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いいところなしな山口君

 いい所無し山口をも巻き込んだ「とある所轄での押収物横流し事件」は、主犯の田端正義たばたまさよし刑事の自供により幕を閉じた。

 彼は共犯者の吉田樹の実の兄であり、借金により離婚と再婚を繰り返していた。


 結婚により新たな戸籍を手に入れることで信用情報がクリアになることを利用して、新たな妻の親族を保証人にしては借金を繰り返していた模様である。

 押収物の横流しは借金苦によるものだと自白したらしい。


「藤枝は恋人のために整形までして潜入捜査って、凄い子だな。」


 良純和尚は藤枝に感嘆している。

 僕もそうだ。

 あんなに殺しても死ななそうな人が存在しているだけでも凄いことであり、僕は彼女を尊敬し、その存在に感激さえしているのだ。


 当事者だった山口が、今朝からの署内での事も話し出した。


「風間を振って海外エステして遊んで戻ったら風間が死んでいて、寝覚めが悪いから事件を調べていたと藤枝は俺達に言い張りました。時間軸がどうしても逆なのにね。」



「て、ゆうかさ。エステ前の顔だって嫌いじゃないし。ただちょーと痩せた方がいいかなーってエステ行っただけだもん。あたしが風間と付き合っていたのは刑事に昇格するためだからね。昇格するには推薦とかないとじゃん。」


 後頭部に小型の保冷剤をヘアバンドでくっ付けた藤枝は、佐藤と水野に威張り腐っていたそうだ。


「手柄は私のものだからね。肉体労働をご苦労さん。」


「なんだと?」

「待って。」


藤枝に向かおうとする水野を押さえたのは、現在水野の相棒の葉山であった。


「止めんなよ。女にはなぁ、やんなきゃ為らない時ってあるんだよ。」


 山口も水野を押さえに動こうとしたその時、課内で冷たいクスクス笑いが起こったという。

 それは、気立てがいいと評判の佐藤萌。


「いやだわ。手柄って自分で取るものよ。私がとっくの昔に報告書を提出しちゃったから、今更藤枝さんが書いても遅いと思う。」


「まじで。さすがさっちゃん。」


 大喜びする水野とは反対に、藤枝が怒りでプルプルと震え始めた。


「この糞女が!大体、そこの間抜けホモ野郎のせいで横流し先まで上げれなかったんじゃん。どうすんのよ。雑魚だけ潰しても意味無いだろ。」


 からかわれて弱りきっていた上に再び罵倒されて、山口は左手で傷ついた胸を押さえる事しか出来なかったという。


「棒切れよろしく転がっていた人が何をいうの?」


 親友の水野でさえ怯えさせてコロコロと笑う佐藤に、庇ってもらった感謝よりも一生彼女に逆らえない身の上になった自分の不甲斐なさを思い、山口はどこかで飛び降りたくなったそうだ。


「さっちゃんてカッコイイ。俺はそのブラック佐藤ちゃんが好きだね。」


「え?ブラック?私、ブラックだったの?」


 空気を読まない葉山の言葉に、なぜか涙目になった佐藤がフルフルと震え、他の皆が固まってしまったその時、髙がにこやかに入室して来た。


「お早う!あ、君達お手柄ご苦労さん。」


 彼はスタスタとモニター前に行くと、すぐさまリモコンを取り上げてスイッチを入れた。

 画面には刑事達には見慣れた暴力団の大きな事務所ビルが映っており、真面目な顔をしたレポーターがマイクを持って実況している。


「只今、山中組系暴力団の諫早組事務所を麻薬取締法違反にて家宅捜査が入りました。神奈川県内のみならず他県及び海外とも密輸販売の疑いがあり――。」


 テレビモニターには黒服でマスク着用の刑事達が大きなダンボールを次々と運び出していく姿や、一目でヤクザとわかる男性達が拘束され車に乗せられる映像が流れている。


「本部さん、凄いですね。」


 葉山がしみじみと呟いた。


「あれ、あのマスク。マッキーとかわさん?」


 水野が画面を指差したそこには、マスクを着用して中型ダンボールを運ぶ二人組が映っていた。


「そうね。あの目はかわさんだわ。」


「え、どうしてかわさんが?」


「かわさんの本部研修って、これでしたか?」


 各々勝手に喋り出しざわつき始めたそこに、フフフっと髙の嬉しそうな声だ。


「これ、うちのかみさんの手柄だからね。」


 周りが驚愕する中、髙はすました顔で語り始めた。


「いやー。藤枝ちゃんが元いた署で押収物横流しで自殺した奴がいたでしょ。書類見直したら不備多いからね。相棒の田端って奴?洗ったら諫早組に借金あるから、杏子ちゃんにあげるから調べてって渡したの。さすがにいい仕事したねぇ。」


「まじっすか?」




「すごいよ。あの藤枝が毒気を抜かれて呆然としていたからね。」


 僕は山口の説明に髙への尊敬の念が強まるばかりだ。

 産休後には警察組織の決まりとして今泉が他部署に移動になることを見越し、彼女が移動先で困ることの無いように花を持たせたそうなのである。

 って言えば聞こえが良いが、それって髙さんは絶対に自分は移動しないつもりってことだよね。

 僕はなんだか今泉が少しだけ可哀想だと思った。


「髙さんはね、田端だけ挙げたら刑事の汚職だけで誰もいい目が見れないから、大物を潰そうって今ちゃんをけしかけたんだって。今ちゃんの功績のお陰で佐藤と水野はちゃんと評価して貰えるみたいね。」


 田端だけだと「仲間に余計な事をした裏切り者」扱いを水野達がされる可能性も有ったのか。人間の組織って怖い。加瀬を参加させたのは、加瀬の手柄を奪って飛ばした男に「ささやかな仕返し」を上司としてしてやったのだそうだ。


「流したはずの新人が上の奴らと晴れ舞台を歩けたんだ。それを指咥えて見せ付けられた先輩とやらは悔しかっただろうな。」


 良純和尚は部下思いの髙と楊の行動に、かなりの賞賛らしき声をあげた。


「あいつら、底意地悪いものな。」


 え?賞賛じゃなかった?「ら」って髙さんも?彼は髙に何をされたのだろうか。


「皆凄いですよね。なんとなくで、事件解決しちゃって。僕なんか拉致られ縛られで、そのまま誰にも助けてもらえずに見捨てられてさ。」


 いい所無しの山口は愚痴をぶつぶつ言って、終には我が家のちゃぶ台につっぷしてしまった。

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