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1-8 ソロ①

お気楽復活。

ちょっと今日明日は短めです。

 翌日、朝。

 どんな顔をして会えばー、なんてのは杞憂だった。

 三人ともがっちり寝こけていた。

 ウェズリーとシュラットの疲労は言うまでもなく、チファもウェズリーの様子を見て夜更かししているうちに寝落ちしたようだ。あれだけ歩いたのだから普通に疲れてもいただろうが。

 宿は今朝チェックアウトする予定だったのだが、ひとまず一日延長させてもらった。


 三人の世話はマールに任せ、俺は一人で組合へ向かった。

 フォルトでは戦闘続き、すぐに野営ありの旅に出て、チファたちの村が滅んでいるのを見た。

 肉体的な疲労はもちろん、昨日は精神的な疲労も溜まった。できればこの街ではだらだら過ごしたいところだが、俺の顔を知っているフォルトの住人がいつセントに流れ込んでくるか分からない。支部長との約束がてら街の外で時間を潰しておきたかった。

 初めてひとりで組合の扉を開く。

 特別に注目が集まることはない。待ち合わせでもしているのかこちらを一瞥して目をそらす人がいる程度。

 受付で四級にはどんな依頼があるのか尋ねてみると、急ぎの依頼の中に猛猿という猿の群れの討伐依頼があった。普段は森に隠れているが時折商隊を襲ったり畑を荒らしたりするらしい。


「じゃあそれで」


 野生の獣は侮れないが、それでも単体でフォルトを落としかねないような黒鎧の魔族などに比べれば危険はないだろう。特別嫌な予感もしない。

 念のため猛猿そのものや生息地域について話を聞いておく。


 猛猿は身体能力と知能が高い大型の猿だ。体が大きいため普段は不安定な樹上ではなく地面で生活している。外敵と出くわした際には樹上に登り、立体的な動きで敵を翻弄する。

 強力な範囲攻撃を持たず、毒や魔法の類いを使ってこないため単体としての脅威度は低い一方で、群れた場合は厄介になる。四方八方から繰り出されるすばやい攻撃が相手では陣形を崩されやすく、知能の高さから依頼を終えた狩人や討伐者を狙うこともある。近隣の畑を襲い、数匹が村人の相手をして残りが根こそぎ作物を収穫して逃げていくことすらあるらしい。


「木に登ると厄介なら、その前に仕留めればいいな。どうにかして先に発見して、群れの頭から潰して、あとは一匹一匹つぶしてくだけだ」


 猛猿討伐のセオリーは先手必勝だろう。何が何でも先に発見し、統率個体を仕留めること。群体としてではなく複数の個体として対処すれば問題はなさそうだ。

 

「とりあえず猛猿はなんとかなりそうかな。あとは魔物の領域を歩くコツとかある?」

「欲張らねえことだよ」


 受付の人に質問すると、いつの間にか隣に立っていたチンピラ面のリニッドが答えた。

 顔を合わせるのは二日ぶりだが、相変わらずのチンピラ顔である。地球にいる時だったら絶対に関わらなかった外見をしている。


「魔物の領域には珍しい薬草なんかも山ほど生えてるが、毒草も掃いて捨てるほど生えてる。欲張ったシロウトが討伐のついでにっつって密猟して毒にやられて治療費ぼったくられるまでがお定まりだ」

「マジっすか。高値で売れそうなのあったら思わず手ぇ伸ばしちゃいそうですわ」

「マジでやめとけ。おれは思わず手ぇ伸ばして密猟で稼いだウン倍の借金背負ったから」

「体験談かー……」


 説得力がすごかった。密猟とか超してそうな外見が拍車をかけている。


「当たり前のことだけどな、真っ当に自分の仕事に専念するのが一番楽に稼げるんだよ。狩人の猟場に入れば罠で死にそうになるし、採収はやり方間違って薬草まで毒まみれになることもある。食い物もちゃんと持ってけよ。現地調達すれば安く済むが、失敗したら死ぬような目に遭うから」

