そうして俺の物件は事故物となった
髙の呼んだ鑑識班により、俺の物件ドア前にはキープアウトの黄色いテープが貼られ、室内ではそこかしこで写真が撮られ証拠を採取され、ハチの巣をつついたような大騒ぎとなった。
鑑識の主任らしき男は室内に入った途端に顔を歪め、「やばい!」と叫んでトイレに駆け込んだので、この現場は相当なものなのだろう。
俺にはただの汚れて面倒な物件のひとつでしかないのだが。
「だからさぁ、お前の物件てこんなものばっかり。それ以上に、余りにも変な物件は警察に連絡しようよ。」
実験テイク四までやって、ようやく成功したらしき男がぼやき声をあげた。
「俺は警察じゃないんでね。こんな気味が悪いものは悪いものってだけで、事件性なんか知るか、バーカ。」
髙に犯人扱いされてやさぐれている俺は、一先ず髙の相棒の楊に当たってみた。
楊は営業スマイルをすっと消し去ると、右手の人差し指で俺の胸をどすっと突いた。
「お前は以前に事件性あるの知っていて黙っていたじゃねぇか。いい加減にしねぇとしょっ引くぞ。営業停止食らわすぞ。」
「おら、やってみろよ。今のは暴行罪で訴えられるって知ってんだろ?おら、暴力警官。監査に訴えてやんぞ、こら。」
「おお、やってみろよ。俺だってやんぞ、こら。」
「もういい加減にして。僕が悪かったから。」
髙が疲れたような声を出して、俺と楊の間に割り込んできた。
それは疲れるだろう。
山口が俺が英明を殺したと思い込んでいたのは、俺の血まみれの過去映像と捜査により英明が玄人を殺害しようと試みた奴の子飼いだった事実を知っていたからだ。
俺と玄人の青森帰郷中に、山口は俺からの頼まれ仕事をして、英明の身元を洗っていたらしい。
それであの馬鹿は、俺があの死体を吊るす事で影の奴らに「みせしめ」をしたと思い込んでいたのだ。
死体を吊るして見せしめって、畑の烏対策かよ。
俺の釈明を聞いた後に山口を呼んで確認して、「俺は違う」と髙は謝ってきた。
山口って有能なのに馬鹿だなぁ。
「すいませんねぇ。下手に疑われて神経がささくれちゃったようですね。いやー誤解されるって辛いですねぇ。今日は玄人と世田谷に帰って親子水入らずで語り合おうかなぁ。」
ドンっと膝を付く音がして見下すと、土下座した馬鹿がいて、頭を床に押し付けた姿で謝り始めたのである。
「すいません。すいませんでした。頼みます。玄人には今回の件を黙っていてください。勝手に覗いた映像で百目鬼さんを疑っていたなんて知れたら、俺は、俺は。」
「切られるね。」
答えたのは俺でなく楊だった。
「ちびの凄い所は大事な相手の事なら、そいつが何をしていても黙って道連れになるところだよ。本当に百目鬼が犯罪者でも、ちびは裏切るよりはと黙っているね。今回の事で結果として百目鬼を裏切った事になると考えたら、ちびは物凄く落ち込むだろうなぁ。」
楊め。
山口に注意しながら俺に釘を刺しやがった。
こいつは若くして課長になるだけあるのだ。
いつも人に囲まれて信頼され、纏める事ができるのには訳がある。
楊に山口への報復の制限を受けた俺は、大きく、山口を怯えさせるためだけに舌打ちをした。
「すいませんでした!」
「うるせぇよ。反省したなら良いけどよ。俺の事ならまずは俺に確認するか相談して欲しいね。これからは、よ。」
何も言葉を返さなかったが、山口は土下座のままさらに頭を深く下げた。
「まぁ、それはもういい。それよりも聞きたいんだが、お前は玄人が車をぶつけられた時にはいなかったよな。見舞いにも、家にさえ帰って来なかったけどよ、どこへ行っていた?」
蒼白な顔をガバっと上げた山口は失語症に陥ったのか、金魚のように口をパクパクさせている。
俺はさらに彼に近づき、事と次第ではと、山口の襟首に手を伸ばした。
その手は楊が軽く押さえた。
「百目鬼。悪いけど、前の持ち主の身元洗いたいから、こっちで詳しく話しを聞かせて。山口は、この壁の被害者と思われる事件ファイルを探しておいて。」
山口は楊の指示を受けるやドロンという言葉がふさわしい勢いで署に戻って行き、山口の教官だった筈の髙はいつものように肩を竦めて、山口の動向について俺におどけてごまかすだけだった。
「ふざけやがって。」
うちの子にするには、やはり山口はふさわしくない。




