白波の爺さんにお伺い
玄人の母方の祖父である白波周吉は白波酒造の会長であり、本拠地の新潟では白波神社を守る神主でもある。
神職は持っていないが、白波家は代々その神社の本尊である白ヘビ様が眠るという祠を守ってきた一族なのだ。
明治維新後の神社の整理によって、新たな神社の看板と神主一家が白波家の代りに国から派遣されたが、神主一家が悉く急死するに至って、神社の守り手は白波家に戻ったという。
「お酒だけ造ってお役ごめんをしたいのに。ウチは普通の家なんですがね。」
罰当たりな言葉を吐き、我が家は普通だと自称する白波家は、財界にも親戚多数がいるという、武本家よりも大きく旧い家柄でもある。
「ニシキヘビですか。困りましたねぇ。うちと合わないので通り過ぎるのを待つしかないですねぇ。」
周吉は玄人の祖父だけあって、何を言っているのか判らない事の方が多い。
俺は「わかっていたじゃないか、俺の馬鹿野郎!」と心の中で自分を罵りながら両目を閉じると、冷静を保つように自分に言い聞かせていた。
「此方で、殺人事件が頻発しておりましてね。玄人が巻き込まれたものもありまして。その上、警察署で錦織蒼煌という男と遭遇して玄人がおかしな行動を取ったと聞きました。あの子に何かあると困りますので、一体錦織が何かなのかだけでも教えていただけませんか?」
電話だとまだるっこしいと、直に会った方がいいのかと面倒だが言ってみた。
「私共がそちらに参った方がいいのでしょうか?」
玄人の安全が図れるのであれば、新潟だろうがヨーロッパだろうが、俺は行ってもかまわないぐらいなのだ。
「え?来る?いらしてくれるのはいつでも歓迎です。いらっしゃいです。でも、今回は動いちゃ駄目ですねぇ。ちゃんとその地で踏ん張ってちょうだい。」
このジジイ。
抽象的過ぎるんだよ!
以前は武本と白波が「オコジョ」と「白ヘビ」の家系だから合わないと俺に教えてくれたが、武本の祖母咲子によると、武本は血液がプラスで白波がマイナスだから「合わない」ということだった。
マイナスの女性がプラスの子を妊娠出産すると、次にプラスの子を妊娠した時に母子共に命の危険性があるのだそうだ。
何が、オコジョとヘビだ。
「すいません。もう少し具体的にお願いします。玄人が酷い目に合わないように私が出来る事はないのですか?」
「え?守れないの?君。」
「物理的なら俺は敵無しですよ。俺が言っているのは呪いの方で。」
敵無しの所でワハハと笑い飛ばされて、少々どころかかなりイラっとした。
「だから、今回は玄人への呪いはないから大丈夫ですって。ニシキヘビが重たい体をゆっくり引き摺っているだけですよ。そして、ニシキヘビって馬鹿で大食漢だから目の前のものを何でも飲み込んじゃうってだけ。玄人に任せておけば大丈夫。心配ならユキかクミを使います?あの馬鹿者達は喜んで駆け付けますよ。」
玄人の七歳年上の従兄弟の白波久美と佐藤由貴が現れたら、反射的に玄人が逃げる。
余計にややこしくなりそうだ。
玄人は色々どころか、散々と彼らに遊ばれた記憶が体に染み込んでいるらしい。特に幼少時代に新潟の有名な長岡の花火大会に連れて行かれて、子守に厭きた二人に迷子センターに置いてきぼりにされたことが一番のトラウマなのだそうだ。
そりゃ、捕まえられないように逃げるよな。
「いえ、今回は結構です。判りました。腹を括ります。」
使えない玄人の祖父との通話を切って、俺は武本方の祖母の方に期待する事にした。




