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死んでしまった僕は君を見つめ、君は僕を見つめ返す(馬9)  作者: 蔵前
三 場をしらけさせるのは僕の専売特許でしょう?
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和君からの贈り物です!

「どうしたの?」

「すいません。僕はすっかり忘れていました。」


 おもむろに帆布バッグを開けて、中から小物を取り出して机に並べた。


「あら、なにコレ、可愛い。」


 可愛い物好きの今泉が目を輝かし、僕の方へとにじり寄って来た。

 僕が座卓に並べ始めたのは、大き目のビジューでデコってある蝶々型の髪留めクリップなのだ。

 ちゃんと僕の女友達全員の人数分ある。

 もちろん、僕を可愛がってくれる葉山の姉の真砂子の分も、実は新人が入るって聞いていたからその一人分だっても。


 けれども藤枝は全く喰いつかなかった。


 それでも藤枝を抜いたみんなはその煌びやかな髪留めに色めき立ち、それぞれ手に取ったりして眺めて喜び始めた。

 ビジューにはかなり拘っているので、実は買うとかなりお高い値段のクリップである。


「和君の友達がデザインした商品です。和君がお世話になったからって、特にお世話になったさっちゃんに最初に選んで欲しいそうです。」


 僕の言葉に各自が手に取っていたものが、佐藤の前に並べ直された。

 今泉も水野もニコニコしている。


「え?私に?私が最初に好きなの選んでいいの?」


「心細い自分に喝をくれたって、和君はさっちゃんに凄く感謝していましてね。それから、僕がお世話になっているお姉さん達がいるって言ったら人数分をくれました。藤枝さんのもあるから心配しないで。」


「いるわけないじゃん。何がデザインよ。これパクリでしょ。グラフックデザイナーのタケヒサと服飾ブランドのイザックのコラボ商品とそっくりじゃん。なんかもう、馬鹿馬鹿しくてツマラナイ。帰る。」


 ガタっと立ち上がると、藤枝はぷいっと帰ってしまった。

 あそこまで徹底した嫌な人間になりきれるって凄いな、と僕は実は藤枝を気に入ってしまっていた。図々しさや太々しさは、そのまま生命力の強さをも現しているような気がするのだ。僕は生き生きとしている藤枝の輝きに、外灯に群がる蛾のように惹かれてしまったのである。


 それは、僕が余命やら生きるための結果を受け入れていながらも、完全には受け入れていない証拠なのかもしれない。


「あいつ、何?むかつく~。」


 不平の声を出しながらビールを煽る水野の姿に、せっかく葉山が場を盛り上げなおしてくれたのにと、僕の考え知らずの行動が申し訳なく思った。


「ごめんなさい。僕がクリップなんか出したから。」


「あら、違うでしょ。クロはそこが駄目。ぜーんぶ自分のせいって、あなたは神様のつもり?」


「ふふ。そうですね。」


「それにね、パクリだろうと、これは凄く綺麗で気に入ったわ。本当に好きなのを私が最初に選んでいいの?」


 佐藤は本当に良い人だ。

 内緒だったけど、彼女のために話そう。


「和君がグラフィックデザイナーのタケヒサです。タケモトカズヒサでしょ。イザックは和君がスポンサーになって大学時代の友人達と立ち上げたブランドなんです。」


「え、和君てそんなに凄い人だったの?」


 そうだよね。佐藤が知っている和久は、強盗に商品を盗まれた間抜けでしかなかったから仕方がないよね。でも、彼は武本物産の御曹司であり唯一の店舗の支配人なのだ。


 わが武本物産は近年完全に一般向け通信販売と高額購入者用外商のみに絞って百貨店を閉めて来たが、地元に一店舗だけ残してある。

 田舎の住人の雇用と生活を守るためであり、そのお陰か、町名が武本町に数年前に変えられた。

 現在は通販形態の小さい小売店であるが、一応名のある老舗企業でもあるのだ。

 そして、和久のイザックの商品は武本の目玉商品であり、委託販売などをして店頭に並べられ、武本を知らない若い客層を開拓している。


「え、じゃあ、あの藤枝は間抜けだったってことね。」


 水野がそういって笑い出すと、今泉もにやにやしはじめた。


「まぁ、あたしらは優しいから、彼女が欲しいと言ったら渡せるように取っとくだけはしてあげましょう。お願いします、下さいって言ったらね。」


「お願いします。は大事ですよねぇ。」


 水野と今泉は「女って怖い」を実演してくれていた。

 その傍らで佐藤は目を煌めかせてゆっくりとクリップを選び、葉山はなぜかそんな佐藤を面白くなさそうな顔で眺めていた。

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