのみがある。
コンビニのアルバイト。将来性を感じられるか。無理だ。
休憩時間を過ごす今、このバイトを始めた頃は休憩なんて要らないから働かせて欲しい、その分の時給が欲しいと常に思っていた。
今は何も感じない。
死にたくはないが、生きていたくない。このまま、すぅっと消えて無くなりたい。
借金がある訳でもなく、親の介護に疲れている訳でもない。家賃が払えない程に困窮もしていないし、病気を患ってもいない。
生きる理由も無ければ、死ぬ理由すらも無い。
目標がないので粉骨砕身で労働に勤しもうとも思えない。
これが今一番ホットな言い訳。
休憩時間が終わる。
働きたくない。
しかしクビになりたくもない。
したい事がない。
今から出来る事など何一つ無い。
あるのは言い訳のみである。