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強度計算とかさ?

 相模原東署から近く、小さな署でありながらレスキュー隊が常駐するこの消防署は、他署のオレンジ隊が訓練に遠征して来るほどに訓練設備が整っているそうだ。

 楊はここのグラウンドにある訓練用ポールに、葉山の提案した方法で死体を吊るせるかの実験をしようというのである。


「良い子の皆さん。注目!殺人現場に何の証拠も目撃証言もありませんが、車を愛する僕と葉山巡査部長の協議により、実験には水野の軽自動車を使用します。彼女の車には被害者と同じ身長に同じ体重の手作りサンドバックを乗せてあります。運転手は我が隊の一押し、佐藤巡査様です!」


 首どころかくびれも無い、単なる砂詰めされただけの二体の巨大な豆腐は、真ん中をロープで固く縛られていた。

 車の後部に乗せられたその白いサンドバッグを縛ったロープは、ポールのサンドバッグをぶら下げる位置となる足場にそれぞれ引っ掛けられ、足場を通った先は車に縛り付けられている。


 単純な方法だ。


 車が前に行けばロープは引っ張られ、ポールに引っ掛けられた場所に向かってサンドバックが吊るされていくだけである。

 楊の従兄弟の佐藤勲さとういさむ小隊長と部下隊員の皆様が訓練用ポールの心配をする中、実験は楊の号令によって開始された。


「では、佐藤巡査、お願いします!」


 車が前に行くと、ドンとサンドバックが地面に落ちて、破れた。


「破れたね。」

「破れちゃったね。」


 楊と小隊長は「やっぱりね。」「死体じゃないしね。」と言いあっている。

 小隊長の勲は楊よりも輪郭が四角いが口元はそっくりで、そこは楊の父方の血を思わせる。

 目鼻も楊よりも硬い感じで、頼りがいのある隊長にふさわしい。


 だが、彼ら二人は性格が似てそうだ。


「死体でもサンドバックでも、ポールまで地面を引き摺られる摩擦力の計算はしてありますか?摩擦力と死体を引き上げる力と考慮して、ロープを引っ掛けた場所の強度計算もしましたか?」


 相談しているらしき二人に、ちょっと以前に理工学部だった人間ぽく口を挟んでみた。

 二人はゆっくりと僕を見返して、何事もなかったように「ポールの傍に死体を置こうか。」と相談しあって僕を完全無視した。


 酷いな。


 ここに鑑識の宮辺みやべ壮大そうた主任がいれば、強度計算どころか、この実験が有益かそうでないかぐらい実行前に言うであろうに。


 宮辺はどこにでもいる外見をしているが、中身がどこにもいないと評判の人間だ。

 鑑識のブラッドハウンドとさえ呼ばれている。

 天才肌のためか彼はあまり人を寄せ付けない人といわれているが、実際は気さくで優しい人であり、僕は大学の勉強を彼に教えてもらった経緯もあり、今も彼に優しくしてもらえるのだ。

 僕の青森からのお土産に、涙を流して喜んでくれたのは彼くらいだ。


「ねぇ、かわちゃん。壮ちゃんは何て言っていたの?彼に現場を見せれば何が起きたか一目でわかるから実験は必要ないでしょう。」


 楊は先程と同じちらりと僕を見ただけで、先程と同じように勲に注意を向けてしまった。


「もう!かわちゃんたら酷い!」


 地団太を踏んでいたら、朗らかな笑い声を立てながら葉山が近付いて来ていた。


「宮辺主任とかわさんは喧嘩中。宮辺さんはまたまたかわさん事件限定でストライキをしているの。」


「またまたって、以前もですか?」


「よくあるの。彼は人嫌いの天才肌の人でしょう。」


「壮ちゃんは天才肌だけど、別に人嫌いじゃないですよ。」


「そうなの?彼は君にだけ優しいだけじゃないの?」


「みっちゃんとも仲が良いですよ。彼女はやんちゃ坊主で小気味がいいって。」


「そう。そうだね、彼女はやんちゃ坊主だね。それでさ、思いつきは良いと思ったんだけど、やっぱり無理かな?僕は物理は全然だしね。」


 理工じゃなくても利口な東大卒が、二流大中退者に何を言う。


「多分、葉山さんが発案したとおりの事が行われたんだと思いますよ。ただ、実験するまでもない実験をあの二人が遊び心でやっているだけで。」


 僕が酷い楊一族を眺めながら言うと、葉山はクククっと楽しそうな笑い声をあげた。


「運転手が佐藤なのは、女性でも可能か?の実験でもあるんだよ。言葉やデータで説明するよりも実演映像で法廷に流した方が陪審員も理解しやすいでしょ。」


 それで水野が時代遅れの8ミリで録画をしているのか。


「現場の人に要らない仕事が増えてしまう陪審員制度って、誰が導入しようなんてしたのでしょうかね。日本で導入が決まった時には、陪審員制度は弊害ばかりだってアメリカで問題になっていた頃じゃないですか。」


 隅っこ虫の僕は不平不満なら沢山喋れる。

 そんな僕に、葉山は清々しい良い声で先程よりもハハっと大きく笑って流してくれた。


「そういえば、藤枝さんはどうしたのですか?女性でも出来るを実証するならば彼女の方が一般受けするでしょう?身長が平均の百五十五センチですからね。」


 葉山は肩を竦めた。


「私にそんなことをさせるつもりですか?ってけんもほろろ。」


 やっぱりいいな、狸さんは!

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