人を呪わば穴二つ
8/15 少し気に入らない点があったため、加筆修正しています。
私の名前はエミリー。平民だから姓はない。
自分で言うのもなんだけれども、とても可愛いくて、誰からも愛される性格なのよ。私がお願いしたら、男の人たちはみ~んな言うことを聞いてくれるの!でもね、そんな私に嫉妬してくる面倒な女に困ってるの。婚約者が自分に見向きしてくれないからって、私に小言ばかり言ってくるし、皆といるのを邪魔してくるし!ホンットッッ!煩わしいんだから!!最近、流行っている恋愛小説に出てくる悪役令嬢みたい!あ~あ、愛されない女の嫉妬って醜いわよねぇ。
嫌がらせしてくる女たちは高位貴族だから、中々追い払うことが出来なくて困っているときに、いいものを見つけたの!望んだ相手を呪い殺す方法を!!友達の一人と待ち合わせしていた図書館に行った時に偶々見つけた本。何となく気になったから手にしたら、呪い大全集っていう怪しさ満載の本で、どれもこれも難しそうな方法ばかりだったのに、何故か一つだけ簡単にできるものがあったの。この方法なら、邪魔な女どもを蹴散らすことが出来るわ!そう思ったんだけれども、一生で一人しか呪えないらしいの。使えないわねぇ。でもいいわ!この学校に通い始めてから出会った、この国の王子様。私を思いっきり甘やかしてくれるし、欲しいものはなんでもくれる。婚約者さえいなければ、私をお妃さまにしてくれるって言ってくれるから、ターゲットは王子様の婚約者にするわ!他の友達も、身分が高くてお金持ちだけれども、一番はお妃さまよね!お妃さまになったら、いっぱい贅沢ができるんだもの!
そうと決まれば、本に書いている材料を揃えて、手順通りに進めてみよう。
すごい!
すごい!すごい!!
本当に呪いの効果があったわ!
あの女が、校舎の階段を踏み外して転げ落ちたの!一番上の段から!!
頭を強く打ったみたいで目を覚まさないらしい。ずっと、このままかもしれなくて、王子様の婚約者で居続けるのは難しく、解消されるらしい!!
やったわ!!
これで王子様と私を阻む邪魔者はいなくなった!王子様も、私を次の婚約者にしてもらえるよう、王様にお願いしてくれるみたい!嬉しくて、王子様と二人抱きしめあった……と思ったら、いつの間にか兵隊さんに囲まれていた。
え?
怖くて王子様にしがみつき、顔を見上げると、とっても冷たい目で私を睨んでいた。
どうして?
意味が分からない。
「この女を連れていけ」
「はっっ!」
兵隊さんが私を王子様から引きはがすと、両腕を掴んで引きずっていく。痛くて怖くて大声を出したら、今度は口に詰物をされた。
どうして?
私は未来の王妃様なのに!
どうしてこんな酷いことをするの!?
連れてこられたのは、お城の地下にある牢屋だった。ジメジメしていて、壁や床には気持ち悪い虫が這っている。トイレもお風呂もなくて、ご飯も食べさせてもらえない。こんな気持ち悪い所は嫌だ!って何度も叫んだのに、誰もお願いを聞いてくれない。今までこんなことなかったのに!未来の王妃様に向かって、なんてことするの!!私が王妃様になったら、こんなことした人たち全員処刑してやるんだから!!
ここに連れてこられてから、一晩たったら誰かが牢屋にやってきて鍵を開けてくれた。良かった!助かったんだわ!!私が王妃様になったら、貴方を愛人にしてあげてもいいわ!調子に乗られたら困るから、今は言わないけどね。でも、牢屋から出した私の両腕を後ろで縛って、首に縄をつけてどこかに連れていかれる。怖くて行きたくなくて、足に力を入れて止まろうとするけれど、その度に背中を蹴られたりして強制的に歩かされる。そして着いたのは見たこともない広場だった。広場を囲むように客席があり、私がいるところから一番近い席には王様とお妃さまが座っていて、少し横には王子様たちが座っている。
「……え?」
恐怖で喉が引き攣った。私の目の前にあるのはギロチン。私が立たされているのは…処刑台……?
どういうこと?
私、殺されるの!?
嫌!嫌よ!!
私は未来の王妃様なんだから!こんなの絶対に許さない!!
怖くて叫びながら一生懸命暴れたけれど、兵隊さんたちには敵わなくて強引にギロチンの板に首と両手を固定された。
「これより、オスカー王太子殿下の婚約者であらせられるアリシア・バートン公爵令嬢の殺害未遂及び呪いがけによる刑を実行する」
「こんなの嘘よ!!あの女が悪いの!私の邪魔ばかりするから!あの女さえいなければ……ッッ!!」
そこまで叫んで口を噤む。
上から何かが落ちてきた。私の目の前の床に落ちたそれは、人の頭部。意味が分からなくて、怖くて悲鳴を上げたいのに喉から何も音が出ない。落ちてきた頭の周りが赤黒く変色していき、そこから白くて小さな手が這い出てくる。徐々に姿を現したそれは、頭のない人間の体。途切れた首からは夥しい量の血が流れていて、立ち上がったそれの足元に血溜まりを作っていく。それは屈むと大切そうに落ちてきた頭を拾い上げた。そして、頭の顔を私の方へと向ける。目を背けたいのに、体が言うことをきかない。嫌!怖い!!誰か助けて!!!
プラチナ色の長い髪に、同色の長い睫毛が縁取る瞳は白目が赤く染まっていて、逆に中央は真っ白だ。とても整った顔なのに、それが余計に恐怖を煽る。
どうして!
どうして誰も何も言わないの!?
