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1-おまけ セントの人々

今回はおまけ。


「サイカ、ちょっと金貸し――レナード?」

「久々だな、リニッド」


 サイカが組合を出てからしばらく。リニッドが組合に戻ってきた。

 先ほどまで座っていた席を見ると小柄な討伐者はおらず、代わりによく知る先輩討伐者が座っていた。


「お久しぶりっす。フォルトから戻ってきたって聞いてましたが、挨拶が遅れてすんません」

「いいよ別に。おれはもうお前の先導者じゃないんだし、今挨拶してくれてるしな」


 レナードはかつて新米だったころのリニッドの面倒を見ていた。リニッドがサイカに語った心得も多くはレナードに学んだものである。

 ……当時は口うるさく思ったけど、討伐者やってるうちに納得したよな。

 先導者として面倒を見てもらっていた期間は半年ほどだが、今でも頭が上がらない。


「それで、血相変えてどうしたんだ? しかも年下の後輩に金貸してなんて何事だよ」

「そっ、それはですね……」


 気まずかった。とても気まずかった。

 相手は世話になった尊敬する先輩。その目の前で、自分の後輩に金をせびるというわりとあり得ないことを口走ってしまった。

 どう説明したものか慌てて考えていると、レナードが吹き出した。


「悪い、悪い。だいたい分かってんだ。蛇の刃尾を買い戻そうとしているんだろ?」


 リニッドは泳がせていた視線をレナードに向け、口をとがらせた。

 分かっていてしゃべらせるなんて人が悪い。昔はもっと実直だったはずだ。

 兵士をやっているうちに性格のひねた知り合いでもできたのではなかろうか。


「そうっす。サイカの野郎、刃尾も売っ払っちまってたんすよ。まさか刃こぼれもほとんどない大型の刃尾を売る討伐者がいるなんて思わなかったっす」

「まあ、あいつは売るだろうな」


 くつくつとレナードはおかしげに笑う。レナードはサイカが持っているバケモノみたいな剣のことを知っているのだと察した。

 ……確かに、刃尾を斬り飛ばすような剣を持っているなら刃尾を研ぎ出した剣なんていらないか。

 今さらながら納得する。一級討伐者が愛用するような剣があるなら、わざわざ品質の落ちる武器なんて求めないだろう。それにしてもいらないなら一声かけてほしかった、と思ってしまうが。


「ちょっとくらいなら金貸してやってもいいぞ? 刃尾一本なら金貨十枚くらいか?」

「……二十枚っす」

「……ずいぶん足下見られたな」

「違うんす。刃尾がでかいんす」


 サイカが仕留めた黒刃蛇はかなりの大型個体だった。刃尾も相応に巨大だった。魔法を使わずに切断したおかげで素材としての状態も良い。両手持ちの大剣でも研ぎ出せそうな刃尾ならば金貨二十枚は相場だ。

 かいつまんで説明するとレナードは間抜けに口を開けた。


「……いや、おどろかんぞ。あの黒鎧とやりあってたサイカなら大型個体相手でも引けは取らない。何もおかしいことじゃない」

「今めっちゃ驚いて見えましたけど」

「うるせ。……よしリニッド、折半して刃尾買わねえ? おれも剣を新調しようかと思ってたんだ」

「ほんとっすか! ありがとうございます!」

「おう、そうと決まれば――」

「――いたぁっ!」


 店に行くぞ、とレナードが言い終わる前に荒っぽく組合の扉が開かれた。

 レナードが振り向くより早く扉を開けた本人がリニッドを見つけていた。


「馬鹿兄貴、サイカに会うんなら声かけてよ!」

「ちょ、お前どうしたその格好!?」


 だかだか足音を立てて詰め寄ってきたのはリニッドの妹である。彼女は普段滅多にはかないスカートをはき、そこいらの町娘と区別が付かないような格好をしていた。普段はもっと雑な男っぽい格好を好んでいるのに。リニッドがちょっとくらいおしゃれしてもいいんじゃないかと思って贈ったそのスカートだってまだ二回くらいしかはいたところを見たことがないのに!


