価値観の違いはやっぱり重要だ
「藤枝さんは凄いですよね。生き生きしていると言うか。あそこまで自分に自信が持てるって、生きる力が強いんだなって、僕は尊敬しますね。」
「まぁ、彼女は美人だからね。」
僕の首は悪魔に乗り移られた時のようにグリンと葉山の方に回った。
首の骨が折れたら葉山のせいだ。
そして、葉山は僕の呆然としている顔に驚いている。
「俺、なんか変なことを言った?」
「いえ。誰だって好みがあるし。そうか、あんなに美人なさっちゃんに心揺らがないのはなぜか、僕はなんとなくわかりました。」
葉山には常人の平均的な美的センスがそもそもなかったのだと納得した僕の言葉に、葉山が心外だという風に眉根を寄せた。
「藤枝は普通に人形みたいな美人でしょ。」
美的感覚は誰もが違ってそれが良いのだ、きっと、だが僕は少しむっとした。
葉山は僕の顔がドストライクで、人形みたいで綺麗だから大好きだと僕に告白した男なのである。
「藤枝があなたにとって美女ならば、僕を二度と綺麗だと言わないで下さい。僕は失敗したクレオパトラじゃありませんから。」
僕はすくっと立ち上がり、ビデオを回す水野の傍に行った。
水野は裏方に徹するつもりか、Tシャツにデニムのつなぎにスニーカーだ。
なんてフリーダムな人だろう。
そして、楊の課において姐御肌な彼女は、僕の一番の安全地帯だ。
水野はビデオを止めて、楊と勲隊長がサンドバッグを補修して重さを量りなおしている所を眺めていた。
佐藤は軽自動車のバックハッチに座って一休みをしている。
今日の彼女はサンドベージュ色のキュロットスーツであったが、暑さのために上着を脱いでいる今は、白のフレンチスリーブのシャツとキュロット姿だ。
ここからでも佐藤の足の綺麗さが良くわかり、オレンジ隊員達は独身既婚を問わず、彼女に熱い目線を送っているではないか。
「オレンジ隊員達は正常ですね。」
「急に何を言い出すの?」
「だって、普通にさっちゃんの綺麗さに目を奪われているじゃないですか。友君がなびかなかったのは、彼の美的感覚がおかしいからでした。僕は友君にはガッカリです。」
水野はビデオを抱きしめたそのまま、しゃがみ込んで笑いの発作に耐えている。
「もう、クロってば変な子ね。イマ、今、私は仕事中だからさ。ハハっ。」
「何を笑っているの。俺はそんな変な事を言った?普通に藤枝は美形だって言っただけで、好きとか嫌いなんて言っていないよね。」
寂しがり野郎の葉山が、僕達の傍に移動してきたのである。
僕は言うべきことを言わねばと決意した。
「そこがおかしいんですって。みっちゃんやさっちゃんの美女っぷりに美人慣れするのはわかりますが、美人判定の基準が低くなるってどういうことですか。僕はこの間の飲み会での藤枝とみっちゃん達の姿が、キャットファイトどころか山猫対豆狸にしか見えませんでしたもの。」
水野が立ち上がるや、バシッと僕の後頭部を叩いた。
僕は怪我人なのに、流石最強自由人。
「誰が狸よ。悪かったわね。」
「あれ?狸は普通に藤枝でしょう。丸顔に丸く大きい目で。でも、離れた目よりも大きな黒いラインが引いてあって、僕はどうしてあんな化粧をするのかずっと不思議なんですよ。そのままならば愛嬌があって人好きのするいい顔なのに、あんな化粧で台無しにしてって。女の人ってやっぱり不思議です。」
水野がブフっと吹き出してぐるっと僕に背を向けてしまったが、激しく肩を震わせているところからかなりの笑いに耐えているようだ。
「ちょっと、それ、本当?」
葉山が挙動不審に聞き返してきて、スマートフォンの画像を僕に見せた。
「誰ですか?コレ。人形みたいな顔していますね。髪型が藤枝そっく……。」
僕はハっと口元を自分の両手で押さえて、しまった、と後悔した。
僕は勝手に人の内緒を大声で叫んで回っていたなんて。
でも、どうして僕には整形後の顔が見えないのだろう。
僕が自分にうんざりしてる脇で、人でなしだった相棒ペアが膝を折って笑いにむせていた。
ごめんなさい、藤枝さん、僕はなんてお喋りな馬鹿なのだ。
「おい、水野と葉山。何を遊んでいるんだ。実験を再始動するぞ!テイクツーでーす。」
楊の号令で涙目の水野がカメラを構えなおし、葉山はニヤニヤ顔でその脇に体育座りをすると、ぐいっと僕を引っ張って彼の隣に座らせたのである。
今度はサンドバックをポール傍に落としてから車をスタートさせた。
ロープは車によって引っ張られ、サンドバックは上昇し、……途中でロープが切れて、サンドバッグは地面に思いっきり落下した。
「だから、強度計算くらいしようよ!」
僕はやっぱりお喋りな男だった。




