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口に出して言ってくれ

「だから、何です?」


「いやぁ。こんな精神的にやばい所に連れ込んだらあの子の精神がボロボロになるからって、かわさんに預けたのかと思いましたよ。」


 髙も勘違いしていたようだ。


「あいつはあなたが思っているよりは図太いですよ。こんな部屋の掃除にあいつが耐えられたから、俺はあいつが鬱の時でも使っていたのですよ。あいつはきっちりと仕事をするし、こんな部屋の住人の毒も上手にかわします。あの子は人の死が見えて可哀相だとあなたは以前に言っていましたが、人の死がよく見えるからこそ、よく見えない山口よりも上手にかわす事が出来るのでしょうね。」


 俺の傍らで髙が大きな溜息をつき、俺も溜息をつきたいくらいにこの会話がそろそろ面倒になってきていた。


「単刀直入に聞きたい事を口にしたら如何です。山口が何かを言ったのか、別の情報源からなのか知りませんが、あなたは俺に聞きたいはずだ。今回の殺人の実行犯ですか?と。」


 俺が髙に振り返ったが、彼は感情の片鱗が見えない公安時代の顔になっていた。


「あなたも玄人君も嘘をつきませんよね。つけないのかな。玄人君はそれで失敗してしまうが、あなたはとても上手に情報を出し入れしている。嘘をつかずに人を騙せるのは素晴らしい。かわさんなんか、あんなにも嘘をついても誰も騙せていない。」


「俺は騙されていますよ。あいつを信頼できるいい奴だって思い込んでいます。だが、あいつは残酷だ。己がために状況を利用する事も出来る。そしてそれを知っている俺はあいつを警戒するべきであるのに、間抜けにも懐を開いて信じきっている。」


「え?」


 髙が意図した俺の返答でなかったのか、髙は豆鉄砲をくらった鳩の顔つきだ。


「どうされました?」


「いえ、かわさんがそんなに腹黒だと言い切る人に初めて会いましたから。嘘。えぇ?かわさんが?あのかわさんの話ですよね。」


「先に楊が嘘吐きだって言ったのはあなたでしょうよ。俺はあいつに何も言っていないがあいつは知っていて、俺に知らないフリをし切っていたなんて良くある事ですよ。俺に事件の情報を洩らすが、それで俺から情報を引き出すか、あるいはそれ以上を探られないための餌だ。あいつは泣き言を唱えるが、あいつの本当の慟哭なんか俺にさらけださないでしょうね。あいつが苦しんでいたとしても、それに気づいてやろうにも、俺もクロも共感力がないですから。慰めて欲しいなら口に出すしかないですよ。」


 髙はハハハと軽く笑うと、俺の意図を知っているという顔つきをして俺を見返した。


「あなたは正直者の嘘吐きだ。敢えてかわさんを悪く言っておいて、そして友人思いの自分を演じ、最終的にあなたを責めたらかわさんが苦しむだろうとまで僕に思わせた。これは、あなたを追求するなという僕に釘を刺しているのですね。」


「いえ、あなたが楊が誰も騙せない間抜けのように言うから違うと言っただけです。聞きたい事があるのならば聞いてくださいよ。俺達は察せないから言葉に出して欲しいって話ですから。」


「え?」


 再び呆けてしまった髙を前にして、話が進まないと俺はとうとう切れたのだと思う。

 まだまだ未熟者の俺は、玄人よりも堪え性がないときもあるのだ。


「俺が殺人を実行する利益があるかどうか、で考えて見たら如何です?武本物産の当主の父にして相談役となった俺が、過去の、それも恩師で父とまでなってくれた男から「無視」を言いつけられた相手を害する利はあるのか。大体、俺が本当にやるのならばあんなデモンストレーション何てしませんよ。馬鹿馬鹿しい。死体ぐらい綺麗に隠します。」


 そこで髙が急にむせたような素振りを見せた。

 そして、二三度深呼吸をしてから、髙は真面目腐った表情を作って、俺を凄む目つきで見つめ返したのである。


「山口があなたが英明を血まみれにしていた姿が見えたと言っていましてね。」


 山口には人の過去は見えない。

 山口が見たといったものは、恐らく玄人が見えたものだろう。

 山口は玄人の体に触れる事で、玄人が見たものを知る事ができるのだ。

 玄人は見えていたのか、血まみれの俺の姿が。


「しましたよ。俊明和尚の生前に。俺は未熟者で、その頃は攻撃力だけが有り余っていましたからね、目の前の障害物は潰しました。俊明和尚がその現場を見て、一緒に彼らをトラックに乗せて病院に運んだのですよ。そして、彼に纏わりつく英明の身上を聞かされ、以後、彼の言葉を守って英明を無視し続けていたのです。」


 これ以上言っても疑うならば仕方がないと、髙の返事も聞かずに俺は壁に再び向いた。


「そろそろ仕事に戻りたいのですがいいですか?この時間のかかりそうな、コレを今すぐにでも手を付けてしまいたいのですよ。」


「駄目です。この壁は保存しなければ!」


「あなたは可哀相好きだけではなく、気味の悪いもの好きでしたか?」


「何を言っているのですか。これ、犯罪の証拠です。」


 異常者が作り上げた壁は、殺人の記録に他ならないと刑事には見えるそうだ。

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