「ちなみにそれらも」

「体験談だ」


 ふう、とため息をつくリニッドはどことなく老け込んで見えた。やんちゃして失敗した過去が容易に想像できるおかげで同じ轍を踏むまいと心から思える。


「そういやお前、これが初仕事か?」

「……そうかも」


 チファたちの村の様子を見に行ったのも仕事と言えば仕事だが、魔族を倒したのもウェズリーとシュラットだし、道案内だって三人にしてもらった。俺はただついて行っただけだ。

 猿の討伐依頼を受けるとなれば魔物の領域に単身突っ込むわけだし、不安はある。

リニッドはハッ、と馬鹿にしたように笑った。


「なんだそのフヌケた顔は。そんなに心配ならおれがついて行ってやろうか?」

「いいんすか。是非お願いしたいんですけど」

「は?」


 皮肉っぽく嘲笑っぽい言いようだったが、申し出自体はありがたいので素直に頼むことにすると、リニッドはぽかんと馬鹿面をさらした。

 二秒ほど沈黙。リニッドは眉間を抑えて小さく首を振った。


「そういやこういうやつだったな。三級での登録も似たようなノリで断ってやがったし……まあいい、今日はおれもひとりだ。大した依頼も受けられねえし、引率してやるよ。報酬は猿の討伐報酬の三割でどうだ」

「オッス、じゃあそれで」


 付き添いの相場がどれくらいか分からないが、これまで話したリニッドの様子から考えるとぼったくり価格とも考えづらい。そんなもんか、と了承した。

 するとリニッドは眉間に深いしわをよせて嫌そうな声を出した。


「お前よお、もうちょっと値段の交渉とかしろよ。引率の相場とか分かってねえんだろ。ここなら受付のおっさんとかいくらでも相場に詳しいやつがいるんだから、相場を確認するくらいして、高いと感じたら値切れよ……」

「なるほど、というわけで受付の人、三割ってぼったくり価格なのか」

「日帰りの依頼なら報酬の一割から三割が相場かな。若干高めだけど適正の範疇だと思うよ」

「ということらしいぞリニッド。適正な価格を表示されたならさらに値切るのは俺が道理を外すことになる。つまり値切らなかった俺が正しい」

「結果的にな!? おれがお前にタカろうとしてなかったってだけの話だからな。それにここは普通、値切って一、二割に持ってこうとするところだろうがよ。……くそ、もう負けてやらねえからな。成功報酬の三割は本当にもらうからな」


 ぶつくさ言いながらリニッドは組合の出口へ足を向ける。

 慌てて討伐依頼を正式に請け、仲介料を払い、リニッドの背を追った。


―――


 魔物の領域表層部、山林地帯。大量の草木が生い茂り、湿度が高い。

 中心部から遠い場所のため幻素の密度も極端な高さではない。植生も普通の山と大きく違ってはおらず、ところどころ見るからにヘンな動植物がいる程度。

 早朝に依頼を受けてここに辿り着くまでに数時間かかった。なにせリニッドが、


「日帰りの仕事でも油断するな。魔物の領域は天気や地形すら不安定だ。いざって時に備えて携帯食料は常に持ち歩いておけ。できれば毒消しも各種持ち込んでおきたいところだが、荷物が増えすぎるととっさの事態に対応できなくなる。周辺の植生を下調べして食らいうる致死毒の解毒薬は持っておけ。それと重要なのは即効性のある遅毒剤を持っていくことだ。どれだけ大量の毒消しを持っていても飲む前に死んだら意味がないからな。それからーー」


 と、下準備からみっちり面倒を見てくれたからである。

 おかげで俺は今、携帯食料や飲料水、ロープ、解毒薬などの物品をリニッドおすすめの頑丈なバックパックに詰め込んで背負っている。

 俺の場合、外見を無視した容量を持つ魔法の袋があるので荷物を減らす意義は薄い。しかし必要な道具の選抜基準など大変ためになった。あとでウェズリーやシュラットにも教えてやろう。必要ならそのうちバックパックごとやっても良いかもしれない。

