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道中②ー2


 チファ、マール、ウェズリー、シュラットと連れ立って街道を歩く。

 街道とは言うが地面が固く踏み固められた程度のものである。山に近い道だけあって緑が豊かだった。

 時おり俺がマールを、ウェズリーとシュラットがチファを背負って走ったりしているので移動ペースは速い。

 ぶっちゃけ背負った状態でダッシュし続ければ半日もかからずヒュレの街へ辿り着くだろうが、向かい風で呼吸が難しいような速度を出し続けつつチファとマールが呼吸できるよう気を遣うとなれば俺たちだって消耗する。

 俺の目的地は王都だが、ある程度時間をかけて向かう方が望ましいのだ。いかにダイム先生が魔法の研究者といえど、時間がなければ研究することもできないのだから慌てる必要はない。

 そんなわけで時に背負って走る。時にのんびり歩く。

 たまたまのんびり歩いている時だった。


「おいそこのガキども! 止まれ!」


 野太い声で怒鳴るように命令された。

 チファがびくりと震え、マールがきょろきょろ周囲を見渡す。ウェズリーとシュラットは武器に手をかけた。

 どんなやつかと思って声がした方を見ると、草のしげみからいかにもといった風体の男が三名現れた。どれもこれも似たり寄ったりの人相の悪さである。あと服装がみすぼらしくてくさい。顔は笑っているが、どうかと思うくらい下卑た笑みだった。

 男たちは刃こぼれしたナイフや剣を持っていた。


「命が惜しければ持ってるもん全部置いていきな。そうすりゃ命だけは助けてやる」

「おっと、そこの女もだぜ。そっちのちんちくりんは見逃してやるからよ」

「びびって漏らしちまいそうなら下着くらいは見逃してやってもいいぜ」


 驚くべきことにマンガに出てきそうなザ・テンプレとでも言うべき言葉であった。こういう連中はどこで脅迫文句の定型文を習うのだろうか。わりと真面目に気になる。

 ウェズリーとシュラットは殺気立っているが、こいつらは大したことない。たぶん極悪人っぽいのは見た目だけ。実際には人を殺した数も少ないような見かけ倒しと思われる。だってガチで人攫い&強盗を生業にしてるなら声かけるより不意打ちで邪魔者を殺した方が早くて確実だし。


「あの、邪魔なんで通してもらえます?」


 一応人語はしゃべっていたので交渉を試みる。


「邪魔! 邪魔だってよ!」

「通してもらえます? もらえるわけねーだろぎゃはは!」

「おいおい笑ってやるなよ、ガキが精一杯虚勢はってんだから!」


 男たちが笑う。耳障りを極めた笑い声である。

 とりあえず三人は特徴を覚えるのも面倒くさいので向かって左からアホ・ボケ・カスとする。

 ……本当にめんどい。関わりたくない。でもどいてくれないのであれば実力行使以外の選択肢が思い浮かばない。


「笑わせてくれた礼だ。お前はぶがっ!」


 大物ぶったことを言おうとしたアホを殴る。直接触りたくないので具現化錬気でコーティングした拳である。


「て――」

「こ――」


 てめえ、とかこのやろう、とか言おうとしたのであろうボケとカスも適当に殴って蹴って鎮圧。

 遅い。あまりにも遅い。この世界の戦闘職の人間はもとの世界のプロアスリートを凌駕する身体能力を持っていたりするが、こいつらは違った。身体能力がどれくらい優れているか確認するまでもなく終わってしまった。


「なにし――」


 意外と根性のあったアホが立ち上がってこようとしたので顔面を踏みつけてフィニッシュ。もちろん靴が汚れるのも嫌なので錬気加工ちょっぴりスパイク済みである。たぶん鼻の骨と歯が何本か折れた。

 ボケとカスもまた向かってこられたら嫌なのでうんうん唸っているところ蹴飛ばして動かないようにしてみる。

 この間、約十秒。師匠なら三人合わせて百回くらい殺しているタイムである。


「というわけでマール、こいつらってどうするのが妥当なんでしょうか」

「どういうわけよぅ……」

「殺しちまっていーんじゃねーかなー。首だけ持ってけば賞金かかってるかもしんねーし」

「生首持ってくのは嫌だな」

「生かしたまま連れてくのも大変だと思うよ、サイカ」

「……紐かなんかでくくって引きずってけばワンチャン。もう街も近いし」

「わかったぜ-。ちょっと縛っとく」

「俺がやるよ。シュラットはチファのケアをよろしく」

「つってもなー、サイカがボコるの見てぽかんとしてるぜー?」


 チファは目を丸くしていた。マールは「うわあ」と言いたげな表情。ウェズリーとシュラットは肩すかしを食らったような様子であった。

 適当に紐を取り出してアホボケカスをぐるぐる縛る。


「命だけは助けてやるけど、漏らすとか汚いことしたら切り落とすからな」


 とだけ言っておくと三人は身を寄せ合って震えていた。気持ち悪い。

 街への最後の道はマールを背負ってアホボケカスを引きずりながら走ることになった。


「なあウェズリー、盗賊とか山賊って結構いるものなのか?」

「そんなにいないよ。特に魔物の領域の近くだと少ないね。街や村にいられなくなったろくでなしがなることもあるけど、ほとんど魔物や獣に殺されるか、追い詰められて毒のある虫や植物を食べて死んだりするし」

「……そりゃそうか。真っ当に森や魔物の領域に潜る技量があれば探索者になる方がよっぽど合理的だもんな」

「盗賊とかになるのはまともに規則も守れないつまはじきものだね。フォルトなら子供の僕らでも兵士になれたくらいだし」


 どごっとかぅぎゃっとか変な効果音を耳にしながらウェズリーと話す。ちなみにシュラットはチファを背負ってご満悦である。


「僕からも聞きたいんだけど、どうして殺さなかったの? 気持ち悪いかもしれないけど首だけ運ぶ方が絶対に簡単じゃないか」

「そりゃあ人殺しなんかしたくないからなー。必要に迫られたらやると思うけど、死体とか見たいもんじゃないし」

「……まあ、それは僕も分かるな」

「だろ?」


 遺体は戦争で結構見た。どれだけ見ても慣れるものではないし、見たくもない。後ろに引きずるしょうもない連中を魔族と戦った兵士と同列に語ってはいけないと思うが、生物学上は同じ人間のはずだし。

 どうしても必要なら殺人もするだろうが、必要がないなら殺したくないとも思うのだ。


 そういえば生物学的な分類として、俺はどうなるんだろう。この世界の人間と明確な違いはないと思うが、世界の壁を挟んでいたら全く同種の生物ではない気もするが。


 ヒュレの街に辿り着く頃にはアホボケカスは虫の息だった。

 安全装置一切なしで地面に叩き付けられながら運ばれたというのに漏らしていなかった点は偉いと思う。

 白目剥いてたりこひゅーこひゅーと明らかにやばい息づかいだったりしたけど。

 ……まあ、死んでないからいいよね。いいにしよう。


次から二章です。二章は話数が少ない代わりに一話が長くなりそうです。

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