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呪いは返って来てこそ

「そんで、ちび。ニシキヘビが骸骨だったのはなぜなんだい?」


 急に楊が質問を僕に投げて来たので、僕は当たり前のことを返していた。


「彼が力を失ってしまったからです。」


「力がなくなると骸骨になるの?でも、どうして力がなくなったんだよ。」


「使っちゃいけない力を使ったからです。」


「あぁ、抽象的なことしか言わない奴らにイライラすると、百目鬼が吼えていた意味がわかったよ。」


 楊が不機嫌になってもろきゅうを齧り始めたので、僕は言い直しをせざるえなくなったようだが、どう言えばいいのかな。

 だって、山口の受け取り方で骸骨に見えただけで、それがどうしてそう見えたのかは、錦織が力を使い果たしてしまったという象徴のイメージでしか無いのだから。


「ちーび。」


「貯金が十億あります。利子で生活していてもかなり良い生活が出来ます。貯金が一杯あるのでそれを担保に借金もバンバンできます。それで満足していればいいのに、もっと大きい事がしたくて十億を投資してみました。そうしたら失敗して、スッテンテンになって、借金だけが残ってしまいましたとさ。十億を元手にした借金は、かなりの額の返済になると思わないかい?何もない奴には首をくくるしかないほどのさ。」


 良純和尚が子供でもわかるような言い方で説明してくれた。


「それで、蒼煌が使ったのは金じゃなくて能力なんだな。」


 錦織圭は使ってはいけない「呪い」を「僕に」使ったのだ。

 普通は相手を知らなければ呪いなど送れないが、ネットという誰とでも繋がる所であったからか彼は次々とターゲットと繋がって呪いも発動できたのだ。


 あの年で天主様と崇められるのはさぞ気分が良かったことだろう。

 返ってきた念を浄化する方法も自動化出来た彼は、きっとかなりの万能感に溢れ、依頼されたターゲットが僕である事を知った時には、僕を完全に潰すべく力全てを込めて僕に呪いを飛ばしたに違いない。


 だが、僕が青森で呪い流しの仕掛部屋を再稼動していたがために、蒼煌の呪いという能力は僕を襲うことなくその仕掛に全て流されてしまったのだ。


「えぇ、そんな部屋だったの?法事で話題になったちびが作ったっていうその部屋。俺も見たかったんだよね。」


 プロペラ飛行機に乗りたい少年のような心だけで青森まで来て、親族でもないのに他所の家の法事に参加していた男がぼやいた。


「意味わかんないだけの部屋だよ。床張りの中心に穴が開いているっていうだけの部屋。無駄に広い和式便所そのまんまだと想像すればわかりやすいかな。」


 その部屋の考案者の目の前で、便所、呼びですか。


「でもさ、呪いが帰って来ないならいいじゃないか。」


「呪術者には呪いが返って来る必要もあるのですよ。」


 呪術者に直接戻すのではなく、重なった悪意をそぎ落とす処置を施せば、経験地の高まった能力として「力」が戻るのだ。

 良純和尚が購入した部屋のあるマンションは、蒼煌の呪い返しの浄化場そのものだったのだ。


「錦織は僕に放った力が戻ってこない為に、それで能力が枯渇してしまったのです。マンションでの浄化も彼の力によって稼動していたので、浄化機能が稼動していない状態です。彼は悪意に塗れて戻ってきた自分の呪いに囲まれた状態だったのですよ。彼にできたのは、その浄化できない悪意をあのマンションに閉じ込めて堰き止めておく事だけでした。」


 蒼煌の仕掛けによりあのマンション自体が事故物件その物となったが、錦織の財力で隠していた。それは、かすかに力のある父親が息子の危険な行為と状態を、漠然とだが認識していたからに他ならない。


 だが、息子の行為を咎めれば息子は死に、放置すれば無関係の人々が不幸になるのだ。

 悪人でない彼がジレンマに苦しんでいた間に事態は悪化していき、当の息子は己自身の呪いに嵌って命の危機に陥っていたのだ。

 人に助けを求められない事情だからこそ、助け手を渇望していたことだろう。


 良純和尚はそこをついた。

 彼の物件を買い取らせた上に、蒼煌の不道徳行為による損害賠償金を布施の名目で支払わせたのである。

 僕達を霊感商法で訴えるにも蒼煌の方が新興宗教らしきセミナーの長だ。

 藪をつつくとヘビが出るのだ。


「お前らは金が入って万歳だけどね、これからも人死がそのマンションで起こるって事だろう?錦織が呪いを止めても今まで放った呪いが残っているならね。」


 僕と良純和尚は顔を合わせてフフフと笑いあった。

 すると僕達の邪魔をするように、不貞腐れて狸寝入りしていた山口がガバっと起き上がり、僕達を指さして叫んだのである。

 いや、僕達ではなく良純和尚を、か。


「何にも残っていないのに、そう錦織に思わせている外道ですよ。一切合財、ぜんぶ、この鬼が祓っちゃったんですよ。」


 楊はひゅう、っと口笛を吹いた。


「凄いな。じゃあさ、あのマンションはもう大丈夫なんだ。」


「大丈夫どころか、良純さんの力で、呪った者がいたら反射して呪った者に返ります。」


 僕が自慢すると、山口は不満を吐き出した。


「この二人は僕を騙して、騙された僕が錦織に接触したところで、僕と彼を二人いっぺんに潰したんですよ。」

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