 森に入ってからも指導は続く。

 標的の足跡や爪痕をあらかじめ調べておき、それを追う。標的でない魔物や獣についても遭遇を避けるため痕跡を確認しておく。魔力感知は魔物の領域内では精度が鈍るので、常に視覚や聴覚を強化する魔法を使用し不意打ちを食らうことがないよう心がける。

 魔法が使えない俺は錬気で補う。視覚、聴覚の強化と同時に周囲へうっすらと錬気を放ち、異物が入り込めばすぐに察知できるように備える。


「そういえばこの間も組合にひとりでいたけど、暇なの? どこの部隊にも入れてもらえないの?」

「同じ部隊の妹がアレなんだよ。ふざけたこと言ってるとはっ倒すぞ」


 時には息抜きがてら雑談しつつ森の中を歩くこと一時間程度。


「これか?」


 複数の生物の気配が広げた錬気に触れたので、音を立てないよう念入りにそちらへ向かう。リニッドは黙って気配を殺し、俺のあとについてくる。基本事項は教えた、あとは自分で試してみろ、ということだろう。

 目をこらして見ればビンゴ。植物の合間を縫って100メートルほど先、現在地よりやや低い場所に7匹の大きな猿の群れ。


「よく見つけたな。依頼にあった被害状況から考えればこの規模の群れで間違いないだろう。ここからどうする」

「最速で突撃して頭を潰す」

「いけるのか」

「多分」


 野生動物を相手に森の中で気付かれずに接近できるとは思っていない。100メートル先への有効な飛び道具を持っていない以上、気付かれる前に接近し討伐するのが妥当。

 取り逃せば面倒だろうが、別に死ぬわけでもない。失敗した時のことは失敗してから考えよう。実際に見た感じからしてもさしたる脅威ではない。最悪ごり押しの各個撃破だ。

 声を潜めて話していたリニッドは言葉を続けなかった。

 俺もそこまで頼り切るつもりはない。成功するにしても失敗するにしても俺の判断次第。ここからが腕の見せ所だ。

 師匠からもらった長剣を抜く。木の幹を避けられる直線ルートを選定。ルートを一気に駆け抜けるための位置取り(ポジショニング)を行い、全身に錬気を巡らせる。

 イメージは鉄砲。足に加速を得るための錬気を集める。体表には草や枝にぶつかっても構わないよう錬気の鎧を具現化させる。

 さあ一発限りの出たとこ勝負。自分の実力を試してみよう。


 靴底にスパイクを具現化させ足の力を余さず地面に叩き付ける。

 普通の人間の限界をはるかに超えた脚力に対する反作用。背中に大量の土砂を巻き上げながら瞬間的な加速を得る。

 猿が地面のえぐれる音に反応し振り向いた瞬間、俺はすでに猿たちに肉薄していた。

 初手で仕留めるのは最も大きい、ボスと思しき個体。

 全開の速度を乗せ、首めがけて剣を振り抜く。


「っ!?」


 手応えがなかった。

 まさかあれが避けられた? 奇襲を狙っていることはバレていて、猿の策にはまっていた? やばい、予想していた抵抗がなかったせいで着地が乱れる。

 本来であればボスを仕留め、その手応えで飛び出した勢いを弱めて着地、すぐに次の個体を仕留めるはずだった。このままでは頭から地面に突っ込んで愉快なオブジェになってしまう。こんな場所であの世へ一方通行とか冗談じゃない。