目の前に化け物がいるのに、誰も何も知らないふりしてる。
それの腕が伸びて、顔の顔に近づく。それの顔が視界いっぱいになった時、形の良い唇がニヤァと上がり
「 逝 き ま し ょ う ? 」
ゴトンッという音とともに、何かが落ちた。さっきは同じ目線にあったはずのアレの顔が高い位置にある。ギロチンの板に挟まれたままの私の手。
私……死んだの?
嘘!
嘘よ!!
アレは立ち上がり、自分の頭を掲げて聞いたものを恐怖に陥れるような笑い声をあげている。
どうして?
私は悪くないのに。
悔しくて心の中で叫んでいると、再びそれの顔が近づいた。
「人を呪わば穴二つ……フフフッハハアハハハハハハハッッッ!!!!」
最後に気味の悪いアレの笑い声で意識が途切れた。
「アリシア様が目覚められました!!」
王都にあるバートン公爵のタウンハウスに、メイドの声が響き渡る。
「アリシア!!良かった…本当に良かった」
勢いよく彼女の部屋に飛び込み、強く抱きしめるのは兄のアルフレッド。続いて両親も駆けつけ、代わる代わるに彼女を抱きしめる。
「階段から落ちて意識不明と聞いた時には覚悟を決めたが…本当によかったツ」
普段は厳格な父として表情を崩さない公爵だが、この時ばかりは目じりに涙を浮かべており、夫人は滝のように嬉し涙を流している。
「しかし、この形紙が役に立つとは」
アルフレッドの視線の先には、ベッド脇の棚に置いてある、焦げたような痕がある人形の形を模した紙。身代わり人形として、先祖の代からバートン家の者が肌身離さず身に着けているものだ。作り方は至って簡単な為、半信半疑ではあったものの、今回は娘が身をもって効果を実証したのだ。
「それにしても、よもやあの禍々しい本がこの世に残っているとはな」
公爵が指すのは、エミリーという平民の少女が手に入れたという呪いの本。昔、呪術で栄えた家があり、その者たちが書き残したものらしいのだが、呪いの強力さに恐れた人々が一つ残らず焼き払ったという言い伝えが残っている。勿論、この度の本とそれとの出所が同じかは不明だが、エミリーの部屋に残された呪いの痕跡とアリシアの事故、焦げた身代わり人形を考えれば、呪いが成されたという事実は揺るがない。
「お父様、私が階段から落ちたのは…?」
アリシアには、放課後に階段から突き落とされたまでの記憶しかなかった。激しい痛みを感じたような気もするが、そのあたりはの記憶は曖昧らしい。
「うむ。オスカー殿下に付きまとっていたという平民の少女が、お前を突き落としたという証言を複数から得ておる。本人は否定していたようだが」
聞かされて、アリシアは当時の事を思い出す。帰宅のために校舎の階段を一歩降りようとした時、何かから背中を突き飛ばされたのだ。それが、いつも苦言を言っていたあの平民の少女の手だったのか……それにしては、随分と強い力だったような気がする。己が同じ力で誰かを突き飛ばそうとするなら、体当たり位しなければならないだろうと思うくらいの。そして、あの場で自分のすぐ近くに彼女はいただろうか?婚約者に近づきすぎる彼女の動向には、アリシア自身、かなり注意していたつもりだ。引っかかる点はあるが、複数の目撃証言があったということは、自分が気づかないうちに接近されていたのかもしれない。
「それと、あの平民がお前を呪い殺そうとしていた証拠もあがった。王太子殿下の婚約者であり、公爵家の令嬢を殺害しようとした罪で、先日公開処刑されたよ」
続いた兄の言葉に、アリシアは目を伏せる。遅かれ早かれ、彼女は罰せられることになっただろう。公爵家の令嬢であるアリシアに対しての暴言の数々、婚約者のいる高位貴族へ対する過剰な接近。そして、
「何より、あの魅了の力……アリシアが階段から落とされた日に消失したらしい」
国の調査機関の発表した結果によれば、エミリーと関係のあった子息からは微かに魅了の術を使われた形跡があったこと。術にかかると、己の意思とは関係なく、術者の望むことしか出来なくなるという、恐ろしい術らしい。それをエミリーが意図してかけたか、それとも無意識のうちに垂れ流していたかは今となっては不明なのだ。
高位貴族の子息たちが次々に彼女に好意を寄せる様子を聞いた国の上層部が危機感を感じ、対策を講じようとしていたのだが、下手に近づいて木乃伊取りが木乃伊になるような事になっては不味いと手をこまねいていたのだ。それが、アリシアが階段から落ちた日を境に、まるで魔法が解けたかのように全員が正気に戻った。そして、土下座するかの勢いで婚約者に謝り倒し、関係の修復を図っている。オスカーも例にもれず、毎日公爵邸に通い、泣きながら意識のないアリシアに謝罪をしていた。
最初のころはアリシアを蔑ろにしていたオスカーを門前払いにしていた公爵家だが、何度追い返しても諦めることなく通い詰める彼に絆され、ついには招き入れたらしい。アリシアが目覚めたと早馬を走らせたから、すぐにこの場に駆けつけるだろう。
「本当に忌々しい事件だったよ。あの女がお前を階段から突き落としたことを、最後まで否定したことは若干気になりはするが」
「お兄様、”人を呪わば穴二つ”ですわ。きっと、エミリー様は”連れて逝かれた”のでしょう」
数刻後、公爵家のドアを蹴破る勢いで訪問したオスカーは、目覚めたアリシアの姿に恥も外聞もなく号泣し、ごめんよ、もう離れない、君だけを愛しているといつまでもキスをしたり抱擁をしているものだから、アルフレッドと公爵によって締め出されてしまったのは別の話。
人を呪えば、相手と自分の墓穴が必要になるという意味




