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デエトのようなアルバイト

 山口は和尚の黒スーツを着込み、僕も黒スーツ姿だ。

 僕の方は女性用だが。

 そして、久しぶりに良純和尚に徹底的に女性の姿に仕上げられた僕は、山口と共に住宅展示場にいる。


 僕は良純和尚に身売りされたのだ。


 僕にアンズをくれたモルモット妖怪浜田善行は、モルモット屋さんではなく、良純和尚をも潰そうとしたことのある大手の不動産会社の社長さんだ。

 そんな彼の会社は新築物件も仲介している。

 僕は彼の口利きで建設会社の住宅展示場に短期で雇われ、販売契約に漕ぎ着ければボーナスも貰えるという、その道の人ならば実はおいしい仕事場に居る。


 僕はその道の人では無いし、対人恐怖症なので嫌だと言ったのに。


「僕は子供も幸せカップルも定年後の第二の人生組も嫌いです。」

「早い話が人嫌いだって言っとけ。」

「人嫌いです。」


「克服しろ。ニシキヘビを克服するのは嫌なんだろ。お前が出来るのはどっちだ?俺の手伝いか?客引きか?」


 そうして僕は父親に売られたのだ。

 だが、子供思いの父親は、ちゃんと山口というお守りを僕に付けてくれたと、そういうわけだ。


「大丈夫だよ。僕がついているし、こうして仕事だけど一緒に働けるなんて。デートの次に楽しいかもしれないね。」


 うん、最近の二人は出会えば失敗ばかりだったものね。


「それで、クロトと僕は何をするのかな?」


「この展示場に来たお客様を案内して、今度新築される住宅街の建売の契約を迫るのです。僕達が案内するのはAとDの建物ですね。」


 山口に資料を渡す。


「他は?」


「AとDの建物が今回案内する建築会社のモノなんですよ。他の家より良く見せて、悪いところはごまかして、その新築が並び立つ住宅街に住んだらどうかって、誑しこむのです。」


 山口は「たらしこむ?」とクスクスと笑った。

 僕と二人きりなので、彼の浮かべる笑顔は仕事用のスマイルマークでは無くて、柔らかく自然風な笑顔だ。

 なぜか金粉が舞っているかのように錯覚するほどのきらきら輝く王子様風のこの笑顔は、僕を虜にしようと狙っている時によく使うが、僕は彼の少年のように見える本当に自然な笑顔の方が好きだ。


 そしてその笑顔は楊や良純和尚にからかわれた時にしか浮かべないと気付いたら、僕の胸の奥にチクリと何かが刺さった気がしたが、僕はそれを隠して山口に説明を続けた。


「その笑顔です。淳平君の魅力を出して出してくださいね。淳平君が奥様を落とし、僕が旦那を落すのです。」


「えぇー。クロト、黒いよ。家は一生の買い物でしょ。無理矢理は申し訳ないじゃない。」


 性格が良く優しい山口は、自分が住みたいわけではない家を他人に売りつける事にしり込みをし始めた。


「あ、そうだ。今日の僕は山口姓ですからね。僕は淳くんと呼ぶので、淳平君は僕をくーちゃんで。いいですね。貧乏夫婦が憧れの家を手に入れるために憧れの家を売っている。そのシナリオで行きます。」


 山口は僕の手をがしっと両手で包むように握りしめた。


「頑張るよ。」


 どうやらエンジンがかかったようだ。

 さすが良純和尚。

 彼は前日の建設会社の担当者からの物件概要や客引きの仕事内容を話し合うや、一晩にて僕用にマニュアルを作り上げたのだ。

 彼はマニュアル作りが実に大好きな人だ。


 そんな彼が用意した台本があることを山口に悟られる前に、僕は受付に移動した。

 最初のカモは結婚式間近の入籍したばかりの新婚夫婦で、伊藤と彼らは僕達に名乗った。

 妻の方は家よりも結婚式場の花やドレスの方が気がかりなようで、夫の方も高い買い物に気が向いていない。

 家が欲しくないのにどうしてここにいるのだろうか。


「まずはご結婚オメデトウございます。私達は披露宴も出来なかったので、伊藤様のドレスやお花のお話は羨ましいですね。」


「あら、式を挙げていらっしゃらないの?」


 ふふっと笑い、事情がありまして、と良純作の台本どおりに答える。


「せめて、子供にはお家だけはちゃんとしたものをと働くだけです。この会社のキッチンはメーカーの高級品を使っておりますし、水周りの蛇口などもイタリアの職人のデザインなんですよ。」


 良純和尚のマニュアルは本気で使えるなぁと思いながら、客を二階へと案内しようと階段に足をかけたところで、僕は足を止めるしかなくなった。


「いっけない。先にお風呂場を見ていただかないと。大理石のお風呂は説明に飽きの来ない今のうちじゃないといけませんね!」


 伊藤夫婦は微笑んで、僕は彼らが階段から離れて風呂場へと向きを変える様に促すと、夫婦の数歩後ろにでくの坊よろしく立っていただけの男を手招きした。


「淳君、ちょっと。」


 マニュアル通りに喋り振舞う僕に違和感と不信感を持ち始めた山口は、僕に片眉をあげて見せたが、それでも僕の方にさっと来た。


「淳平君。二階に僕が見えたものが本当にあるか確認してくれる?」


 彼は僕に触れて「うそ。」と小声で叫ぶと、さっと二階へと向かってくれた。

 僕は伊藤夫妻に振り返った。


「お風呂場が終わったら。もう一つのお家の方へ行きましょう。造りは大体同じなんですが、あちらの方が窓からの景色が良いので、予定地に一番近い雰囲気を堪能できると思います。」

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