前編
忙しくてなかなか書けず…。
応援よろしくお願いします。
わたしは、目の前の青年に、ダメ元でとあるお願いをしようとしていた。
「あの、キース様。大事なご相談がありまして」
「ちょうど俺も、ジェニファーに話があったんだ」
「じゃあ、キース様が先にお話ください」
「ジェニファー、あなたのことが好きです。結婚してください」
「…………はい?」
わたしは驚きすぎて素っ頓狂な声を出してしまった。
「はい、か!そうか!ありがとう」
「………え?」
「このままダレングル侯爵に挨拶して帰るぞ。こっちの両親には俺から伝えておく」
キースの様子が想像していたものと違ったのでポカンとしていると、返事をしないわたしを、キースが心配そうな顔で見つめていた。
「どうした?」
「いや、びっくりしてて…」
「なんで?」
「わたしも今日、キース様に結婚をお願いしようと思っていたんです」
今度はキースが驚いていた。
「…それじゃあ、俺たちは両思いだったわけだな」
なぜわたしが、キースに婚約を申し込もうと意気込んでいたのか?それには、この世界の説明から始めなければならない。
* * * * *
まぁここは、簡単に言えば、よくある乙女ゲームの世界である。わたしは、悪役令嬢のジェニファー・ダレングルとして転生した。そして、将来の婚約相手はこの国の王子であるマシューで、ヒロインに嫉妬して事件を起こし、破滅していくのだ。コテコテのテンプレである。
そりゃあ乙女ゲームの攻略キャラなだけあって、マシューは超がつくイケメンだ。
しかし、わたしは出会ってしまった。
―――どストライクな人物に。
それが、先程結婚を申し込まれたキース・カルターニである。わたしが7歳の時に、兄の友人として紹介されたのだが、前世でロクに恋をしてこなかったわたしは、この一目惚れにどう対処していいのか分からず、兄の後ろに隠れてしまった記憶がある。
それからは、遊びにくるたびにかまってもらい、勉強まで教えてもらい、わたしはずぶずぶとキースに惚れていった。
ところが、そんな生活もずっと続くわけではない。ゲーム通りならば、わたしの15歳の誕生日に婚約者のマシューが連れてこられるのだ。
その日まであと1ヶ月。
どうせ悪役令嬢として破滅の一途を辿るなら、せめてキースへの想いを伝えて玉砕してしまおうと思って告白しようとしたのに、玉砕どころかキースから結婚を申し込まれてしまった。
そのままキースは、本当にわたしの両親と話をして後日正式に、キース・カルターニとして婚約を申し出てきたのだ。
「ジェニファー、おめでとう」
「キースくんならきっと、ジェニファーを大切にしてくれるさ」
家族からも祝福された。どうやら夢ではないようだ。じゃあわたしは、大好きなキースと結婚できて、破滅エンドからもおさらばってこと……?
嬉しすぎません???
喜びすぎて、部屋でふかふかのベッドにダイブして足をバタバタさせていたら、メイドからめちゃくちゃ怒られた。
* * * * *
婚約のお披露目は、わたしの誕生日パーティーで行うそうだ。当日はキースがエスコートしてくれると聞き、やっと現実として受け止められるようになった。
こうしてはいられない。キースは絶対にモテていたに違いないのだ。だってあんなに優しくてカッコいい人がゴロゴロ転がっているはずないもの。それをこんな小娘に取られたとなると、まわりが黙っていないだろう。キースの実家は侯爵家であるため、身分も申し分ない。確実に優良物件だったはずだ。
だが、どんなに頑張ったってわたしが15歳なのは変わらない。5つ年上のキースの奥さんとして、きちんと釣り合うようになりたいのだが……。
「はぁ…。どうしよ…」
* * * * *
結局、年相応の物を身につけることにした。ここで下手にから回ると、第一印象としてよくないからだ。
メイドたちと談笑していると、コンコン、と部屋がノックされた。
入ってきたのはキースだ。あぁ、今日もかっこいいと思うと同時に、自然と背筋が伸びる。もちろん、頬が緩んでいないか、さりげなく鏡をチェックすることも忘れない。
「ご機嫌よう、キース様」
「あぁ」
「やっほー、ジェニファー」
キースの後ろから腕がにょきっと出てきて、わたしに向かって手を振った。そんなことをするのは1人しかいない。
「何してるのお兄様!」
「何って、妹の誕生日をお祝いしにきたに決まってるじゃないか」
キースの後に続いて、当然のように兄も部屋に入ってくる。
「それは嬉しいんだけど…」
正直に言おう。今じゃない。
「僕からのプレゼントだ。誕生日おめでとう」
そういって兄から渡されたのは、高級菓子の詰め合わせだ。わたしの好きなものばかり入っていて、こういうところはよく見てるんだよなぁと感心する。
「ありがとう!大事に食べるわ」
「それじゃあ、僕は一旦退散するよ。また会場で」
「うん、またあとで」
兄は颯爽と部屋から出ていった。取り残されたわたしとキースの目が合い、思わずくすくす笑う。
「兄がすみません」
「いや、いつものことだから気にしていない」
キースは、これをいつものことで片付けてくれるほど、広大な心をお持ちなのだ。素晴らしすぎる。
「そういえば、キース様はどうしてこちらに?」
本来ならば、パーティー会場である広間の前で会う予定だったはず。
「かわいい婚約者に会いたくなった」
「……そ、そそ、そうですか」
今までそんなセリフ、言われたことありませんよー?!