「兄貴がサイカと待ち合わせてるって聞いたから慌てて引っ張り出してきたの」

「そっ、それはもしかしてあれか、サイカが気になってるとかあれか」

「は?」


 妹は慌てるリニッドに冷ややかな視線を浴びせた。リニッドは予想外の事態におたおたしている。蚊帳の外に置かれたレナードは怒るでもなく静かに笑いながら二人を見ていた。

 妹はプイとそっぽを向いて素っ気なく言った。


「気になってるといえば気になってるけど」

「マジか」

「マジってどういう意味よ。……ちょっとサイカのうわさをを聞いたけど、あいつうちに誘えないかなーって」

「な、なるほど。家に招いて親しくしていることを周りに見せつけて、外堀を埋めていく感じか」

「外堀ってなによ。兄貴勘違いしてない? あたしは部隊に誘えないかって話をしてるんだけど」


 妹の話を聞いてリニッドは落ち着きをちょっと取り戻した。レナードはつまんなそうにコップに口をつけ、飲み干していたことを思い出して雑にテーブルに戻した。


「フォルトの戦争で生き残るくらいのしぶとさと蛇を一人で撃退できるくらい強くて、しかも単独四級の討伐者。これってもう奇跡じゃない? もう部隊に誘うしかなくない? うちの部隊にももうひとり攻撃力ある人ほしかったしさ、これ以上の人材っていないじゃない! これはもう誘うしか。どうにかして引っ張り込むしかーー!」

「あいつ、今日にはセントを出るけどな」


 気色ばんだ妹の言葉はレナードに冷や水を浴びせられ止まった。

 そこでようやく妹はレナードに気付いた。どうも、と軽く挨拶。

 妹は目をつぶり静かに深呼吸し、もう一度大きく息を吸い、


「ちっくしょー!」


 床を殴りつける勢いで叫んだという。


―――


 支部長とリディは執務室で仕事をしている最中にサイカがセントを去ったという報せを受けた。

 おう、と端的な返事を返し、二人は自分の仕事を続ける。

 そのうちぽつりとリディが口を開いた。


「ところで父さん。蛇の討伐報告の時、サイカに話したことはどこまで本当ですか?」

「どこまでも何も全て本当のことだ。おれが采配を誤ったせいで討伐者が死んだ。サイカに蛇を討伐してもらったから借りができた。どこにもおかしなところはないだろう」

「あるでしょう。そもそも父さんが采配を間違えたというところからして疑わしい」

「そりゃ父親を過大評価しているな」

「いいえ。黒刃蛇の討伐について、通常個体なら派遣した討伐隊で十分だったでしょう。ですが父さんはサイカから大型個体と聞いていた。それなのに通常個体に対するものと同等の部隊を送る? それもサイカと戦った直後の、間違いなく警戒心を強めている蛇に? そんな私でも分かることが本当に分からないなら、父さんは早く支部長なんてやめるべきでしょう」

「いくら娘だからって無遠慮が過ぎないかお前」

「……私が懸念しているのは、父さんがリニッドたちを使い捨ての駒にしたのではないか、という点です。父さんはあえてサイカに借りを作ることで、何か問題が起きればすぐに自分に連絡を取ってくる状況を作りたかったのではないですか? 噂に聞いたハズレの勇者ならば蛇を倒せると見込んだ上で」

「そう睨むな。おれだってそこまで腐っちゃいない。リニッドたちならうまくすればあの戦力で蛇を倒せた。レナードを組み込みたいところだったが、討伐者としての活動期間が空いていたあいつじゃ戦力にならん。蛇と戦える、部隊として動ける連中は最大限投入したさ。……まあ、リニッドに何かあればサイカが動くだろうとは思っていたがな」

「本当でしょうね」

「本当だ。予想以上にうまくいっておれが一番驚いている。蛇を放置してサイカが街を出ていくことまで想定していたんだぞ?」

「……ちなみに、そうなっていたらどうするつもりだったんですか?」

「おれが出たさ」


 リディが部屋の隅に視線をやる。

 そこにはよく磨かれた大剣があった。


落ち着いてきたのでまた書き始めました。

今回とあと2話くらいおまけを投稿する予定です。

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