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1-6 村にて

今回はあんまりお気楽じゃないです。


「なんだよこれ、なんだよこれー! おいとーさん、かーさん、兄貴、ねーさん、返事しろよー!?」

「誰か! 誰かいないのか!」

「……へ? え?」


 シュラットは真っ先に飛び出し駆け回って大声を出した。

 ウェズリーは一拍おいてから人がいそうな場所や建物の残骸に向かって声を張り上げる。

 チファは呆然と立ち尽くす。


 村は惨憺たる有様だった。

 家があったとおぼしき場所には瓦礫や木片が積もっている。ところどころ土に黒っぽいものがこびりついている。いくつか地面に穴が空き、その周りに亀裂が走っている。

 村全体の形状に合わせて魔力感知を使う。薄く錬気も広げ、魔力感知に引っかからない何かが転がっていないか探索する。

 ……結果、何もなし。見た目通りの瓦礫の山としか分からなかった。

 ダメ元で感知の範囲をさらに広げる。付近に隠れているとすればチファたちを見つけて出てきていると思うが、気付いていないだけという可能性もある。


 まずチファが感知に引っかかった。ふらふらと木片の山のひとつに近寄り、力なく木片を仕分けている。おそらくチファの生家だったのだろう。感知を集中してみても生き物の気配は感じられない。……木片の山の下に誰もいないことはチファもたぶん分かっている。近くに何がいるか分からない状態では目の届く場所でじっとしていてくれた方がありがたいので、声をかけたりしない。おそらく人の気配がないと伝えても片付けを続けるだろう。

 次に引っかかったのがウェズリー。おそらく俺と同じように魔力感知を使って生存者を探しているのだろう。動きを止めることはないが、足取りは重い。

 その次ににシュラット。落ち着き無く村の敷地内と、たまに森に突っ込んで声をあげている。

 そして最後に。


「シュラット戻れ!」


 俺はチファに跳び寄りながら叫んだ。シュラットは声を聞いて即座にこちらへ跳んでくる。ウェズリーも同じようにこちらへ来る。ふたりとも周囲への警戒は欠かさない。

 ふたりは怪訝な顔をしていたが、すぐに表情を険しくし村の奥をにらみつけた。


 瞬間、大きな木片が立て続けに飛んできた。


 即座に抜剣。錬気を衝撃に変換しまとめてはじき飛ばす。


「――見えてんだよ!」


 木片の影に紛れて突進してきた生物を全力で蹴り飛ばす。

 かなり大きい。身長は俺の倍はあろうかというそれは蹴りを腕で防ぎ、後ろに下がりながらも危なげなく着地した。


 それは巨大な人間のような生き物だった。

 身長は3メートルを超える。二の腕は俺の胴体より遙かに太く、胴体も相応に大きく分厚い。

 人間のよう、と言うのは赤紫色の肌がところどころ隆起し、角のようになっている部分が見受けられるからだ。

 そして極めつけに二種類の魔力を無理矢理混ぜたようなノイズまみれの気配。

 ファンタジーな世界なので身体的特徴だけなら一致する種族も探せばいるのかもしれない。

 だがこの魔力が決定的だ。戦場で戦ったほとんどの相手が不協和音のような魔力をまき散らしていた。

 すなわち、


「てめー、魔族だな」


 シュラットが剣を構えて言い放つ。

 ウェズリーも無言で槍を構え殺気を発する。

 いきなり襲いかかってきたそれは耳近くまで裂けた口をゆがませ、醜悪な笑みを作った。


「ご名答だエサども」


―――


 よし殺す。

 決断にかかった時間はコンマ一秒。

 ノイズがかった魔力を放つ魔族は誰も話が通じなかった。どいつもこいつも人間殺すだの人間食わせろだのわめくばかりでコミュニケーションは成立しなかった。

 魔族=会話が成り立たないというわけではないが、いきなり襲いかかってきた以上こいつは黒。ましてチファがそばにいる今、こいつに暴れさせてやるつもりはない。


 全身に多量の錬気を巡らせる。

 魔法に比べて錬気は制御が手間で倍率が低いとはいえ、生命力の量だけなら俺は勇者レベル。生命力そのものと言える錬気の量は桁外れ。錬気の量にものを言わせれば体格で劣る相手にだって負けやしない。不意打ちで俺に手傷を負わせられない程度の雑魚ならなおさらだ。