おかげでドキドキが止まらない。他人事のように返してしまった。
「会いたかったのももちろんだが、部屋が近かったから迎えにきた」
「そうでしたか。ありがとうございます」
少し手間をかけてしまったかな、とも思うが、かわいいと迎えにきたのダブルパンチで、心がやられてしまい、それどころじゃなかったというのが本音だ。
2人で会場へと向かい、パーティーが始まった。司会者に呼ばれ、目の前の大きな扉が開かれると、たくさんの人たちがわたしたちのことを見上げていた。
「キース・カルターニとジェニファー・ダレングルの婚約を、ここに宣言致します」
会場がざわめきだす。ジェニファーの誕生日会として集められた客たちにとって、婚約発表の話なんて寝耳に水だろう。特に、キースと年頃の近い令嬢からの視線が痛いように思う。
「では、指輪の交換を」
この国では、貴族の婚約発表の時に、お互いの指に婚約指輪をはめるのだ。以前のわたしは、どうせ結婚式でもやるんだし、こんなイベント二度もする必要ないだろうと勝手に思っていた。
だが、結婚相手がキースとなると話は別だ。指輪にかこつけて優しく触れられた手に、自然と鼓動がはやくなる。
「必ず幸せにする、ジェニファー」
「はい。お慕いしております、キース様」
決まり文句を言って、この場での儀式は終了だ。その後、わたしたちは一旦会場を出る。今は婚約発表用の衣装を着ているため、誕生日パーティー用の衣装に着替えてから、また会場へと戻るのだ。
着替えが終わると、改めてキースと合流し、関係者にひたすら挨拶していく。お似合いですわね〜、なんて言われて、お世辞でも舞い上がってしまう。
「じゃあ、俺は向こうに行ってるから、なにかあったら呼んで」
「分かりました」
どうやらキースは、兄たちの輪に入るらしい。わたしが行ってもつまらないだろうと、気を利かせてくれたようだ。
キースが離れていった途端に、御令嬢たちに囲まれてしまった。きっと、なぜあなたが婚約者なのかと罵られるのだろう。なにかぶっかけられるくらいは覚悟しておかなければ、と目を瞑っていると…。
「ジェニファー様、すごすぎますわ!」
んー?
「あの"氷のキース様"とどうやって婚約までこぎつけたのですか?」
「わたしたちが話しかけても、全然相手にしてもらえませんのよ」
「ジェニファー様には、あんなに優しく微笑まれるのね。驚きましたわ」
「笑った御顔なんて、誰も見たことありませんもの」
「キース様は、本当にジェニファー様を愛していらっしゃるのね」
彼女たちの口から語られるのは、全然知らないキースのようだ。キースはそんな冷たい人ではないし、普通に笑う。わたしの取り留めのない話だって最後まで聞いてくれる、とても優しい人である。
「それ、人違いじゃありませんか?」
わたしの知ってるキースとはかけ離れた人物だ。
「まさか!キース・カルターニ様で間違いありませんわ」
「………本当に?」
「羨ましい限りですわぁ」
「「「「ねぇ〜」」」」
どうやら、旦那様は、わたしにだけ特別な面を見せてくれているらしい。なぜキースがわたしに結婚を申し込んだのかは未だに分かっていないが、ニヤニヤしてしまうのをなるべく悟られないよう、これまでに鍛えたポーカーフェイスで彼女たちと対峙した。
おかげで、次の日は顔が筋肉痛になっていた。
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