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1-おまけ③ 魔族

放浪記の方では今のところまともに出番がないキャラクターがいるので簡単に紹介を。

種族についてはあんまりお気になさらず。

名称:エメシト 種族:魔族(亜霊-魔)

サイカが「黒鎧の魔族」と呼称する魔族。

奮闘記の舞台となったフォルトの街に攻め入った魔族の中でも最強の一体。サイカの師匠・ヨギと互角に渡り合った。

魔力を使わず戦うサイカを見つけ、戦場で見つける度に稽古をつけるように戦っていた。

フォルトが陥落した戦いでサイカに「お前が魔王を殺せ」と言い放った。


という魔族です。


 アストリアスの東、海を越えると大陸がある。

 人族とはほぼ完全に交渉が途絶えた大陸には魔族が住まう。それゆえ魔界と呼ばれていた。

 そんな魔界の一角にあるとある屋敷でふたりの魔族がいた。


「なるほど、今回の勇者の力はだいぶまばらなようだね」


 大きな椅子に腰掛けながら発言したのは、ゆったりしたローブコートをまとった小柄な魔族だった。

 魔族と言ってもその容姿は人間と変わらない。

 白い肌。黒い瞳。髪は黒く見えるが、光を透かせると青紫色に輝いていた。

 身長は150センチ程度だろうか。手足は力を加えれば簡単に折れてしまいそうなほど細い。

 総じて箱入りという言葉がよく似合う容姿であるが、奇妙な点があった。

 相対しても性別というものをまるで感じさせなかった。

 少年のようであり、少女のようでもあった。


「力の大きさで言えば魔法使いの勇者が一番かな? 回復魔法を使う勇者というのも気になるね。できれば直接見てみたいところだ。前線に出ていた三人は直接顔を合わせているんだよね。感想はどうかな、エメシト」


 小柄な魔族が声をかけたのは、自身の眼前に傅く黒鎧の魔族だ。

 フォルトを襲撃した魔族の中でも最強の一体。サイカを鍛えるように何度も戦った魔族である。


『……………………』


 エメシトと呼ばれた黒鎧の魔族は沈黙を貫いた。

 小柄な魔族は仕方ない、と言いたげにふっと息をついてほほえんだ。

 その表情に怒りや苛立ちはない。それどころか慈愛すら感じさせる優しげな笑みだった。


「まあ、報告する必要があることは報告書に書いてくれているのだものね。わざわざ話してもらうほどのこともないのかな。……剣を持った勇者と槍を持った勇者はさしたる脅威ではなさそうだ。聖剣がどうなっているか気になる程度かな。最後の一人はすばしこいだけの剣士、と。なるほどね」


 ぱらぱらとエメシトが提出した報告書をめくりながら小柄な魔族がつぶやいた。

 めくるページが尽きたところで、小柄な魔族はトンと肘掛けを指で打った。


「ビスティからの報告だとエメシトは最後の勇者にご執心だったみたいだけれど、その割に記述が少ないね。どうしてかな」

『……………………』


 エメシトは答えない。それどころか指摘を受けても微動だにしなかった。

 小柄な魔族はそんなエメシトをつまらなそうに眺めるだけだった。


「魔法を使わず錬気のみで戦う勇者。だから気にかけていたのだろうけどね、彼は駄目だ。彼はこの世界に存在する中でもたった二人の絶対的不適格者だ」

『………?』

「エメシト、君がボクを殺すというならボクはそれを受け入れよう。君がボクを殺すことができたなら、それはそれで悪くない。けれどね、ボクは外れの勇者には、村山貴久には、絶対に殺されてやらない。この意味が分かるね?」

『…………………』


 それはこの魔族が村山貴久の存在を強く認識しているということ。

 小柄ではあれどこの魔族は強い。エメシトはそのことを誰より深く理解していた。

 エメシトにさえ勝てない村山貴久では、まともな方法でこの魔族を殺すことは到底不可能だ。準備を万全に整えた上で不意を打ってようやく分の悪い賭けにできる。

 しかしこの魔族は村山貴久を警戒対象とした。

 もはや不意打ちはできない。警戒の度合いによってはすぐに殺されてしまう可能性すらある。

 ようやく見つけた可能性のある人物だというのに。

 エメシトは拳を強く握りしめた。


「そんなに心配する必要はないよ。ボクに彼を殺すつもりはないから」

『?』

「ボクとしてもね、彼はぜひ取っておきたい駒なんだ。仮に味方にできなかったとしても極力殺したくないんだよ」


 エメシトには小柄な魔族の言いようが理解できなかった。

 この魔族は勇者を嫌っている。村山貴久以外の勇者もこの世界に長く留まるのであればいずれこの魔族に殺害されるだろう。

 すぐに始末するべきか判断するためにエメシトに報告を命じたのかと考えていた。


「勇者は忌々しいけど、積極的に殺すつもりはないんだ。自分でもとの世界に帰ろうとしているのも好感触だしね。今すぐ処分しなければならない勇者はいないようだし、ひとまず放置しておこう。正直、勇者どころじゃないし」

『勇者どころではない、とは』

「お、しゃべってくれたね、嬉しいよ。いやね、戦争なんて大きな動きを起こしたら相応の影響が出るのは分かっていたんだ。勇者召喚みたいな不確定事項もいろいろ想定していた。けれどね、よりにもよって今かって言いたくなるようなことまで起きてしまったんだ。アレを放置していたら最悪、人族が滅びかねない。……ボクにとって好都合なことをしてくれてはいるんだけど、どうにか手を打たないといけないんだ」


 小柄な魔族の顔から笑みが消える。

 常に余裕を漂わせるこの魔族にしては珍しいことだった。

 しかしそれも一瞬のこと。小柄な魔族はすぐにまだうっすらと笑みを浮かべた。


「まあ、こっちにエメシトの手を借りるつもりはないよ。何か頼むことができたら連絡するから、それまで好きに過ごしていいよ。またよろしくね」

『……は』

「あ、でもエメシトはアストリアスに行かない方がいいんじゃないかな。すぐにバレるだろうし、誤魔化すような術は得意じゃないだろ」


 くつくつと笑う小柄な魔族。エメシトは不服そうな気配を放つ。

 好きにしてもいいと言われたので、エメシトは立ち上がり部屋を立ち去ろうとする。

 その背に小柄な魔族が声をかけた。


「久しぶりに話してくれたついでに、昔のようにネリシュと呼んでくれてもいいんだよ」


 殺気。

 顔だけ振り向いたエメシトは激烈な怒気を放っていた。

 熟練の戦士でも戦意喪失しそうな殺意を間近に受けても小柄な魔族は気にした様子もなく涼しい顔をしていた。


『いつか貴様を殺してやるぞ、魔王』

「楽しみにしているよ」


 エメシトは前を向き、部屋を出た。


「また、呼んでもらえなかったね」


 閉まった扉を見つめながら、魔王ネリシュはぽつりとつぶやいた。


平成最終日なのでせっかくなので投稿をば。

これでおまけはおしまいです。次から本編が進行していく予定です。

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