 チファの前でグロ映像をぶちまけるのは気が進まないが背に腹は代えられない。


「ンのヤロー!」

「お前が……!」

「みんなを殺したのかー!?」


 さっさと頭をかち割ってやるより早く、シュラットとウェズリーがデカブツ魔族に襲いかかっていた。

 俺よりなお小柄な二人だ。大人にじゃれつく子供のようなサイズ差だが、そんな和やかな気配はない。二人とも魔族のノドや脇腹を狙って容赦なく刃物を突き出している。


「ああ、知らねえなあ! おれの腹ン中に入ってみれば分かるかもしれねえぞ!」


 魔族が体格に見合った大きさの腕を振るう。

 力任せの雑な暴力であるが巨体ゆえの腕力と重量は十分な脅威だ。肉体強化の魔法があると言っても強化する下地である肉体がそもそも強いに超したことはない。特に耐久力と重量は強化魔法では補えない強さである。

 ……まあ、でかくてもトチ狂っていても魔族は(一部怪しいのもいるが)生物だ。首切るか頭を割れば死ぬ。

 ウェズリーとシュラットがうろちょろしていて邪魔ではあるが、この魔族はせいぜい二流。仕留めるのもそれほど手間じゃない。

 そうこう考えているうちに魔族が隙をさらした。


「ヒサ!」

「手ェ出すんじゃねー!」


 飛び出す前に二人から制止され動きを止める。


「こいつらは僕らがやる!」

「ヒサはチファを守ってくれ-!」


 見たところ二人と魔族の戦力は互角。ウェズリーとシュラットは魔族に致命傷を与えられていないが、魔族もすばしこい二人に攻撃を当てられずにいる。こまめに手傷を負わせて流血させている二人の方が優位か。

 状況から考えるにあの魔族が村をつぶしたのだろう。であれば仇を討ちたい気持ちは理解できる。


「分かった、負けんなよ」


 危なくなったら俺が出張って即座に魔族をバラすが。手足を落としてトドメを刺させてやればいいだろう。二人としては戦って倒して仇を討ちたいところだろうが、二人の命が優先である。


「た……サイカ?」

「とりあえず少し離れるぞ。チファをかばいながらじゃ二人も戦いづらい」


 剣を持っていない左腕でチファを抱え、魔族から視線を逸らさず距離を置く。


「てめえも獲物だ、逃げんじゃねえよ!」


 先ほど弾いた木片を土もろともに巻き上げて魔族がこちらにぶちまける。

 俺がかわすより早くシュラットが間に入り全身で木片を受け止める。錬気と魔力の鎧をまとって防いだのでダメージを受けた様子はない。むしろ先ほどより強烈な殺気を放っている。


「チファになにしやがんだてめーーーー!」


 烈火のごとく猛り狂うシュラットはさらに早く、荒っぽく魔族の腹に向けて剣を繰り出す。魔族は直撃を避けるが全身に細かな裂傷が刻まれていく。シュラットの隙はウェズリーがカバーする。

 俺はチファを背にかばいながらウェズリーたちから距離を取る。

 十分に離れたら改めて魔力感知を行う。範囲は自身を中心に半径百メートルの円。魔族の増援や伏兵がいないか警戒し、地下まで感知を行う。

 結果、異常なし。俺に探知出来る範囲に敵はいない。あの魔族は単独行動しているものだと思ってよし。ならばさしたる脅威ではない。


 自分の手を祈るように握りしめてウェズリーとシュラットを見つめるチファ。

 俺も、チファの隣でいつでも戦いに割り込めるよう抜き身の剣をぶら下げて眺める。


 ウェズリーとシュラットの攻撃は頻繁に魔族に当たっていた。深くないとはいえ脈にあたる部分さえ切られていた魔族は勝負を焦り、シュラットへ向け乱暴に殴りかかった。間にウェズリーが割って入り衝撃を受け流す。受け流し切れなかったウェズリーは体勢を崩すが、力任せの一撃の代償に魔族も体勢を崩していた。その隙を逃さずシュラットは横から魔族の首に剣を突き立てていた。

