楊と髙という狸たち③
「それはわかりましたが、いいのですか?大暴れしていますよ、彼ら。」
「だいじょーぶ。」
答える楊を振り返れば、楊の完全なピクニック準備に俺は呆れかえり、そんな俺の目先で髙は楊を手伝い始めている。
彼等がいそいそと紙袋から取り出しては並べられていくのは、大き目のサンドイッチケース二つとクッキングペーパーで包まれたらしき数個の丸いもの。
もしかしてマフィンか?カップケーキか?
それは楊、「お前」が焼いたのか?
「お前らがいいんだったらいいけどね。さっきのメールが着信してからの準備だよな。本気でお前らは何をしているの?」
「うん?向かいの事務所で葉山達が暴れちゃいますよって、メール。だから気兼ねなくランチができるかなぁって。」
楊は説明しながら紙袋からコーヒーが入っているだろう水筒、一リットルは入りそうな赤いチェック柄といういかにもピクニックな芝居がかったものを取り出した。
「酷いな、お前達。」
葉山達を肴にエアコンの効いた部屋でピクニックか。
それも、仕事中の俺の仕事場でかよ。
「若者を監督しないとね。」
紙コップにプラスチックの持ち手スタンドをつけている髙が作業しながら答えたが、用意している紙コップの数は四つであり、俺と玄人の分もあるのだなと気が付いたら、彼等の行為を少し受け入れてもいい気がしてきた。
「しょうがないじゃない。どうしても暴れたいってねだるんだもん。」
「ねー。」
悪い親父達は、悪い笑顔を交わし合う。
「あいつら気づいたっぽいからね、俺達は気にせずにやろうかってさ。」
「お前等の様子に気づいた葉山達が可哀相だな。」
髙は違いますと言うと、プーと吹き出しての大笑いだ。
「向かいのベランダだったら俺達は落ちていく人影に気づかないでしょ。たぶん事務所の直ぐ上の部屋だと思う。そこで撮影か売春行為を強要されての、自殺か転落だろうね。取り寄せた書類には上階がない図面でさ。証言した子が上に部屋があったって言い張るからね。外に出るドアの無い部屋がね。」
楊の言葉に相棒の髙があとを継いだ。
「そこに気づいたなら、僕達は彼らを気にせずに昼飯に堪能できるでしょ。」
「最初から教えてやればいいじゃないですか。」
二人仲良く、えー!、と同時に声を出して笑い声を上げた。
「いつ気がつくかも賭けの一つなのに、それは駄目でしょう。」
笑って言う髙に楊がにやついているが、なんて酷い上司だ、こいつらは。
「何を掛けているんだよ。」
「俺が勝ったから、俺は来週泊りがけでライブに行くんだ。」
「お前が負けたらどうして行けないんだ?ライブくらい勝手に行けばいいじゃないか。」
まぁ、刑事は普通の職場と違うからかな。
「誰が僕達夫婦のご飯を作ってくれるのです?来週妻の両親が来るんですよ!」
え?ただの飯炊き要員?仕事の能力は全くアテにされてないのか?
楊が新婚夫婦の飯まで面倒を見ていたと知って、可哀相を通り越して楊が哀れになった。
その可哀相な料理人、楊はサンドイッチケースを開けた。
そこには野菜とグリルした肉が色とりどりに挟まれた豪華なサンドウィッチがぎゅっと詰まっている。
作業着の腰の部分の布が突っ張ると思ったら玄人だ。
俺と目が合うと、物欲しそうに俺の服を掴んで「あれ、あれ。」と子供のように懇願し始めた。
「お前も俺達の荷物を持って来い。俺達も早い昼食にしよう。」
ぱぁっと華やいだ笑顔になると、玄人は部屋の隅の荷物に両腕をパタパタと上下させて、妖怪のような変な走り方をしながら向かって行った。
「キジムナー。」
楊の呟きに髙は寝転んでの大笑いだ。
笑われた玄人は頬を膨らませて、弁当バッグ片手に今度はゆっくり歩いて戻って来た。
バランスが悪いのか、片腕がちょっと開いてやっぱりパタパタ上下している。
「あ、違った。クリオネだよ。」
「あ、それか。俺も何かに似ているなって。」
「良純さんまで、酷いです!」
「やめて、二人ともやめて!」
不幸続きだったマンションは、いまやくだらない平和な笑いに包まれていた。




