飲み会には王様がいてこそ
葉山は四角い輪郭に整った顔立ちで、山口よりはちょと背は低めだが同じように細く、しかし山口がくにゃっとイカのような印象なのと違い、武道家らしく姿勢が良いという、竹林に佇む武士のような涼やかなイメージの人である。
第一印象のイメージでは。
「葉山さーん。環ってば仲間はずれにされてるみたいー。」
藤枝はタタタと葉山に駆け寄ってしなだれようとするが、残念ながらそれは葉山なのだ。
彼と知り合ったばかりの頃の僕は、彼を「繊細で優しい人」と思い込み慕っていたが、最近は「鬼畜」でしかない人だと思い知り、近寄ればアラートが鳴る危険人物となっている。
つまり、葉山は武士でも野武士であったのだ。
そんな彼は藤枝を一瞥もせずに、廊下に転がる男二人を笑顔のまま足で転がすと、標的である僕の方へと颯爽と近づき、吉田を笑顔付きの威圧感だけで部屋から追い出したのである。
それから何事も無いように僕の隣に座り込んで陣取った。
押しのけ排除された男達は、あまりにもサラッと片付けられたために抗議をするどころか戦意など全くない様子であり、葉山に今更挑んでも格好が悪いだけだと踏んだか、なすすべもなく個室前の廊下からすごすごと姿を消した。
葉山はやはり凄いと思った時、僕のスマートフォンが震えた。
「さぁ、飲もう!飲もうって、クロ。俺が来た途端にメールなんか見ないでよ。それで、クロは飲んだ?帰れなくなったら俺の家に泊まれば良いから。姉さんも君に会いたいって言っているからね、気兼ねしないで!」
そう言いながら僕の肩をグイっと抱き、ハハっと気持ちの良い声で笑った。
「お前は本当に空気がどうでもいい奴だな。」
葉山に毒気を抜かれた水野が座りなおして、来たばかりの葉山にグラスを渡すどころか酌をさせて飲み直しはじめた。
「ほら、佐藤ちゃんも座って。佐藤ちゃんはビールはあまり好きじゃないよね。別のは頼んでいる?頼もうか?」
「あぁ、いいえ、熱燗がもうすぐ来ると思うから。」
「うわ、しっぶい。いいねぇ、熱燗。俺も一緒に飲んでいい?それで、今ちゃんはソーダ系?お茶?それで、藤枝さんは何?ビールで良いの?歓迎会でしょ、好きなの頼みなよ?」
「おい、あたしには聞かないのかよ。」
「はは、水野は何が良いの?」
葉山は店員を呼んでオーダーを取り直し、そして僕の隣を陣取ったまま、我が物顔で場を取り仕切り始めた。
大学時代はサークルの王様という経歴は伊達じゃない。
葉山は左に僕、右に佐藤をはべらして、正面に水野とご満悦だ。
藤枝は葉山に毒気を抜かれたか水野の隣で大人しく座っており、今泉は僕の斜め横、つまり座卓の端に座っている。
葉山が一番の上座になっているのだが、功労者としてこれは良いだろう。
「今ちゃん、髙さんとマッキーは署に寄ってからだからもうちょっとで来ますよ。かわいそうに山口は居残り決定だって。かわさんが本部に研修に行っちゃったからね。」
「何それ、加瀬はマッキー呼びが決定なの?」
水野が笑い、佐藤が葉山に尋ねた。
「マッキーって誰がつけたの?」
和気藹々となったのに、今泉だけは思案顔だ。
「杏子ちゃん、どうしたのですか?」
「いや、せっかくだからね。私が居残って山口を呼ぼうか?」
「杏子ちゃんは睡眠を一杯取らないと駄目です。さっき良純さんからのメールで山口の所に泊めて貰えってあったから、かわちゃんの家に行きます。かわちゃんがいないなら鳥の世話も有りますからね。明日の昼前に世田谷に帰れば良いって。アンズはまかせろって。」
「何?あの糞坊主は普通に良い奴だった?」
水野の言葉で、僕は良純和尚がわざわざメールしてきた理由を理解した。
これは水野対策なのであろう。
彼はというか、彼だけではなく楊も水野を怖がっている節がある。
怖い兄が水野にはいるからであろうか。
「ちょっとー。山口が明け方まで帰らないならウチにおいでよって。隣に今ちゃん達が住んでるっていうけどね、それでも君一人じゃ無用心でしょ。」
おいおい、葉山、隣に君に一途な佐藤がいるじゃないの。
佐藤は葉山に一途で、それなのに「山口よりも葉山にしなよ。」と葉山を応援するぐらい気立てが良い人なのだ。
僕は男だった時代彼女に惹かれたことがあるので、彼女を応援する立場だ。
そう、僕の従兄の和久だって、彼女を気にかけていたじゃないか。
「あ。」




