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僕の本当の姿

 髙は僕を良純和尚の新車の方へ連れて行ってくれたが、僕がすぐに車に駆けよることのないようになのか、軽く腕を押さえられた。


「あの、えっと。」


「邪魔者は少し離れているから。何かあったら大声を出すかこれを使いなさい。」


 僕は髙が背広の内ポケットに手を入れたそこで、嬉しさに両手を差し出したのだが、僕の手に彼が乗せたのは変哲はあるが普通の防犯ブザーであった。


「なぜ、この様なものを持ち歩いておられるのですか?」


 僕の喋り方が硬くなったのは仕方がない。

 僕が以前に彼から手渡されたものは、防犯ブザー型のスタンガンだったのだ。

 僕は手の中にあるスタンガンじゃないそれにがっかりとした上に、その形状に異世界に来たような感覚に陥ってしまっていたのである。

 髙が僕に渡した防犯ベルは、それはそれはファンシーな猫の顔の形をしたものだったのだ。


「可愛いから、つい、ね。」


 ハハっと照れ臭そうに笑う彼は、可愛い物好きでもあったらしい。

 可相想は可愛そうとも書くしなぁと、そそくさと良純和尚の新車から離れた髙を見送ると、僕は防犯ベルをポケットに片付けながら車内の山口に目を向けた。


 車内の山口は片腕を目の上の乗せて顔の半分以上も見えないが、真っ青な顔をしている事は判った。

 もしかして、僕が死んだ後に幽霊となった僕を彼が見つけたら、彼はこんなになってしまうのかもしれない。

 そうしたら彼に何も出来なくなった自分は、一体どうすればいいのだろう。

 何か出来るとわかっている今でさえ、山口の青い顔は辛いのに。


 山口の頭の方からドアを開けて、手を伸ばして彼の胸にそっと手を乗せた。

 彼はその手をそっと掴み、僕の腕に頭を添えた。


 あぁ、彼は温かく鼓動を打っている。


 そうしているうちに、山口に纏わり付いている黒いものがヘビのようにスルスルと僕の腕に巻きつき、腕からもっと上へ上へと昇って僕の体にも巻きついて、終には僕を真っ黒に染めていった。

 彼が真っ黒なものに覆われていたのは、死体発見という穢れを負ったからではなく、山口自身が負のエネルギーを生み出しているからに他ならない。


 自家中毒のようなものだろう。

 他者の苦しみを受け入れすぎて、同調して同じように苦しんでしまうのだ。


 以前は黒いものやかすかな幽霊の存在が見えるだけの人だったのに、僕と付き合うようになって、死者の叫びを僕を通さずとも受け取れるようになってしまったのか。

 僕が受け流すそれらを彼は全てスポンジのように吸収してしまい、そうして許容量を超えると彼は潰れてしまうのだろう。


 胸においていた僕の手を掴む力が急にガシっと強くなり、気づいた時には、怒りに満ちた山口の顔が僕の目の前に迫っていた。


「もう大丈夫ですね。」


「クロトが大丈夫じゃないだろう。」


 彼の声は怒りで震えていた。


「大丈夫です。僕は死神なのですから。いい加減、僕が気味の悪い人間だと受け入れてくださいよ。」


 僕は人の見えないものが見える。

 呪いを使う事ができる。

 武本家の使い魔を使う事ができる。

 そして、インブリードしすぎの壊れた体だ。


 それなのに、いつまでも山口がその事実を受け入れないのは、良純和尚が僕を気味の悪い生き物と認めたうえで傍に置いているのと違い、彼は僕を綺麗な生き物と思い込んでいるから、いや、思い込もうとしているからなのだろうか。


「僕は大丈夫なのです。気味の悪い生き物だから。呪いを纏う事も簡単に捨て去る事も出来る。見ていて。」


 僕は山口に分かる様に目の前で纏った黒い淀みを地面に落とした。

 落としたものは蛇のようにしゅるっと地面に吸い込まれて、消えた。


「以前はこんなことは出来なかったよね。百目鬼さんに読経してもらわないと祓えなかったよね。」


 僕が変わったことを強調するが、僕は変わっていないのだ。

 記憶を取り戻しただけだ。

 僕はよってたかってプールの底に同級生達に沈められて殺された。

 その日以来記憶を失い、母の死を受け入れることで記憶は戻り、青森に帰って「呪い返しの部屋」にて祖父である武本蔵人に遭遇し、そして全ての自分を取り戻したのである。


 僕は黄泉平坂の生き物だ。

 変容どころではない。

 そのままだったのだ。


「淳平君、君が見た錦織の姿は、僕の本当の姿でもあるのですよ。」

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