 かは、と魔族の口から血液混じりの息が漏れる。

 シュラットは魔族の首に刺さった剣から手を離し、予備の短剣で魔族の脇腹を刺す。


「っがああああああ!」


 短剣は刺さりが浅かったのか、魔族はまだ動く。乱暴に腕を振り回してシュラットを振り払う。体格差は歴然。シュラットはサッカーボールのようにこちらへ吹っ飛ばされてきた。

 その隙に体勢を整えていたウェズリーが魔族の腹に槍を突き込むが、これも浅い。魔族は首と脇腹を刺されていることにも構わずウェズリーを殴る。盾で防ぎはしたがウェズリーは踏ん張りが利かずしりもちをつくように倒されてしまう。槍もウェズリーの手を離れ地面に落ちる。


 こちらに飛ばされてきたシュラットが受け身を取り、短剣を片手に再び突撃しようとする。

 ……それじゃあ刃渡りが足りないだろう。

 持っていた長剣を無言で差し出すとシュラットもまた無言で剣を掴み、駆けだした。念のため自分の短剣を取り出しておく。


 倒れたウェズリーに振り下ろされる魔族の拳。かろうじて盾で受け止めるも地面に叩き付けられるような衝撃はそのまま。ウェズリーの腕から力が抜ける。


「タカヒサさまっ!」


 サイカと呼べと言ったことも忘れ、チファが俺の腕を掴む。

 だが、俺は割って入ったりしない。

 これはまだ、ウェズリーとシュラットの戦いだ。


 再度、ウェズリーに振り下ろされる魔族の拳。ウェズリーは手首の力だけで魔族の顔に向けて盾を投げつけた。

 魔族は盾に構わず動きを止めない。しかし、ほんの一瞬だけ魔族の視界がふさがった。

 途端にウェズリーは機敏な動きを見せた。

 盾を投げる動きから体をひねるように起き上がる動きにつなげる。

 魔族の拳はウェズリーの脇腹をかすめる。ウェズリーの手は自分を殴るため前傾姿勢を取った魔族の首めがけて伸びていた。

 首を殴ろうというわけではない。

 首に刺さっていたシュラットの剣を逆手に掴み、引っこ抜いた。


 魔族の首から大量の血が噴き出した。

 声にならないうなり声を上げる魔族の背に、シュラットが襲いかかる。

 脇腹をひと突き。人間なら肝臓がある場所を長剣が貫いた。

 シュラットはすぐに剣を引き抜き魔族から距離を取る。魔族の反撃は空を切り、隙のできた脇腹をウェズリーが切りつける。

 ウェズリーに気を取られればシュラットが、シュラットに気を取られればウェズリーが刺す。

 何度か繰り返すと魔族が膝をついた。

 ウェズリーが首を、シュラットが背中から胸を刺す。

 ウェズリーの剣は首を貫通し、シュラットの剣が心臓を貫いたのだろう。魔族は完全に脱力し倒れ伏す。


 魔力感知をしてみても魔族が不意を打って反撃しようとする気配は感じられない。おそらくすでに絶命している。

 幼なじみが魔族を殺すところを見たチファは表情を曇らせていた。

 ……このままチファの村に魔族の死体なんて置いておきたくはない。野ざらしにするのも不衛生だし、森の奥に埋めておこう。


「終わったな。死体の処理はしておくから--」


 声をかけると、魔族の死体から剣を引き抜いた二人は、魔族の死体を滅多刺しにし始めた。

 何度も何度も剣を刺す。

 言葉を失った。

 魔族が本当に死んでいるのか不安なのかもしれない。村を滅ぼした張本人が憎いのかもしれない。

 俺でも念のため首ちょんぱしてトドメを刺すくらいするだろうが、魔族はもう刺されても刺されてもぴくりとも動かないのだ。

 チファに見せられる光景ではないし、なにより俺が見ていられない。


「………………」


 俺が口を出すより早く。

 チファが狂ったように剣を振り続けるふたりのそばにより、無言で服を掴んだ。

 ふたりは手を止める。その手から剣が落ちる。

 ふー、ふー、と息を荒げるふたりの腕は震えていた。

 チファに抱き寄せられたふたりは絞り出すように大声を上げた。


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