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どうしてそこで君に会う?

 この人は頭が悪いのか?


「それって、僕が別れると言わない限り淳平君は僕のものって認めているのと一緒だよね。僕に全ての選択権があるってこと?」


 僕の言葉に見るからにかっとなったらしき今塚は、再び僕を殴ろうと葉山の腕の中で暴れだすが、葉山にがっちりと腕と肩を掴まれていた。


「クロ、煽らないでよ。」

「だって。」


 葉山は大きく溜息をついてから、今塚を引き摺っていった。


「待ってください。僕も行きます!」


 加瀬が葉山の後を追いかけていった。

 葉山には嫌われたかなと、僕は戸口まで出て彼らの後ろ姿を見送っていたのだが、横に現れた誰かの気配に気づいて顔を向けたら山口だった。

 そして、久しぶりの彼はやっぱり馬鹿だった。


「ごめんクロト!愛している。お願いだから僕を見捨てないで!」


 おもむろに土下座して僕に懇願し始めたのだ。

 両目に涙を浮かべながら。

 どうした?


「淳平君、ご飯が作れないくらい大丈夫ですよ。僕達にはかわちゃんや良純さんがいますから。二人にブラ下がって僕達は仲良くしていけばいいんです。」


「違う。クロト、それ、違う。」


 僕は素晴らしい提案をしたと思ったが、山口はプルプルと首を振って否定しかしない。何が違うのだろうと僕の姐さんたちを見返せば、彼女達は僕を叱りつけて来たのである。


「駄目でしょ、クロ。」

「お前。ちょっと頭沸きすぎ。」

「クロトサイテー。」


「えぇ!僕のどこが悪いの!悪いのは淳平君でしょう。ねぇ、そうだよね。淳平君どうしたの?ねぇ、君はいつもと違うよ。」


 山口は金魚のように口をパクパクさせていたが口を閉じ、ごくりとつばを飲み込んで思いつめた表情になると、僕の顔をじっと見つめた。涙目で。

 だから、どうしたって。

 僕は良純和尚の子供になる前から堪え性がなく、僕よりも堪え性がない良純和尚に似たわけではない。それで、かなり山口の様子にイライラしてきたのだ。ここの応援団は煩いし、楊が昔使っていた小会議室か、今泉に以前連れ込まれた小部屋に行こう。


「場所を変えよう。」


 山口の返事も待たずに、僕はフイっと部屋を出た。

 後ろに山口の存在を感じながら、どの部屋にしようかと歩き出した僕の目の前に、会いたくもない人間が立っていた。


 厳密には僕が彼を知っていた訳もないし、彼が僕を知っていた筈はない。


 ただ、僕達は双子のように出会えばお互いに気づくだろうってだけだ。


 僕は瞬間的に自分の霊的なレーダーの類を全部一斉に停止し、ただの無能力な人としてやり過ごそうとした。

 しかし、僕に気付いた彼は僕に向き直り、そして見下すような笑顔を浮かべたのである。


 僕と同じくらいの年齢の彼の背は高く、仕立ての良いオーダーメイドスーツを着込み、イギリスの寄宿舎を出たばかりの青年のようなオーラを纏っていた。

 ただし、美青年だが目の前の青年は山口の好みでは無いと瞬時に分かった。


 なぜだろう。

 さっきの今塚よりも顔立ちは整っているのに、彼は違うと言い切れるのだ。


「初めまして。僕は錦織にしきおり蒼煌そうせい。君の名前を教えてくれるかな。」


「申し訳ありません。紹介者の無い方に、僕は名乗る事を禁止されています。」


 僕は答えるや踵を返し、山口さえも近寄らせない勢いで真っ直ぐに、一心不乱に前を見て進んだ。


 あれに遭っちゃった、やばい、と。


 僕は結局楊の犯罪対策課に戻って来てしまっており、部屋に入ろうか逡巡した僕に山口が追いついてきた。

 彼は先程の捨てられたばかりの犬の表情ではなく、刑事の目つきで恋人を心配している表情を顔に貼り付けている。


「あれは、何?」


 そうだろうとも。

 彼は僕と同じ見える人だ。

 あの男を見て彼が何事も感じないことはありえないのだ。


「あれは、僕の敵です。」


「それならば俺が潰そうか?」


 先程まで情けない風体をさらしていた男は、凄みを滲ませた笑顔で僕の耳元に囁いた。

 あろうことか、僕の耳たぶに吐息をかけて僕をぞくりとさせながら。

 僕は反射的に彼に囁かれた左耳を左手で隠して、僕の下僕のように振舞いながらも僕を攻略しようと企んでいた男を軽く睨んだ。


「潰せませんよ。潰してはいけない相手です。彼も僕を潰しませんから心配しないで。僕の体に流れる母方の血が白ヘビであるならば、あちらはニシキヘビなのです。」


 似ているからこそ、余計な事をしてはいけない相手なのだ。

 そして、全く似ている僕達はドッペルゲンガーのようなものでもある。

 出会えば双方が死ぬ。

 あるいは片方だけか?

 僕達は知らない振りをしていかないといけないのだ。


「あれの姿は死神だった。本当に大丈夫なの?」


 山口が僕よりも彼に先に会っていれば、僕の姿がそのように見えただろう。


「死神なんかじゃないですよ。彼は生かすほうの神です。」


 死神こそ僕の方なのは、そこだけは絶対に変わらない。

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