 攻撃の流れは途切れるが空中で前転し、足から地面に突っ込む。錬気のスパイクで滑りを抑え、地面を横にも転がりできる限り素早く起き上がる。

 反撃が来る。そう覚悟して全身を覆う錬気の鎧を強化しつつ猿たちの方へ向き直る。


 宙を舞うボス猿の間抜け面と目が合った。


 人間なら「えっ」とか「は?」とか言っていそうな顔面。胴体はしっかり首から血を吹き出していた。他の猿たちは半分が地面を蹴る音がした方を、もう半分が俺の方を見ていた。

 混乱するのは後。奇襲が成功したなら作戦続行。手近にいた猿に剣を振るとぽーんと冗談のように首が飛んだ。

 仕留めたのは二匹。三匹はここで慌てて逃走を始める。もう二匹は牙を剥いてこちらを睨む。

 優先すべきは逃げた三匹だが、二匹はかばうように俺の前に立ち塞がる。近くで見ると猿は俺より大きく、無視して逃げた猿を追えそうにはなかった。

 猿相手に森の中の追いかけっこなんて御免だ。

 無数の棘がついたマントを具現化させる。この棘に大した強度はないが、妙に体がもろいこいつら相手なら十分通用する。

 マントを前に突き出し、猿たちが逃げた方向へ突進する。当然立ちふさがった猿にぶつかり、棘が猿の体を貫通する。

 二匹の猿を串刺しにして重くなったマントの具現化を解除する。脱力した猿をどかしながら跳び上がり、逃げた猿を追う。

 跳んだ直線上にいた猿は適当に剣を振り逆袈裟に切り捨てる。手近にいた残りの二匹は錬気の網を実体化させて捕まえ、即座に首をはねた。

 逃げた猿三匹の死体を回収し、もともと猿たちがたむろしていた場所に戻る。立ちふさがった二匹も胴体に複数の穴を空けて絶命していた。


「……こんなもんか?」

「いややりすぎだろ」


 七匹とも間違いなく仕留めたことを確認してからつぶやくと、リニッドがドン引きといった表情で応えた。


「なんだ最初の馬鹿みたいな速度。しかも直後に頭から地面に突っ込みそうになってるし。体当たりされた猿はあちこち穴空けて死ぬし。逃げた猿に追いついて仕留めてるし。なんか束縛系の魔法でも使うのかと思ったら近接格闘だけで皆殺しとかわけわかんねえ」

「魔法苦手なんだよ。近寄って斬った方が早い」

「ンな馬鹿な……ことでもねえのか。あんだけ動けるなら。」


 実際のところ、魔法は苦手どころか使えないのだが。


「なんにせよこれだけ仕留めれば上等だろ。サイカ、他の猿の気配とか分かるか?」

「感知できる範囲には猿もめぼしい魔物もいない」

「っし、じゃあ耳剥ぐぞ」


 当たり前のように言われてあっけにとられる。

 なぜ耳。毛皮なら分かる。内臓が薬になるとかならそれも分かる。だがなぜ耳。


「なにボサッとしてんだよ。討伐した証拠取らなきゃ依頼達成になんねえぞ」


 そりゃそうだ。口で「倒しました」と報告すればいいならそれほど簡単なことはない。誰でもいくらでも大物を討伐できる。昨日も受付の人に魔族を倒した証拠に耳をーって言われたし。


「下級でも竜の類いなら全身売れるからまとめて持って帰るんだがな。猛猿は三メートル級でもなきゃ毛皮も売れん。証明部位だけ切り取って持って帰るぞ」

「了解。倒すだけで討伐証に記録されりゃいいのに」

「そりゃいいな。ぜひお前が実装してくれ。どうすりゃいいのか分からんが。っと、耳は両方削いでおけよ。ひと組揃って初めて一体討伐って認められるからな」


 両方揃っていないと提出のタイミングを分けることでかさましできてしまうからだろうか。

 機械的に七匹分の耳をそぎ取った。猿の死体は埋めておこうかと思ったのだが、そのうち他の獣なり虫なりに食われて土に還るから必要ないとのこと。

 特に波乱もなく俺たちはその場を後にした。


誤字報告をくださった方、ありがとうございました。

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